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追っ手の標的

 洞窟はどこまでも続いているように思われた。

 石灰岩が侵食されてできたこの洞窟内はひんやりとして涼しく、ところどころ天井から鍾乳石が垂れ下がっている。

 天井の低い箇所では、それらにぶつからないように気をつけながら先に進まなければならない。

 そんな要注意箇所ですら、クァルトは把握しているようだった。

 分かれ道も、迷うことなく進んでゆく。

 王家が管理するこの洞窟内の様子を詳しく知っているのは、王族かここの管理を任されている者しかいないはずだ。


(もしかして、クァルトって……)


 ラミィがそこまで考えたとき、遠くで足音が聞こえた。


「まさか、追っ手!?」


 ラミィは素早く背後に視線を向けた。

 洞窟内の道は曲がりくねっているので、人の姿はまだ見えない。

 けれど、このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。

 まだ、なにもしていない。

 ここでつかまるわけにはいかないのだ。


「どうしよう!」

「もう少し行けば、隠れられる場所がある。急ごう」


 クァルトがラミィに向かって、角灯を持っていないほうの手を差し出した。

 藁にもすがる思いで手を伸ばすと、大きくてあたたかい手が力強くラミィの手を握った。


 男の人の手だ。


 そう思った途端、ラミィの心臓が跳ねた。

 思わず手を引っ込めそうになったが、クァルトはしっかりと握って放さない。


「地面が濡れていて、危ないから。滑って転んだりしたら大変だろ?」


 ラミィはこくり、と頷いた。


「よし、走るぞ」


 クァルトに手を引かれ、ラミィはばくばくと高鳴る鼓動を感じながら駆ける。

 足音が迫ってくる。

 洞窟内に反響する足音のせいで、ラミィたちがいることは相手にもわかっているはずだ。


「ここだ」


 クァルトがラミィをでこぼことした岩の陰に押し込んだ。岩の後ろに細い隙間がある。


「こんな狭い場所じゃ……」


 ラミィひとりですら身を隠すことはできない。


「奥に空洞がある。そっちへ進んで」


 そっと暗闇に手を伸ばすと、そこにはクァルトの言うとおり空間があった。

 ラミィがその中に体を滑り込ませるのとほぼ同時に、背後から灯されていた明かりが消えた。

 クァルトが角灯の火を消したのだ。


 手探りで奥へ進んでいると、岩壁の向こう側を駆け抜ける幾人もの足音が聞こえた。

 彼らの声もよく聞こえる。その中に指示を出す女性の声が混ざっているような気がしたけれど、確かめる前に別の声がすぐ傍で聞こえた。


「陛下! ご無事ですか? 陛下――!」

「陛下ーっ!」


(陛下?)


 聞こえた声に、ラミィは自分の耳を疑い、その場に立ち尽くした。

 幾人もの足音と声が次第に遠ざかってゆく。

 違ったのだ。

 彼らはラミィを捜していたのではない。彼らが捜しているのは――。


 ぽっ、と明かりが灯される。


 クァルトの姿が、闇の中に浮かび上がった。

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