婚礼の行方
「さあ、ここまで引っ張ったんだから、もういいでしょう? ほら、今回は十年前みたいに
非公式なんてことにならないように、証人となる神官長も連れてきたのよ。ということで、今から婚礼をしましょう!」
にこやかに宣言したラニーの後ろから、神官服を着た老人がおずおずと進み出る。
「……と殿下はおっしゃるのですが。陛下、いかがなさいますか?」
困惑顔の神官長がクァルトに訊ねる。
「俺、は……構わないけど……」
「まっ、待って! ちょっと待って! わたしはついさっきいろいろ思い出したばかりなのよ。そんなの無理! もっと……もっと今のわたしを知ってほしいし、もっとルトのことを知りたいしっ……」
あやうく、ラニーの勢いに乗せられてこのまま結婚ということになりそうで、ラミィが慌てて主張する。
「あなたまだそんな夢みたいなことを言っているの? まあ、それでこそ、私の可愛い妹だけれど。仕方がないわね。あなたがそう言うのなら、今回は諦めましょう」
残念そうに、でもあっさりとラニーが言うのを、ラミィはほっとしながら聞いた。
なんだかんだ言っても、この姉はラミィがいやがることはしないのだ。ラミィにとって、ラニーは賢くてきれいな自慢の姉だ。
クァルトはぽりぽりと頭を掻いてから、ふいにラミィの顔をのぞきこんだ。
「じゃあさ、ラミィ。ひとつだけ約束してくれる?」
「な、なに?」
約束、という言葉に、少し緊張しながら応える。
今度は、絶対に忘れないようにしないと。
「いつか、俺と結婚してくれないか?」
クァルトの真剣なまなざしが真っ直ぐラミィに向けられている。
「そ、それはっ……もちろん。テュクティエの前で誓ったんだもの」
ラミィは恥ずかしさに耳まで真っ赤に染めながら、小さな声で答えた。
「よかった。でも、口約束だけじゃ、また忘れてしまわないか心配だな」
クァルトが思案するように腕を組んで言う。
「失礼ね! 確かにわたしはお姉さまみたいに頭がよくないけど、今度は絶対忘れないわよ! どんな高熱を出したって、覚えているわ!」
憤慨するラミィに向かって、クァルトはにやりと不敵に笑った。
思わず身構えるラミィに、ずいとクァルトが近寄る。
「ねえ、おまじないをかけてあげようか」
「え、絶対に忘れないおまじないがあるの?」
思わず興味をひかれて身を乗り出してしまったラミィを愛しそうに見たクァルトが、その頬に優しくキスをした。
「っ!! なっ、なっ――!」
言葉が出ないラミィを見て、クァルトがくすりと笑う。
「これで、きっとラミィは忘れない。だろ?」
「こっ、こんなの、忘れられないに決まってるじゃないの――っ!!」
頬を手で押さえながら叫ぶラミィの声が、洞窟内に響き渡った。
了




