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獣と獣??  作者: 暁 とと
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涙の確認

「うわぁ―!!すっごぉい」

連れてこられたのはまるで絵本の世界、もしくは美術の教科書の中でしか見ることのない絢爛豪華な城の中だった。

道中何故かずっとフードを被せられていたせいで、全く様子を伺うことができなかった。

「ついてこい。」

クラウドは城内に入ると足早に歩いていってしまった。その横をイーヴァがくっつくように飛んでいる。

「あっ、待ってよ」

聞きたいことがたくさんあるのに、なんで何も答えてくれないのよ。

道中何度かクラウドに勇気をふりしぼり質問を投げ掛けた。しかし全て


『……俺が話すことじゃない。』

『……城についてからだ。』


とはぐらかされてしまっていた。

少しくらい説明してもいいじゃない。

だいたいにしてまずこの時代背景はいつなのよ。

またキョロキョロと回りを見た。

庭園には噴水がキラキラと太陽の光を反射して水を輝かせ、花々は自分が一番美しいとでも主張しているかのように凛と咲き乱れている。

全く……これは現実なのかしら。

それとも……もしかして天国か何かなのかな。

いや、だとしたらこんな無愛想な天使が出てくるわけないよね。

軽い目眩を覚えながら、二人に着いていくしかなかった。



どれくらい進んだだろうか。

廊下のどこも同じように見えてしまうサクラがそろそろ疲れてきた頃、前を歩く二人が扉の前で立ち止まった。

それからクラウドはチラッとサクラの方を振り返った。

一度も振り向きもせず、スタスタ歩かれていたので振り返った彼と目が合いビクッと肩を上げてしまった。

今度はなんだろう……。

軽く身構えたが、特に何も口を開かずにクラウドは目の前の重厚な扉を叩いた。


ガチャリ


扉が開き、中から短髪で黒髪の大きな男の人が出てきた。

「只今戻りました。陛下はいらっしゃいますか。」

クラウドとイーヴァが頭を下げたので、慌ててサクラも頭を下げた。

黒髪の彼は黙ってゆっくりと私達を見ると、すっと扉を開き扉の脇に立った。

「失礼いたします。」

「失礼いたしますだぞ。」

クラウドの足が動くのが見え、慌てて私も後へ続いた。

扉の前を通り過ぎる時、一瞬だけサクラの鼻に異様な匂いが香った。


あれ?

この匂いなんだっけ。


立ち止まりそうになったが、すぐ横に先程の大男が立っている気配を感じて直ぐ様歩みを進めた。



「頭を下げていろ。」

部屋に通されると、直ぐ様クラウドに頭をグッと押し込まれ、私はその場に無理やり膝まずかされた。

「いった!ちょっとなにするのよ」

「大人しくしていろ。それと、頭を上げていいと言われるまでは絶対に顔を上げるな。」

「なっ、なんなんですかこれは?ていうか、ここは」

「黙ってろ」

頭を上げて反論しようとするも、更に力を込められて頭が割れそうになった。

痛さに涙目になりながら、これ以上痛い思いはごめんとばかりに言う通りに頭を下げた。

訳がわからなかったが、今更抵抗しても何も変わらない。


大人しく膝を折り、頭を下げているとカツカツと何人かが部屋に入ってくる足音が聞こえた。クラウド達が頭を下げている。

視覚が使えない今、他の五感が研ぎ澄まされているような錯覚を覚えた。

その内の一人がどうやら遠くの椅子に腰を下ろしたようだった。

それを合図かのようにクラウドは口を開いた。

「龍の森より、予言の巫女と思われる者を連れて参りました。予言の通り異国の服を着て、そして、異様な香りを放っております。」


異様な香り!?

その表現に危うく顔を上げてしまうところだった。

なんて失礼な奴。

顔を伏せながらクラウドの方をキッと睨んだ。


「ほぅ。では、この者がラーテル氏の予言の巫女で間違いないようだな。」


新しい声が耳に届いた。

遠くから聞こえるその声はとても穏やかなものだった。


「そうかと思われます。しかし、まだ何も証拠がないので確かなことは。これから確認を」


確認?

ていうか、巫女って何?

