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結果として、映画はとても素晴らしいものだった。

最近名の売れ出したアニメーターが手がけた映像のクリオティーの高さ、ストーリーも特撮もので、美少女が出てくる戦闘アクション。悪の組織に恋人を殺された、ヒロインの復讐劇。

 片桐は大満足したし、ヤマトもラストは大変興奮していた。クシナダにいたってはヒロインの気持ちに同調しすぎて、復讐を成し遂げたラストには泣いていた。

 三人ともそれぞれ満足する結果で、映画館でパンフレットも購入し、近くの喫茶店で感想を話し合った。

 クシナダがあの撃ち方は嘘ぽいとやや辛辣に感想。ヤマトは敵の格闘家の技がかっこよかったというし、片桐はヒロインの戦闘シーンをひとつ、ひとつパンフレットを見て評価した。

 そんなこんなでたっぷり一時間ほど話し合ったあとは移動のために駅ビルにはいった。ここではショッピングの予定。

 クシナダが、自分で女だというように彼女も年頃らしく服とか買いたかったのだろうかと片桐が考えての選択だった。

 本部を出るときはかなり強引だったが、この外出そのものは片桐を連れ出すためのもので、ヤマトもクシナダも全面的に片桐が行きたいところに付き合うつもりらしく、片桐が行くところに反対はしない。

 駅ビルの三階の女性向けの服が並ぶなかで、クシナダは嬉しそうに笑った。やっぱり女は服か。クシナダにはいろいろと世話にもなっているので好きなだけ服を選んでもらえばいい。

「クシナダ、好きなだけ買い物しろよ」

「いいの?」

「いいよ。そのためにきたし」

「片桐」

 クシナダは驚いた目をしたあと、微笑んで

「ありがとう」

 片桐とヤマトは大人しく、別の階にある喫茶店にはいって待つ。

 クシナダは両手いっぱいにブランドものの紙袋を持ってやってきた。待つ時間はわりと短かった。ヤマトがいて、映画の感想を話し合っていたおかげかもしれない。

「そうだ。片桐、お前寒かったよな?」

「うん?」

「ほら」

 袋の一つからクシナダはマフラーと手袋を取り出して片桐に与えてくれた。

「いいの?」

「ああ」

 せっかくのプレゼントを、片桐はありがたくいただくことにした。質がいいものらしく、身につけると、とてもあたたかい。

「えー、クシナダちゃん、俺はー」

「お前にあるわけないだろう」

「けちだ。けちすぎる」

 唇を尖らせて悔しがるヤマトに片桐は思わず笑ってしまった。するとクシナダは仕方ないと肩でため息を一つすると、袋から黒いジャケットを取り出してヤマトに差し出した。

「ほら、お前には、これ」

「これ?」

「いやか?」

「まぢで?」

 ねだってくせにもらえるとは思ってなかったようで、ヤマトは面食らっている。

「まぁ付き合ってくれているお礼だ。お前、上着一つないのに寒そうでもないが、見ているこっちは寒い。着ろ」

 ヤマトは長袖にジーパンというラフなスタイル。鍛えた肉体が見ている分にはかっこいいと思うが、冬には薄着すぎる。

「付き合うって、俺も楽しんでるし、ああ、けど、もらっとく。オーケー着るよ」

 にやにやと笑いながらヤマトはジャケットに袖を通すと嬉しそうに軽くポーズをとる。

「どうだ、片桐」

「ああ、ジャケットはいいな」

「お前な」

 ヤマトが睨みつけてくるのに片桐はふんと鼻で笑う。険悪な二人にクシナダは笑って間を取り持った。

 そのあと三人でゲームセンターのあるカラオケ屋に行き、そこでまず一時間ほど歌った。一時間では足りずに延長して三時間になった。

ゲームセンターでクシナダの得意のダンスゲームに、格闘ゲームで対戦して時間は瞬く間に過ぎた。

 すでに夜の八時。まだ三人としては遊んでもいい時間帯だが、そのとき片桐の携帯電話が震えた。

「はい?」

『片桐か? そこにクシナダとヤマトいるか?』

 ぶっきらぼうな声はフウマ幹部の伊野島のものだ。十以上年上だが、立場としては片桐のほうが上だが口調には礼儀というものはあまりない。いつものことだ。

「うん。いるよ。なに?」

『仕事だ。おい、うるさいな。ちょっと落ち着いて話せるところにいってくれないか』

「わかった」

 片桐が目配せすると、クシナダとヤマトも気が付いたようだ。ゲームをやめて三人はじゃかじゃかとうるさいゲームセンターから外へと出る。

 ネオンが輝き、あっちこっちの店の呼び込みが立って声を張り上げている。それでもゲームセンター内よりはずっと静かだ。

「で、仕事ってどこ?」

『やくざの事務所。まぁちっちゃいところだけど、そこも麻薬組織と手がつながってる』

 ヤマトの情報と、日々フウマの幹部たちによる攻撃で、麻薬組織はだいぶ弱まっている。しかし、まだ決定的な一手は打っていない。

 今は麻薬組織とつながっている他の組織をつぶして牽制をかけている状態だ。ほとんど壊滅状態だが、だからこそ、ここで油断すれば相手がなにを仕掛けてくるかわからないので用心が必要だ。

