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獣と獣??  作者: 暁 とと
37/56

クラウドが引き連れてきた軍隊のおかげで、その場にいたアシャの兵士はすぐさま取り押さえられた。

彼らはその場から連れて行かれ、離れた場所で人知れず処分された。

それはサクラに対しての配慮からであろう。


緩められた腕からサクラは抜け出すと、クラウドを見上げて口を開いた。言いたいことが山ほどある。心配をかけてしまったこと、助けてくれた礼。

だが、その視線の先に大きな影が写りこんできてサクラの意識はそちらに刷り変わってしまった。


「ソウマ!」

クラウドの肩越しにこちらに近づいてきたソウマが、名前を呼ばれると同時にガッシリとサクラの肩を掴んだ。

「サクラ、怪我はありませんか」

その顔はひどく心配そうで、サクラは面食らってしまった。けれど、ソッと彼の手に自分の片手を添えるとフワッと笑って見せた。

「大丈夫だよ、ソウマ。ごめんね、勝手なことして」

「いえ、私こそ何もできずに…」

本当に申し訳なさそうに眉を下げるソウマにサクラは首を横に振った。

「ソウマがいてくれたから私も強気でいれたの。けど、やっぱり私の考えじゃ甘々だったみたいだね。」

「……無茶はもうしないでください。」

肩に添えていた手でサクラの手を握ると、ソウマはどこか祈るように彼女を見つめた。

その瞳はひどく優しくて、自分の行動を咎められるよりも胸に染みた。

「……うん。本当にごめんなさい」

ソウマはその言葉にやっと微笑むと、サクラの頭を優しく撫でた。




「……………状況を説明してほしいんだが」

そんな二人のすぐ横で忘れられた存在となりつつあったクラウドが、むくれたように声をかけた。

ハッと顔をそちらに向けた時には、もはや睨み付けるように眺めているクラウドと目があった。

「あぁ、すまない。」

ギョッとした私とは違い、ソウマは何事もなかったかのように頭から手を離すとクラウドを連れルミエール兵士達の元に向かって歩き出した。

途中一度だけクラウドはこちらにチラリと視線を向けたが、目が合うとあからさまに眉を寄せて視線を反らされた。



………さっきから、何を怒ってるんだろう。


首をかしげるもその答えなど出てくるはずもなく、私はカインズ達の元に向かった。



家に入るとリリアがセリンの治療をしてあげているところだった。

家の中にもルミエールの兵士が5人ほど待機をしていた。

先にソウマが彼等にカインズ達のことを話していたのだろう。遠巻きに眺めてはいるが、カインズの姿に敵意を向けるものは一人もいなかった。


私はリリア達のすぐそばで憔悴しきった様子のカインズに近づいた。

「カインズ」

「……サクラ様」

「もう、大丈夫だよ。ルミエールの兵がこんなに来てくれたから。けどあのソフィアとかいう人は、ごめんなさい。逃がしてしまったわ」

「いえ、皆無事で本当に良かったです」

「…そうだね」

そうは言うもののカインズと私の視線は、未だに気を失っているセリンに向けられた。

私は驚かせないようにそっとリリアの隣に腰を下ろすと、その小さな手に自分の手を重ねた。

「…お姉ちゃん」

ずっとそうしていたのだろう。リリアの手はプルプルと疲労から小刻みに揺れていた。

「…リリアは本当に強い子だね」

あんなことがあったにも関わらず、すぐさまセリンの治療に取り掛かるリリアに私は心からその言葉を贈った。

ビクビクと怯えるだけではなく、自分の出来ることを懸命にする。

カインズが育てた小さな命は、こんなにも真っ直ぐに育っている。

きっと、この家族の中でしかそれは育まれることはなかっただろう。幼い二人と年老いたカインズ。毎日互いを助け合いながら暮らしてきた彼らだからこそ。

私はリリアの小さな手に触れながら、セリンの為に祈ることしかできなかった。




体の傷が薄れてもセリンは目を覚まさなかった。

ソウマとクラウドは戻ってくるなり、すぐにでもここを離れ城へ向かった方がいいと私とカインズに話してきた。ここにいてはまたいつアシャの者が戻ってくるかも分からない。

カインズとリリアは目に見えて疲れきっていたが、それでも首を縦に動かすとすぐさまこの家を出ていく支度をし始めた。と言っても持っていける物は限られている。家財道具は全てソウマがルミエールで揃えてくれるとカインズに申し出てくれ、カインズはまた深々と頭を下げていた。

私はリリアと共に彼女の荷物をまとめ、続いてまだ目を覚まさないセリンの荷物もまとめた。

リリアに言われるがままにセリンの荷物を集めていると、私は驚いてしまった。

二人の荷物のほとんどが本だったからだ。年相応の玩具てはなく、細かな字が並ぶ分厚い本ばかり袋に詰め込まれていく。

なんの本か尋ねると、医学書や図鑑、それからリリアが書きためた料理のレシピだと答えてくれた。

カインズはいつ自分がいなくなってもいいように、二人には生きるための知識をこんな小さなうちから教え込んでいたのだ。

胸がキュッとつままれたようになりながら、私は一冊一冊丁寧にまとめた。



一時間もたたないうちに、私達はルミエール城へと出発した。

私とカインズ達、それと怪我をしているソウマはクラウドが用意してくれた馬車に乗った。ソウマは始め自分は身分がどうだと馬車に乗るのを拒否していたが、クラウドが断固としてその申し出を受け入れようとはしなかった。

