祭壇
「すごい……」
ラミィは目の前に広がる光景に、感嘆の声を漏らした。
狭い洞穴を抜けたそこには、おそろしく広い空間が存在していた。
サージェ公国の大公の城にある中庭がすっぽりと入るに違いない。
頭上を仰げば、遥か彼方に天井の岩肌が見え、そこから無数の日の光が射しこんでいる。
どうやらここの天井には小さな穴が幾つもあいているらしい。
雨のように降りそそぐその光のおかげで、空間内は角灯がいらないほどに明るかった。
今ラミィが立っている場所のすぐ先は急な崖になっており、下方を見やれば地下水や雨水が流れ込んでできたと思われる川が流れている。
周囲にはどこから転がり込んだのか、ごろごろと大小様々な岩が転がっているので、それらを上手く利用すれば下までたどり着けそうだ。
「テュクティエはあそこの……」
「池の中央にある祭壇の上、でしょ?」
クァルトが最後まで言う前に、ラミィがその言葉を継いだ。
川の水を引いた池が、空間のほぼ中央にある。その池だけは、人の手によって作られたものだということが遠目にもわかる。
ここからだと、池の中心に浮島のようなものがあるのは見えるが、秘宝の有無までは確認できない。
けれどラミィには何故かわかった。
「思い出したのか?」
「よくわからない。でも、あの池を初めて見る気がしないの」
池の中には何層もの段があり、端から中央に向けて盛り上がる形になっている。
その階段を上りきった場所に小さな祭壇が作られ、その上に翡翠色に輝くテュクティエがある。
その様子が鮮やかに目に浮かんだ。
ラミィは目の前に甦った幻のテュクティエに近づこうと、無意識に一歩を踏み出していた。
そのとき、ラミィの足元で不吉な音がした。支えるものを失ったラミィの体が、宙に投げ出される。
崖の端が崩れたのだ。
(落ちるっ!!)
「いや―――っ!!」
「ラミィッ!!」
クァルトの声が、頭上で聞こえた。