 潰すならば徹底的に潰す。容赦も、寛容もない。

『大切なところはメールで送る。で、お前らどこ? 武器はどうする』

「ああ、駅の近く。場所を確認したら、その近くにあるところで武器は調達するから」

『よし、頼む。連絡しとくわ』

 早口に自分の現在地を告げたあと、携帯電話を切った。

「だいたいわかってるだろう? 仕事だとよ。いますぐに近くにあるフウマの店に行く。そこで武器調達。いいか?」

 こういうとき、三人のなかで指揮をとるのは片桐の役目になる。いくら年下でも、幹部としては二人よりも上に位置するからだ。

 二人とも黙って頷き、片桐に従う。

 この二人も、――クシナダは大切だ。ヤマトはまだ信用しきれないが、それでも嫌いではない。

 根にある部分で信頼がある二人を見ているとつくづく思う。

 俺らって変な三人組みかも。


 東京といわず、日本のあちこちにはフウマの施設がいくつも存在する。昔は不便していた幹部の情報伝達も、ポケベル、携帯電話の普及で容易くなり、それにあわせてどこでも仕事ができるようになった。

 ただ仕事の詳細や武器を手にいるにはある程度のスペースが必要となり、カモフラージュとしていろいろな店――喫茶店、コンビニといったのが主な武器、情報伝達のための施設として置かれている。これらはどこにあっても不思議ではないし、誰がはいっても不審に思われることもない。本部としては情報の伝達と武器を殺し屋たちに渡せればいいので、儲けについてはあまり気にしていないのだが、それなりの繁盛しているという。

 その一つ――駅前から少しいったところにあるコンビニに片桐たちは訪れた。カウンターにいた中年の店員は片桐たちの顔を見ると、頷き、奥へと案内した。

 テーブルとロッカーの置かれた最低限のスペースに、大きなモニタが置かれている。

「こちらです」

「ん」

 渡されたファックスできたらしいプリントアウトされた紙には今から襲う敵のアジトの場所が乗っている。それを片桐は一瞥してクシナダに渡す。それをクシナダは目を通したあと、ヤマトへと渡す。

「武器は?」

「三番から四番のロッカーに」

 片桐は言われたとおりロッカーをあけ、中を確認する。ぎっしりと詰った黒いボディの銃が見える。まず三人は戦いに備えて防犯服を着こむと、その上から黒のジャケットを着こみ、それぞれに武器を選ぶ。

 片桐はFN社のFNCアサトルライフ。クシナダはSOPMODM14ライフル。そのなかでヤマトだけが困り果てていた。彼は銃にずぶの素人なのだ。

「なにしてるんだよ」

「銃は苦手なんだって」

「素手で殺す気か?」

「お、それ、いいな」

 ヤマトは笑うが、その目は真剣だ。この男ならば素手で敵のなかにつっこんでいっても無事だろうが、丸腰というのは気がひける。

「あー、まってろ。……これ」

 そういって片桐はグロック17ピストルをヤマトに渡す。いくら素人でもこれくらいなら使えるだろう。

「サンキュー。っても、使わないだろうけどな」

 ヤマトは嬉しそうに笑って銃をズボンのなかにねじ込む。その様子に片桐はまたしてもため息をついた

「ちゃんと気を付けて扱えよ? 自分で自分の足とか撃つなよ」

 ヤマトならやはりあそうで片桐は心配する。

「たぶん大丈夫だろう」

「ったく、信頼していいのか」

 片桐は呆れたまなざしをヤマトに向けるが、けらけらと笑って手をふるばかりで軽いノリ。

「あと、アマテラス様からの命令で、麻薬を回収しろ、とのことです」

「わかった。回収できれば出来ただけでいいんだな?」

「そのように伺ってます」

 命令はすべて聞き終えた。あとはやるだけだ。このときの高揚感――大好きだ。


 目的のアジトまでは車は使わなかった。

 理由は二つ。

 近いことと、地形を見ると路地が狭く下手すると車が動けなくなる可能性があるからだ。

さして大きくもないアジトでこの三人ならば時間はかからないだろうと片桐は踏んだ。

 アジトは二階建て。

 一階は車などを置くためのスペースとなっていて、その右隅に狭い階段。二階が事務所となっている典型的なヤクザがよく使う建物だ。

 先頭を務めたのはヤマト。彼は素早く二階へとあがると、ドアを掌打で鍵を壊すと突撃した。その後ろには片桐が続き、ヤマトが近くの敵を拳で叩き殺すのに、銃で遠くの敵の頭を撃つ。さらにクシナダは片桐が手のまわらないところを務める。