「怪我人がうろいていちゃ邪魔なだけだ」

なんて冷たくあしらっていたが、本当はソウマの怪我のことを気にしているのだというのがヒシヒシと伝わってきてソウマもそれ以上は何も言わなかった。



小さくなっていく我が家を見つめるリリアの目が悲しそうに光っている。それでも彼女はこの状況をしっかりと理解しているのか、泣きもせず愚痴りもしなかった。

そんな彼女を元気付けたくて私は明るくつとめた。

「ねぇ、リリア。妖精って見たことある?」

「ようせい?」

狭い馬車の中でリリアが遠慮気味に首をかしげる。

「うん。こんな小さくて羽がはえてて、とっても可愛い生き物」

「………絵本で見たことある」

「実はね、私のお友達に妖精そっくりな子がいるんだよ」

「……本当!?」

私の言葉に久しぶりにリリアの顔がキラキラと輝いた。

「うん。すっごく可愛いんだよ。今度皆で遊ぼうね」

「うん」

ようやく微笑んでくれた彼女に私はとても嬉しくなった。

私達のやり取りを微笑ましそうに眺めていたカインズに、ソウマが話しかける。

「ご老人。これからの話をしてもよろしいか」

「…はい」

ソウマの声にカインズも表情を引き締める。

大人の会話が始まるのを感じて、リリアもスッと口を閉じ眠ったままのセリンの手を握って外を眺めた。

「今朝話してくれた内容をおそらくは我が国の参謀にも話していただくこととなる。その者もあなたと同じ科学者だ、私よりもより細かなことをつっこんで聞いてくると思う。」

マクリナのことだ。瞬時に彼の手に顔が浮かぶ。

ソウマのいう通りマクリナは次々とカインズに質問をぶつけるだろう。おそらくは休むまもなく。

「私からも今日聞いた内容は伝えておく。だが、あの時まだ話の途中であったのを思い出した。その時の話の続きを今してもらえないだろうか」

「………」

私も頭の中で今朝のことを整理した。

リリアのこと、カインズのこと。それとアシャの獣の血のこと。それから……

「……王子のこと!」

ハッと思い出して私は口に出してしまった。

ソウマは私に向かってゆっくりと頷いた。

「そうです。その王子の話の途中であの事態になってしまった。」

ソウマはまたカインズに向き直ると、話を聞く体勢をつくった。

「王子のこともだが、今日襲ってきたあのソフィアという者についてもいくつか聞きたいことがある。まずはその二人について話してもらえるか?」

私もカインズに視線を向けた。カインズが朝話してくれたアシャの王子のこと。彼が移植を施した特異な力を持つ王子。その姿が分かれば戦地で見つけることができる。

私達はカインズの言葉を待った。




しかし、カインズは一向に口を開こうとはしなかった。

何かを考えている、というよりはどこか戸惑ったように俯いてしまった。

「………カインズ?」

首をかしげる私に、カインズはようやく弱々しく口を開いた。

「…………すみませぬ。何も……思い出せないのです」

「………何っ?」

ソウマの眉がピリッと動いた。

カインズは頭を両手で押さえながら、眉間にシワを寄せた。

