謎の同行者
クァルトと名乗った長身の青年は、足取り軽く洞窟内を進んでゆく。
(なんだかこの洞窟にすごく慣れてるような気がする……)
その背中を眺めながら、クァルトは何者なんだろう、とラミィは考えを巡らせる。
ファニア国王とサージェの第二公女との結婚を中止にしたいとは穏やかじゃない。明日には、両国を挙げての華やかな婚礼が行われる予定になっているのだから――。
この洞窟の奥にあるという秘宝テュクティエは、ファニア国王の婚礼に欠かせないものなのだそうだ。洞窟は王家の管理下にあり、結婚するふたりはテュクティエを前に誓いをかわさねばならないのだという。
だからテュクティエがなければ、婚礼はできないのだ。
「ねえ」
ひとりで悶々と考えるのに飽きたラミィは、前をゆくクァルトの広い背中に向かって呼びかけた。
「なに?」
手に角灯を持ったクァルトが、足を止めて振り返る。
「あなたも秘宝がほしいの?」
「俺はいらないよ。ひとつだけ約束してもらえたら、君にあげてもいい」
「え?」
驚いたラミィは、立ち止まり瞬きを繰り返した。
「俺は秘宝に興味ないから。とりあえず明日の婚礼さえどうにかできればいいんだ」
ラミィはクァルトの表情をじっと観察した。嘘をついている様子はない。
まがりなりにも王家の秘宝だ。相当な価値があるはずなのに、それをこの青年はいらないと言う。金には困っていないということだろうか。
「かっ、勘違いしないでよね! わたしだって、別に手に入れた秘宝をどうこうしようなんて思ってないんだからっ!」
その辺のがめつい女盗人かなにかと勘違いされてはラミィの沽券に関わるので、強い口調で主張する。
しかし返ってきたのは「知ってるよ」という穏やかな言葉だった。
ラミィは予想外のその言葉に口をぽかん、と開けて動きを止める。
(し、知ってるって、いったいなにをっ!?)
聞こうと思ったが、クァルトは既にラミィに背を向け、すたすたと歩き始めている。
ラミィは染めたばかりの、ごわごわとする自分の黒い髪にそっと触れる。
クァルトが追っ手ではないことはわかっている。けれど――。
(もしかして、わたしの正体を知ってる?)
変装のため町娘風の服に着替えたし、髪の色も金から黒へと変えた。ここにくるまでに失敗はしなかったはずだ。
それなのになぜ――。
なにを考えているのかよくわからない青年の背中を見ながら、ラミィは唇を噛んだ。




