記憶
あれは十年前のことだ。
ラミィはまだ六歳、クァルトは二つ上なので八歳だったはずだ。
サージュの大公である父に連れられ、体調の優れない姉を国に残し、兄と共にファニア王国を訪れたのは、両国の親睦を深めるためだったと記憶している。
しかし格式ばった晩餐会はラミィにとってとても退屈で、許可を得て庭を散歩しているとき、同じく晩餐会を抜け出してきたクァルトに会ったのだ。
そのとき、彼はラミィにルトという愛称を名乗った。
ふたりはすぐに意気投合し、七日間の滞在期間中、頻繁に会っていた。
そしてラミィがファニア王国を離れる前の日、クァルトがすごいものを見せてあげる、と言い出した。
好奇心旺盛なラミィは二つ返事で賛成し、クァルトの案内でこの洞窟にやってきたのだ。
そしてついさっきと同じように、不用意に一歩を踏み出したラミィの足場が崩れて落下しかけ、クァルトに助けられたのだ。
当時はクァルトもまだ子どもだったのでラミィを引き上げるのは容易ではなく、ラミィは恐慌状態で暴れてしまったので、あれは本当に命がけだった。
そんな苦労の末、ようやくたどり着いたテュクティエは、ラミィの瞳と同じ色の、翡翠をふんだんに使ったティアラだった。
かつてこの洞窟にはファニア王国の国守竜・テュクティエが棲んでいた。
そしてファニア王国に嫁いできた姫に翡翠を贈った。
それをティアラに仕立てたものが今、ここにある秘宝・テュクティエなのだといわれている。
国守竜テュクティエは王国に平和が訪れたのを見届け姿を消したが、秘宝は残された。
以来、ファニア王国の王妃となる者は、テュクティエの前で誓いをかわし、そのティアラを頭に戴くことにより正式な王妃と認められるのである。
十年前のあの日、ラミィはクァルトから問われた。
「今はまだ無理だけど、俺はラミィともっとずっと、一緒にいたい。ラミィはどう?」
「わたしも! ルトとずっとずっと一緒にいたい!」
ラミィの返事を聞いて、クァルトは嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、きみにこれを。今は、まだあげられないけど、一回だけ、のせてあげる。約束のかわりだよ」
ラミィは、間近で見るテュクティエの美しさに、すごくどきどきした。
頭の上にそっとのせられたテュクティエはとても重くて、首を縮めてしまうほどだった。
けれどその重さも、美しいティアラの重さだと思えばなんてことなかったし、またいつか、クァルトと一緒に遊ぶ約束ができたのも嬉しかった。
このとき、ラミィがファニア国王の王妃となることが約束されたのだ。