「……王子がおったこと、それは覚えております。じゃが、王子がどんな容姿をしておったか、移植によりどんな力を得たのか。それすらも思い出すことが出来ないのです」

「………どうしちゃったの?」

おもわず私はカインズの顔を覗きこむ。

すると、カインズの隣に座っていたリリアが心配そうに彼の膝に手を置いた。

それからどこか悲しそうに小さく口を開いた。

「………また、忘れちゃった?」

「また?」

彼女のその小さな声に私は聞き返すと、リリアはほんの少し首を動かした。

「前にもあったの。その……こうゆうの。」

私とソウマの視線を恥ずかしそうに受けながら、リリアは一生懸命に話してくれる。

「前はお料理の作り方だったの。セリンの好きな物だったのに、おじいさん前の日は作れたのに次の朝には作れなくなってた。私が書いておいた作り方見ても思い出せなくて。少し……怖かった。」

そう言うと彼女は俯いてしまった。


痴呆のようなものなのだろうか。

カインズの年がいくつなのかは分からないが、こちらでも痴呆のようなものが存在するとしたら、カインズはそれにあたるのか。

だけど普通に会話もできてるし、それに行動だっておかしいと感じたことは一度もなかった。

じゃあこの期に及んでアシャの情報をこちらに流すことを躊躇っているというのか。いや、それはない。これからルミエールに匿われる身だ。ましてやソウマの好意を無下に扱えるような人ではない。

それに、今のカインズは本当に困惑しているようにしか見えない。



私はチラッとソウマに視線を移した。

彼も何かを考えているようだったが、おそらくはそこには既に何らかの見当がついているようだった。

「……朝話した他の事は覚えているか」

「……はい。そこはもちろん全て覚えております。」

「………そうか。ならいい」

それだけ言うとソウマはそれ以上カインズに追求するのをやめた。

黙ったまま外に目を向け流れいく景色をただ眺めていく。



どれくらいたっただろうか。

突然馬車がゆっくりと止まり、その揺れで私はハッと目を覚ました。どうやらウトウトと馬車の揺れにつられて眠っていたようだ。

「まだ眠っていても良かったんですよ」

隣でどうやら肩を貸していてくれたらしいソウマが私の様子に声をかけてくれた。

「ううん。大丈夫。どうしたの?止まっちゃったよね?」

外の様子を伺おうと小さな窓に手を伸ばした時、外からコンコンと扉を叩かれた。

「ここから少し揺れるぞ」

窓を開ける前に外からクラウドの声が飛んできた。

そして再び走り出した馬車は彼の宣言通りグラングランと激しく揺れ始めた。

「わっ!……すごっ、い揺れ、るね」

体勢をどうにか保ちながら窓に敷かれたカーテンに手を伸ばす。

そこから窓の外の風景を目にして、私は目を丸くした。

「うわぁ!何ここ!?」

反対側の窓から外を見たソウマもどうやら驚いているようだった。

外の景色は眠りにつく前に見た草原ではなく、どこか洞窟の中にでも入ってしまっているのか四方八方にむき出しの岩肌が立ち並ぶ細い道だった。だが不思議と暗さはなく、むしろそこは小さな電球でも散りばめられているかのように輝いていた。