 三人の見事な連携プレイによって、アジトの占拠には五分とかからなかった。

 敵の血まみれの死体と薬莢と火薬のにおいが零れ落ちる。

「ここに麻薬があるはずだ。それをいただいていく」

 片桐はそういうと死体をまたいで奥へと進む。

 それほどに広くないアジトのなかだ、三人は手分けして探すのに片桐は奥にさらに部屋を見つけた。ドアを叩き開けると、銃を構えた男が血走った眼をしていた。しまった、と思ったときに後ろから掴まれて床に転がされた。片桐が起きると、ヤマトが片手に銃を持ち、引き金を引いて的を殺していた。

「おお、あたった」

 ヤマトは子供のような声をあげる。相手の男の額が見事に撃たれ、狭いトイレのなかに血肉が散る。

「平気か、片桐」

「……ああ」

 むっつりと片桐は言い返す。本当は少し危なかったが、それを素直に認めるほどに可愛い性格はしていない。

「俺が叩きのめしたのに」

「ははは、わりぃ、つい手がでちまった」

 ヤマトは朗らかに笑うと、やくざの死体を片手で持ち上げてトイレのなかから引きずり出すと、さらに石作りのトイレのポンプに向けて数発撃った。

 ポンプが破壊され、水があふれる。そして、その中から白い粉を包んだビニール袋かあらわれた。

「まぁ、よくある隠し場所だよなぁ」

「そうだな」

 トイレのなかや冷蔵庫のなかなどはわりと隠し場所としてはありがちだ。ヤマトが差し出してきたのに片桐は確認すると頷いた。

「これだけあればいいだろう」

「ああ。撤収するぞ」

「なぁ片桐」

「なんだよ」

 さっさと立ち去ろうとするのに呼び止めるヤマトに片桐はぶっきらぼうな声で応じる。

「俺ら最高じゃないか」

「なんだよ、いきなり」

「だからさ、つまりは……最高のチームじゃないか?」

 片桐は黙って顔を背けると、別のところにいたクシナダが顔を出して微笑む。殺しの場にはあまりにも不似合な優しさと友情に満ちたそれは片桐とヤマトに向けられる。

「そうだな。なぁ、私たち、いいチームだな」

 片桐はやはり黙っている。そして二人には何も言わずに歩き出す。

「おい、片桐、なんか言えよ」

「うるさい、黙れよ」

「お、照れてる? 耳が真っ赤だぜ。うれしいのか? なぁなぁ」

 ヤマトが指摘したように片桐は照れていた。それも自分でも恥ずかしいと思うくらいに耳まで真っ赤になっていた。

 最高のチーム。

 そんなの、生まれてこのかた一度たりとも与えられたことのないものだ。

 オロチは基本的に一人で仕事をする。単独行動が許されているのだ。むしろ、そうする必要すらあった。

 だから今まで誰とも組んだことはないし、組んだとしてもその相手は部下として、対等ではなかった。いつも命令をし、それを聞き入れる相手――それだけだった。

 だがヤマトもクシナダもそれとは違う。

 二人とも片桐の部下ではないし、一時だけの関係ではない。

 仕事をするときは割り切るが、遊ぶときは遊ぶし、訓練のときは容赦なくやりあう。

 そんな二人との関係にどういう名を与えていいのか、今まで一人ぼっちであった片桐は知らなかった。それをチームといえば、しっくりとくる。

 もっとわかりやすく表現すれば友人。友達。かけがえのない親友。

 それらの言葉がとても陳腐なのに大切に思えて片桐は照れていた。自分でその言葉を口に出来るほどに大人でもなかった。

「あー、もううるせぇ!」

 ヤマトがにやにやと笑って、クシナダの手をとると、後ろから片桐へと抱きついて、腕のなかに二人を抱え込む。

「だー、お前って素直じゃねぇよかなぁ」

「うっとおしい!」

 片桐が抵抗するが、大きなヤマトに後ろから抱きしめられるとどれだけ暴れたところで逃げられるわけがない。

 その横で、同じように腕の中にいるクシナダはくすくすと笑っている。

 血まみれの死体の、殺伐とした殺しの現場にあまりにも不釣り合いに若い彼らは互いの友情をたしかめあった。

 たとえば誰かを殺すことで、――それで味方を守るから。

 血にどれだけ汚れようともも、――命を賭けているという実感。

 世界の裏の暗い部分によって結びつ絆、それは確かに明るい十代の子供が持つ友情という感情を。

 三人は学び、遊び、殺し――作り上げていった。

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