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第伍話:「ワタシの過去」

第伍話 「ワタシの過去」


今から3年前。私は交通事故で実の両親を失ってしまった…そこころは、まだ小学校だった私にはこのショックは耐えられなかった。


私はその後父親の弟夫婦の家に預かられ、普通に学校にも通い続けていた。季節は冬になり、

例年はとは違う鋭利な刃物で刺されるような寒さの中、私はマフラーに顔をうずめながら帰っていた。もうすぐ学校で文化祭が開催されるので、準備のため下校する時には空は炎のような赤い空ではなく、墨を塗ったように黒く染まった空が顔を見せていた。

時間は…5時半ぐらいだろう…私はまっすぐ家には帰らず、近くの公園のベンチに座り、

だんだん星が広がってくる空を見ながら涙を流す…毎日のようにしていることである。

家には何時に帰っても夫婦は優しく出迎えてくれる事を私は知っているので、毎日学校の帰りにここに寄って、両親の事を思い出しながら泣くのである。

10年間一緒に暮らしてきた両親が突然いなくなる。自分だけを残して…

しかし、私は毎日学校や家ではそのような悲しい顔は出さない。周囲の人に心配をかけたく無いからである。私は毎日無理に心からの笑顔を作り、明るく元気な女の子を演じ続けていた。

この公園のベンチだけが素の自分を出せる唯一の場所なのである。


少し経つと、辺りは真っ暗になり私を帰るように言っているようだった。私はゆっくりとしかし、しっかりと家へ向かい歩き始める。


ガチャ


家のドアを開けて中に入って「ただいまー!」と無理に元気な声で夫婦に帰宅を知らせる。

おばさんが出てきて、「春香ちゃん、今日は遅かったのねぇー もう夕飯できてるわよー」

と私に言った後リビングへ戻っていった。

私は部屋に行き、ランドセルを置いた後少し考え込んだ。私はこの世界にいる理由があるのだろうか…?なぜ両親は私を残して逝ってしまったのだろう…?などと自分に質問を繰り返し、もう耐えられなくなってきてしまっていた。


ある夜、彼女は聞いてしまった。夫婦が自分について話していることを…


━だから言ったじゃない。あの子どうして、違う所に渡さなかったの?

━しかたないだろ…私は兄さんの弟なんだし、引き取るしかなかったんだ…

━あの子を手放さなかったら、私たち破産してしまいますよ!

━わかってる… わかっているんだが…

━じゃあ私が明日私の兄さんの所に連絡してみるわ。

━あぁ…彼女にはもうしわけないが、そうするしかないみたいだな…


私は呆然としてしまった。この夫婦は毎日私を心から愛してくれているとしんじていたのに…

それなのに…私をペットのように親戚に渡すなんて…ヒドイ…ひどすぎる…


私はその日から周りの人が信じられなくなってきた…いつもの明るく元気な女の子ではなく、

素の自分になっていた。今の私も周りの人を完全に信用なんてしていない…

私はやはりこの場所には必要とされていない…と感じ、この前よりも長く公園のベンチに座っていた。私は両親に助けを求めたかった…


一週間後、私は義母のお兄さんの所へ引き取られた。私は見てしまった。あの時義母が見せた表情。やっとお荷物がなくなったと言っているように喜ぶ顔…私はこの世界はおかしいと感じさえした… お兄さんの家は豪華で大きかった。しかし私はちっとも嬉しくなかった。


やがて私は6年生になり、学校も転校したのでおとなしい性格で通すことを決めた…

もう誰とも話す気にはなれなかった…友達も、ましてや親友などいるはずが無い…

私が唯一楽しみとしていたのは読書である。本を読むと自分の知らない事がどんどん無くなっていく事がとても楽しく思えた。私は友達を作るよりも読書に夢中になっていた。

学校にいる時も、家に帰っても…読書ばかりしていた。


しかし、お兄さんの家での生活も長くは続かなかった…

ある日お兄さんは、「会社が倒産した…」と言い家を追放されてしまった。もちろん私もだ…

豪邸からアパートへと引っ越した私たちには、とても困難な生活が待っていた。

そしてまた私は聞いてしまう…お兄さんの夫婦が喋っているのを…

━ねぇ、本当にあの子を手放してしまうんですか?

━しょうがないだろう…この前とは違って一文無しになってしまったんだ…彼女を養うお金なん                   て…この家には無いだろう…

━しかしねぇ、あの子の気持ちも考えてみなさいよ…一回捨てられているのよ?