よく目を凝らして見ると、その岩肌の隙間に無数の小さな明かりが灯っている。

「すごいっ」

おもわず息を飲むとすぐ横で馬を歩かせていたクラウドがこちらを向いた。

「ここは滝の裏側だ。こんな場所があるなんて国中の誰も知らなかったんだ」

「えっそうなの?」

隣にいたソウマも無言で頷いた。

「お前らの捜索にあたってたイーヴァの隊がここを見つけたんだ。で、俺らがここを通ってみたら2日かかるはずの滝底まで半日もかからずに行けたって訳だ。」

「そんなに早く」

「まぁな。足場がわりぃのがあれだが、こんぐらいの馬車が通れりゃあ問題ない」

それから手近なところにあった光を発する石を無造作に取り出すと、それをポイッと私に投げてよこした。

「……綺麗」

手の中におさまった石はそこでも光を失わず、キラキラと輝いている。

「星の石じゃね」

向かい側からそれを眺めていたカインズが興味深そうに言った。

「星の石?」

「はい。とても珍しい石の一つじゃ。外から受ける光を自分の中に取り込みそれを受けた何倍もの輝きで外に放出する石です。おそらくはここも入り口や出口からの光をそこらの石が受け、その石が発した石の光をそのまた奥の石が受け取り光るといった具合でこんなにも明るいのでしょう」

「なるほど」

カインズの説明の分かりやすさに感心しながら、もう一度外の世界に目を向ける。

ファンタジーの世界のような美しさと、だけどどこかこの世のものとは思えない底知れぬ恐ろしさを微かに感じてしまう景色を。



洞窟を向けると見覚えのある森に出た。

そう、龍の森だ。

そこで私達は一旦馬車を降りた。カインズ達とはここでお別れだ。

カインズ達にはクラウドが連れてきたソウマの部下が付けられ、新しい土地まで彼らを運んでくれる。

私達が新しい馬車に乗るとカインズとリリアが深く頭を下げて見送ってくれた。

私は落ち着いたら遊びに行くと何度もリリアと約束してから手を振った。



結局セリンは別れの時まで目を覚ましてくれなかったのが、心残りになってしまった。




窓の外の景色が次々と見覚えのあるものを移していくので、私はどこか落ち着かなくなってきていた。

やっと帰ってこれたという安心感とそれと同時に皆にまた会えることの喜びを抑えきれずにいた。

そわそわする私にソウマがそっと微笑んでくれる。

「もうすぐ、ですね」

「うん!皆に心配かけちゃったから早く会って謝らなきゃね」

ソウマが優しく頷きを返してくれたとき、馬車がゆっくりと停止した。



ガチャッと馬車の扉が開かれ、外の光が中に滑り込んでこようとした時、馬車が大きく揺れた。

「こんのっ、バカッ!!」

その声と同時に私は大胆に馬車の中に倒れこんだ。

いや、正確には後ろからソウマが咄嗟に支えてくれたおかげで倒れはしなかったものの、その体勢は無様なものになってしまった。

驚いて見開かれた目が、自分を押し倒すように馬車になだれ込んできた人物をとらえる。


「………オルタナ?」

私の上に体をくっ付けるように抱き付いてきた人物の名を呼ぶ。

彼は私の胸に頭を押し付けたまま、怒ったような声を出す。

「……あんたは、またあたしに心配かけて!この前の約束はどうしたのよ!破ったからにはしっかりお返ししてもらうわよ!それもそれも今回はソウマ様まで引き連れていなくなるなんて!いやがらせも大概にしなさいよ!あたしの美貌をどれほどまで減らしたいってのよ。本当に、本当に二人が心配で心配で……」

