ルト
ガクン、という衝撃がラミィの体に伝わり、落下が止まった。
「大丈夫かっ!?」
ラミィは返事をすることできず、ただ破裂しそうな心臓の鼓動と、右肩の痛みを感じていた。
血の気が引いているのがわかる。
(助……かっ……た?)
見上げると、崖の端から身を乗り出し、ラミィの右手をしっかりと掴んでいるクァルトの姿があった。
クァルトの顔の向こうに、天井から射す細い日の光が幾本も見える。
そのとき、クァルトの顔に、幼い少年の顔が重なった。
今よりもぷっくりとした頬、丸みを帯びた瞳。
けれどその黄金色の瞳に心配そうな色が滲んでいるのは同じだった。
「ルト……」
ラミィの口から、記憶の中の呼び名が零れる。
クァルトの、黄金色の瞳が驚きに見開かれ、次いで優しく細められた。
「昔みたいに暴れるなよ。今引き上げてやる」
くすりと笑ったかと思うと、クァルトは片手でひょいと、いとも容易くラミィを引っ張り上げた。
勢い余って、ラミィはクァルトの胸に身を預ける形になる。
一見すらりとしているクァルトの、胸のたくましさを感じて、ラミィは激しく動揺する。
「あっ、あのっ、ありがとっ!」
慌てて身を離そうとしたラミィを、クァルトがぎゅっと抱きしめた。
「無事でよかった」
「ルトッ!?」
「そして、思い出してくれて、よかった」
耳もとで、囁かれたクァルトの言葉に、ラミィの胸が苦しくなる。その声からはクァルトが心から安堵していること伝わってくる。
(なんで忘れてたんだろう、わたし……)
ラミィは、昔、この場所へ来たことがあった。
そしてテュクティエの前で、結婚の誓いを交わしたのだ。
ルト――クァルトと。




