プロローグ(A)
僕は――運命なんて言葉が嫌いだ。
一般的にいえば、『運命』という言葉には神秘めいた印象が強く、忌避されるような言葉ではない。
けれど僕は嫌いだ。
大衆的な意見を批判することは格好いいからと、気を衒っているわけではない。僕には僕なりの理屈があった。
たとえば妹や育て親、幼馴染みや友人たち――記憶の中だけに生きる両親。そんな大切な人たちとの出会い、未来と過去を繋げる絆というのか、そういう繋がりを認め、慈しむことは、現在を生きている僕にとって、すごく大切なことだ。
もし、それら大切な人たちと巡り合えたことを『運命』だと限定されてしまえば、なんだか予定調和な気を起こし、自分の行動原理さえ定められているような錯覚に陥る。つまり――僕にとっての大切な出会いが否定された気分になり、個人的にはとても面白くないわけだ。
初めから定められた相手と出会って、初めから定められた相手と別れていく。そのように必然だと認識してしまうよりはむしろ、出会いも別れも偶然だったと、“ぼかしたまま”にしておいた方がある種の神々しさを感じいる。
もっとも、僕の妄言だと――言われてしまえばそれまでなのだが……。
とにかく僕は――
――運命なんて言葉が嫌いだ。
しかし――『運命』なんてありえはしないと、否定しているわけではない。
なぜならば、『運命』によって巡り合えたとしか思えない存在が身近にいるからだ。それもまた、一つの事実だった。
沙夜という憑きもの、憑きもの殺しの大榎悠子、犬神憑きあずきに悪魔憑きアネモネ――たかだか一年も満たないうちに目まぐるしいほどの出会いを重ねてきた。
今後の人生に膨大なる影響を与えるであろう事象は、偶然と呼ぶには出来すぎており、『運命』であるとしか思えない。不可解な偶然が連続してしまったために、嫌々ながらも『運命』を信じざるを得なくなったわけだ。
そして――彼女もまた――その運命の環に取り込まれた憑きものだった。
これから語る内容は、とある小娘憑きとの出会いの噺――。
小娘憑きにつきまして、
少し話をさせてもらおうか。
現段階では新作の方に力を注いでいるので、隔週更新できれば御の字といったところです。ご容赦ください。