まだまだ続きがありそうなオルタナの首根っこをクラウドが問答無用で引っ張りあげた。

「おいっコラ。おめぇはどんだけ礼儀がなってねぇんだよ。まずはこいつらに陛下への挨拶をさせてやれ」

グイグイと引っ張られ、ようやくオルタナの顔が見えた。

懐かしいまでに派手に着飾った彼の姿だ。



「あっ、あれ?」

その時、私の足が不思議なほど震え始め立っていられなくなってしまった。

ソウマがそのまま支えになってくれたのだが、どうにも力が入らない。

「あれ?なんだろう。足が……」

困惑している私をソウマとオルタナが悲しそうに見つめた。



私は知らぬ間に極度の緊張状態で生活をしていたようだった。あんな体験をして、更に今日またしてもアシャの襲来を受けたのだ。心が平気なわけがなかった。



「……サク、巫女殿」

「あっ、ごめんね。今立つから」

ソウマが気遣うように呼んでくれたので、慌てて立ち上がろうとすると、そのまま私の体はフワッと浮かんでいった。

「えっ」

馬車の外に立っていたクラウドがソウマの支えている私の体を抱き抱え、そのままズンズンと歩き出した。

「ちょっ!落ちしてよ!」

さすがにお姫様だっこなんて恥ずかしすぎて、私はじたばたと抵抗した。

「大人しくしてろ!どうせまともに歩けねぇんだろうが」

そんな抵抗など全く効いていない様子でクラウドが睨み付けてくる。

「もう大丈夫だってば!おろして!」

「めんどくせぇなぁ。別にいいだろ、このままでも」

「よくないっで!早くおろしてよ」

「うるせぇよ!ほれ、もう着いた。」

ほんの数十歩ほど歩いたところで、クラウドは立ち止まった。

恥ずかしさから周りが見えていなかった私は、今の今まで彼らの存在が目に入ってきていなかったのだ。




「クラウド、もう少しサクラ様に対して敬意を持って接してやれぬのですか?」

マクリナがわざとらしいまでに豪快にため息をつく。

「そうなんだぞ!サクラはお疲れなんだぞ!優しくしてやらないとダメなんだぞ」

その肩にとまっていたイーヴァが指を突き付けるように怒っている。

「ご無事で何よりです」

後ろの方で控えめにテトが頭を下げる。



それから

「おかえり、サクラ」

満天の笑顔でルイスが私を迎えてくれると、堪えていた涙がグッと喉の奥からこぼれ落ちそうになる。


帰ってこれた。

その実感が次々に体に染み渡っていく。

私は涙を堪えて、精一杯笑顔を作った。



「ただいま。心配かけて、ごめんなさい」



深々と下げた頭をルイスの暖かい手が引き寄せてくれる。

そのまま彼の腕が頭を包み、彼の匂いでいっぱいになる。

「よく戻ってきてくれたね」

その言葉にポロポロと涙が頬に流れ落ちていく。

そのままの体勢でルイスはそっと顔をあげると、私の後ろに控えていたソウマに微笑んだ。

「ソウマもよく戻ってきてくれたね」

ソウマは瞬時に膝まづき頭をグッと下げた。

「陛下のお側を離れ勝手な行動をとりましたこと、誠に申し訳ございません。どうぞ、なんなりとご処分を」

ルイスは首を振った。

「サクラのこと、よく守ってくれたね。礼を言うよ。よくやってくれたね、ソウマ」

ルイスのその言葉にソウマはまた無言で深く頭を下げた。



そんな光景を黙って眺めていたクラウドが動いたのは、私の涙が落ち着きルイスから離れた時だった。

彼は静かにマクリナの前に立つと、腰に挿していた剣をマクリナに手渡した。

「……期限は一週間です」

「分かってる」

そう言葉を交わすと一人で城の奥へと消えてしまった。

私は慌てて後を追おうとした。

まだちゃんとお礼を言えていない。クラウドが来てくれなければ、こうしてまた皆とも会うことが出来なかったかもしれない。

なのに、彼にまだ何も言えていなかった。

そんな私をマクリナが静かに止める。

