ホットサンドプレート
ホットサンドプレート、というものを買った。パンにチーズやらハムやらを挟み、内側についている鉄板で圧して完成する代物だ。熱で内側のチーズが溶けるとピザのようで美味しいのだ。
店の奥に鎮座してたので懐かしくなって買ってしまった。昔は家族で囲んで作ったのだ。
私はそそっかしく、よく火傷をしたので焼くのは母だった。焼き始めて少し経つとチーズの焦げる匂いが小麦の香りと共に漂う。その時間が何より好きだった。
焼きあがったら蓋を開ける。まるで宝箱を開けるかのような気持ちだ。柔らかい匂いを感じながら切り分ける。ざくざくという音がチラシの上で響く。それだけでわくわくした。
焼き上がりを待つまでにそんなことを思い出した。人の記憶を鮮明にするのは嗅覚と言うが、あながち間違いではないのだろう。小麦の焼ける匂いが部屋に漂っていた。パッキンを外し蓋を開けると、程よく焦げ目のついたトーストが目の前に現れた。
いい匂いだ。口元が思わずほころんだ。この程度で幸せになれるなんて安い人間だとも思ったが、この際それでいい。まだ熱いそれをまな板の上に乗せて切る。そして焼き色のいい方を取り、かぶりついた。
じゅわ、とチーズとハムの味が口に広がる。美味い、と思うと同時に、これはタバスコも合うかもしれないという好奇心が顔を出した。
近々、家に帰ってみようか。父はもういないが、あの頃の家族の姿が垣間見えるかもしれない。