膝まづかされたまま茅の外に放置され、頭の中にはより一層ハテナが浮かんでくるばかりだった。


そのままの体勢で聞き耳を立てていたが、ふいに誰も喋らなくなった。

その代わりに体に痛い程視線が集まっているのが感じられ余計に居心地の悪い空気になった。



「………あ、あの」

その視線に耐えられなくなり、細々と声を出してしまった。

顔を少しだけ上げようとした時、目の前にクラウドの足が見えた。

咎められると思い顔を下げようとしたとき、彼の手が私の顎を掴んだ。

彼はそのまま私の目の前に屈みこみジッと瞳を覗きこんできた。

「えっ……なんですか。」

その間近に迫る青い瞳に見詰められると嫌でも顔が熱くなる。

ほんの数秒そのままの状態が続き、顎から手が離されたとき無意識に止めてしまっていた息を全て吐き出した。

すると今度は視界が真っ暗になった。


「きゃあ!!」

「騒ぐな。お前の『力』がわからない。少しだけ耐えろ。」

「耐えろって。何なんですかこれ。」

「すぐに終わる。下手に動くと体を傷つけるぞ。」


頭の後ろでキュッと何かで目を塞がれた。

そして続けざまに腕も強引に後ろで縛り上げられた。

「いたっ。」

急に落とされた暗闇と自由を失った体。何がなんだかわからなくなった。

「いいか。決して動くなよ。」

頭の上で聞こえるクラウドの声と共にカチャと金属がぶつかるような音が部屋に響いた。

その強い言葉に体を強張らせると


シュッ


切れ味の良いハサミで紙を切り裂くような音が頭の上から床の方へと駆け巡った。


「……えっ?」


私の声と共に、胸の前を冷たい空気が撫でた。


一瞬にして血の気が退いていったのがわかった。


塞がれた視覚の代わりに皮膚の感覚が何が起こったのかを教えてくれる。


私は切られたのだ。


しかし、痛みは感じられない。


そう。

刃が切り裂いたのは、私の衣服だけだった。


露になった胸元に、塞がれてしまったままの視線を落とす。


「……きゃあぁぁぁ!!」


唖然として動かなくなっていた思考が急に動く出したかと思うと、襲ってきたのは言い様のない羞恥心だった。


動かすことのできない両腕を力一杯動かしてみた。

しかし縛り付ける縄がギュウギュウと腕に食い込むだけで、ほどける気配は一向にない。

恐怖からなのか恥ずかしさからなのかはたまた屈辱からなのか涙が溢れた。

そのままその場に前のめりに倒れこみ、どうにか体を隠そうとした。



「おいっ。」

クラウドが無理矢理に肩を掴んだ。

だが、私はその力に逆らうように体を倒した。

「やめてください!なにするんですか!」

大きな声が出た。涙で声が掠れている。

「何もしない。ただ確認するだけだ。」

「確認ってなんですか。やめてください。」

懸命に体を倒して叫ぶように声を上げた。


殺されるのかもしれない。

恐怖で唇を無意識に噛んでいた。

私が何したって言うのよ。

なんでこんな目にあわなきゃいけないのよ。


「お前!」

クラウドが更に力を込めた時


「クラウド、もうよさないか。」


部屋にまたあの声が響いた。


その声に反応して肩から手がどかされた。

ハァハァと息が荒く漏れる。

自分の息の音と共にカツカツと近付いてくる足音。

もう体に力が入らない。

このまま床に体が溶け込んでしまうのではないかとさえ思えてきた。


「彼女の縄をほどいてあげなさい。」

「しかし」

「大丈夫だ。さぁ、ほどいてあげなさい。」

しばらくクラウドは押し黙っていたが

渋々腕の縄を解いた。

私は素早く自分の胸元を両手で隠した。

肩を揺らしながら息をしていると、今度は目に覆われていた布を外された。


光が一斉に流れ込んできた。

眩しさに目を細めるとその光の中に、一際輝く黄金の毛並みが見えてきた。


「悪いことをしたね。」


その人はソッと私に自分の着ていた上着を掛けてくれた。

その裾を摘まんで体を覆うともう一度その人の顔を見た。


神々しく輝く髪は緩やかなうねりをつけて伸び、その瞳は同じように優しく光っていた。

口元に笑みを浮かべ、私の前に屈みこんだ。


「手荒な真似をしてすまなかったね。巫女。」

そっと私の前に手を差し伸べてくれた。


その輝きに目が離せなくなっていると、私とその人の前にクラウドが割って入った。

「陛下御待ちください。この者にどのような力があるのかまだ分かっていないのですよ。不用意に近付かれては」

彼はクラウドの体をそっと押しながら、首を横に振った。

「クラウド私を信じなさい。大丈夫だ。」

そして今度は床についたままの私の手を優しく取った。


立ち上がると彼は指で私の目元から涙を拭った。

何か言いたいのに、口が言うことを利かない。

とにかく息を落ち着かせようと何度か深く息を吸い込んだ。


「……ありがとうございます。」

ようやくその一言だけ口から出た。

「いや、本当にすまなかった。君をどう扱えばいいのかまだ分からなくてね。こんなにも『オンナ』が脆いものだとは知らなかったんだ。」

「……あの、私……なんなんですか。この状況が全く理解できなくて。」

言いたいことがしどろもどろになる。

聞きたいことが有りすぎる。

困惑する私を見詰めながら、彼はまたゆっくりと微笑んだ。

「そうだね。まずは君に色々と説明しなくてはならないね。」

そして、優しく私の背に手を置き席に着かせてくれた。

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