「どこへ行かれるのですか?」

「クラウドにお礼を」

言いかけて私は違和感を覚えた。

マクリナが手にしているクラウドの剣。

騎士にとって剣は命を繋ぐものだとソウマがカインズの家にいるとき教えてくれた。だから他人には絶対に預けないと。

だが、今クラウドは黙ってそれをマクリナに預けて去っていった。



私は無意識に眉を寄せマクリナを見つめていた。

「クラウドはどこに行ったの?」

その視線を受けながらマクリナはするりとごく当たり前のように言葉を放った。

「独房です」

と。




「独房?」

あまりにも当たり前のように言われたその言葉に、私は面食らった。

「な、なんで?」

口をぱくつかせ、やっと出たのがそんな単純な質問だけだった。

マクリナは平然と眼鏡の位置を直すと淡々とその説明をしてくれた。

「これは私とクラウドとの約束だったのですよ。」

「どんな?」

「彼は元々サクラ様達の捜索には参加出来なかったのです。アシャが攻めてきたばかりでしたし、ソウマも行方知れずとなった時に城を守る者が減ることは当然ながら避けなければならない事態です。しかも、クラウドほどの手練れであれば尚のこと。陛下と城を守ることが最優先でなされなければいけないことでした。しかし、クラウドはそれを放棄したのです。」

マクリナが眼鏡の奥から冷たい視線をクラウドが去った方に向ける。

「昨晩、自分の兵達を連れ城を出ていこうとしているクラウドを私が捕らえました。このような事態の時にどこへ行くのかと。彼はサクラ様達の捜索に向かうの一点張りでした。このままでは延々押し問答が続いた挙げ句、クラウドは力付くでも捜索に向かってしまうと思い私は彼に一つの提案をしました。」



『捜索に出ること。兵士を連れ出すことを私が許可しましょう。ですが、これは城の守りを放棄するという行為。その責任は全てあなたにとって頂きます』

『いいぜ、何でもする。だから』

『では、戻ってから一週間。あなたには独房で生活をして頂きます。食事も扱いも囚人と同じとなります。それでもかまいませんか?』

『分かった。帰ったらお前の好きにすればいい』



「彼はその条件をのみ、自分勝手な行動の自由を手に入れたのです」

「そんな!そんなのって」

私はマクリナに食って掛かろうとした。

そんなのはおかしい!

クラウドが来てくれなければ私はアシャの者に拐われていただろう。

ソウマもカインズ達も助からなかっただろう。

クラウドが助けてくれたというのに、その彼が何故罰を受けなくてはならないというのか。

袖に掴みかかった私に、マクリナは首を横に振った。

「サクラ様あなた様の言いたいことはよくわかります。ですが、今回のクラウドのことをなんの咎めもなしに許してしまっては、今後に影響を及ぼしてしまうのです。ここでは規律の乱れが命取りになるときが多々あります。彼にはそれを身をもって表してもらう義務があります。」

「けど!」

「サクラ様。どうかご理解を」

反論する隙を与えないようにマクリナの眼光が鋭く私を射抜く。

「食事もきちんととらせます。鍛練の時間もしっかりと作ります。ただ少しばかり質素な部屋で寝ていると思えばいいだけです。たった一週間です。サクラ様が気にされるほどクラウドは弱くはできておりませんよ」

何も言い返さない私の肩にマクリナが手を置き、なだめるように言ってくる。


だが、その時私の耳にはマクリナの声は流れていくようにしか聞こえてはいなかった。

ここでいくら彼に言っても無駄だということは経験上理解している。

それなら……。


感動の再会もそこそこに、私はクラウドが去っていった暗い廊下を見つめながらあることを決意していた。

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