━そんなのわかっているに決まっているだろ!俺だってできるなら一緒に生活したい。だが…


私はなぜこんなにも大人に振り回されるのだろう…?私は犬や猫とは違う…ちゃんとした人間なのに…なのに…


翌日、兄夫婦から私がある中学校の校長先生の家に引き取られると告げた。昨日の夜聞いてしまっていたので私は冷静に、「はい…わかりました…」と答え出て行く準備に取り掛かった。


準備が整うと、お兄さんはその校長先生に電話をして私を迎えに来るように言った。

私は泣きたいのをガマンし、自分の部屋の真ん中で正座して待っていた…

少しすると、


コンコンコンッ


と扉を叩く音が聞こえ、玄関の方からおじいさんの声が聞こえた。

「本当によろしいのですか?」 「はい…しかたないんです…」 「よろしい…」

話は全て私の耳に届き、私をもっと悲しくさせる…

自分の部屋のふすまが開けられ、お兄さんが「行く時間だ…」と一言だけ言い、私を玄関まで連れて行った。そこには背の低い口ひげをはやしたおじいさんが立っていた。

「お前さんが桜井 春香さんじゃな…」とおじいさんは言ったので私はコックリとうなずいた。

「お前さん、つらいだろうが私の所でずーっと暮らすがよい…」とおじいさんは言ってくれたが、私は信用ができるわけがない…どうせまた違う人に引き取られると思いながらも、私はおじいさんの車に乗り込んだ。後ろを見ると兄夫婦がこちらを悲しそうな目で見ていた。どこまでが本気なのかわからないので、その顔を私は嘘だと解釈する…車が走り出した。

私は車中ずっと外を眺めていた。段々と景色が山になっていく…綺麗だと思いながらも、無表情だと自分でもわかった。



1時間ぐらい経っただろうか?車はある山のふもとで停車した。私は校長先生に降りるように言われて、降りてみた。目の前には大きな山、こんな所に家などあるのだろうか?

校長先生は私についてくるように言い残し、先を走り出した。私は見失わないように急いで追いかけた。山道はとても険しく、入り組んでいた。家の影さえ見えてこない…

10分ぐらい山道を登っているとやがて、開けた場所に出た。


そこには今住んでいる家の門が立っていた。

その後私は翔君と同じように部屋をもらい、ここの生活に慣れていった。

校長先生は私に1年間の休みをくれた。私には心と体の休息が必要だと言われたので、言われた通り一年間この家で過ごした。なので、私は中学2年から翔君のクラスに転校生としてやってきたのだ…

「君は僕よりも過酷な過去を持っていたんだね…」と彼女の髪をとかしながら僕は慰めるように言った。僕は両親の顔を写真の中でしか見たことがないが、彼女は10年間過ごした両親が急に他界してしまうとは…

「髪もう大丈夫みたい」と彼女は言ったので僕は持っていたクシを彼女に返しながら、

「ねぇ?君って友達いないって言ってたよね?」と聞いた。さっき話の中で言っていたからである。彼女はこっちを向いてコックリとうなずいた。

「ならさ?僕が君の友達になってあげるよ!だれも信用できないんなら、僕を信用してくれればいい。僕は君に誓うよ。僕は君を絶対に裏切ったりはしない。だから…友達になろう?」と僕は初めて自分から「友達になろう」と言った。

桜井さんは僕の目をジーっと見つめた後、「本当に信用していいの?」と僕に再度確認してきた。

僕が自信をもって「もちろん!」と答えると、彼女は僕が今まで見たことないくらい笑顔になった。喜んでいるみたいだ。「ねぇねぇ?もっと明るく喋ろうよ。小声じゃなくてさ?」と僕が少しアドバイスのような事を言うと、「うん」と言ったがさっきと違い、普通に喋っていた。

「加藤君。私加藤君の事、翔君ってよんでいいかな?」と急に聞かれた。桜井さんに下の名前で呼ばれる!僕は心の中が焼きそばパンを入手した時ぐらいフィーバーしていた。

「あ…う…うん。もちろんいいよ。」と僕は恥ずかしがりながら答え、彼女にも質問をした。

「じゃあさ、僕も君の事『桜井さん』って読んでいいかな?」彼女は少しニコッっとして、

「いいよ。友達なんだからね。」と友達を強調して言った。さっきよりも喋り方が断然明るくなっていた。こっちのほうが、顔にあっている気がする。


その後僕と桜井さんは共に自分の布団に入った。彼女は布団に入る前にふすまを閉じた。

どうやら寝顔を見られたくないらしい。


僕は桜井さんの部屋が気になりながらも、目を閉じた。

今日は桜井さんと正式に友達になれた。それだけで、一日分の嫌な事が全て吹き飛んでしまった。

今まであんなに暗かった彼女の顔が、あんなに笑顔になったのは彼女に会ってから初めてである。

(けっこう可愛かった…)

しかし、桜井さんの過去があんなにも過酷な物だったとは…正直ビックリである。

あんなにも大人の事情で振り回されて…僕だったら、何をしでかすかわからない…もしかしたら、家族を皆殺しにしていたかもな…


そんな事を考えているうちに、自然と眠りについた…



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