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獣と獣??  作者: 暁 とと
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この世界の夕日は世界を全て赤く染める。

森も泉も町も、全てを赤く染める。

私のいた世界とは比べ物にならない程大きな太陽が沈んでいく。




「すごいねぇ!」

クラウドの隣で私は夕日に染まる町に出た。

町には以前一度だけ来たことがあった。

オルタナの買い物に付き合ったことがある。

あの時は龍の巫女が現れたと噂が広まってしまっていて、私は女装をしたオルタナ達に紛れて町に出た。

町にはオルタナのように女の格好をした人もいて、一見すると普通の町の様子だ。




今日は以前に訪れた時よりもよりいっそう町の雰囲気が華やいでいた。

沢山の人が思い思いの服装をしている。

統一して仮面をつけていて、それはまるでハロウィーンとクリスマスが同時に行われているかのような光景だ。

それを見ているとわくわくと子供のように胸が踊る。

「クラウド早く行こう!」

わくわくする気持ちを押さえられずにクラウドの腕を引っ張る。

「お、おいそう引っ張んなよ」







町に出て思ったのは、城の住人達に比べると町の人達はより獣の姿に近いということだ。

クラウド達は隠している尻尾も堂々と出しているし、ウサギのような耳をした者もいれば、猫のように顔の横から長い髭をはやしている者もいる。

使用人の中にも何人かはそんな姿をした者がいたがやはり町に出ると様々な姿形をした者が生活しているのが分かる。




皆穏やかで、飾り付けられている屋台からは美味しそうな匂いを漂わせている。

仮面をつけた子供たちが走り回り、大人達は笑いながら酒を酌み交わしている。




夕日と同じ色の提灯が露店には吊るされていて、その中で炎がユラユラと揺れている。

よく見るとそれは提灯と言うよりも大きな鬼灯だった。鬼灯の中で炎が揺らめいている。

「夜になればいろんな色に変わるんだ」

店先のそれを見ているとクラウドが教えてくれた。

「へぇそうなんだ。不思議」

チョンっとそれをつつくとユラユラ揺れる炎の色が少し変わったように見えた。

「すごい!本当に変わった」

「お前のいたところにはなかったのか?」

「こんな不思議な植物はなかったよ。人工的に作った明かりはあったけど」

「そっちの方が俺達にとっては珍しいな。まっ、とりあえず祈祷が始まるまではフラフラしてていいだろうからお前が見たいのを見て回ればいい」

町の入り口で止まってしまった私の足を諭すかのように、クラウドが顎先で先を指した。

「うん!」





私達は屋台を一軒一軒ゆっくり見て回った。

見たこともない食べ物を食べたり、不思議な形をした置物を見たり、綺麗な石に目を輝かせたり。

広場では町の人達が軽快な音楽に合わせて躍りを踊っていた。

中には女の格好をした人もチラホラいて、仮面をつけて踊る彼等はオペラ座の怪人のマスカレードを連想させる。

私はミュージカルや演劇を見るのが小さい頃から好きだった。

オペラ座の怪人も小さい頃に家族と見に行ったことがある。

その時の思い出がチクリと胸を刺してきたので、私は広場に背を向けて屋台の列へと引き返した。




「お前さっきからそれ見てるけど、欲しいのか?」

「えっ?」

クラウドの声に、いつの間にか見とれてしまっていた腕輪から視線をあげる。

硝子細工の露店に立ち寄ると鬼灯の灯りを反射して、店全体がキラキラと輝いているように見えた。

その中で私が心引かれたのは硝子でできた腕輪。

透明な硝子が鎖のようにうねりながら綺麗な曲線を描いている。

「欲しいっていうか綺麗だなぁって。でも私こういう繊細なのってすぐ壊しちゃいそうで怖くて付けられないや」

こういった装飾品はきっと部屋の中でお人形のように生活をするお姫様か、裕福な人の愛玩用だろう。

そういえばルイスの部屋にも硝子細工の置物が沢山あった。ルイスならこういった繊細な造形がとても似合う。

「ふぅん。」

クラウドはどこか納得いかないような顔で私を見てきたが、ふいに鼻をヒクっと動かしたかと思うと後ろを振り向き人混みの中を見つめた。

「どうしたの?」

私も彼の視線の先に目をやる。

だが、もう私も大抵の予想はついていた。

彼がこんな風に反応する時は彼が近づいてきている時だ。





「やぁサクラ楽しんでいるかい?」

やっぱり。

私は予想通りの姿が人混みから現れたのを見て、心の中でクスリと笑ってしてしまう。

ちょっとだけクラウドのことがわかってきたような気がした。

仮面で顔を隠していてもその溢れんばかりのオーラ

は隠しきれない。

「うん、とっても楽しんでるとこ。ルイスもお祭りに顔出すんだね」

「あぁ本当はもっと忍んで楽しみたいのだけどね」

そう言ってルイスは苦笑した。

彼の周りには3人の護衛兵といつものようにソウマが立っていた。

全員きちんと仮面をつけているのがどことなく可愛らしく見える。



「それにしても今日のサクラは一段と魅力的だね」

仮面の下でルイスが目を細めながら微笑む。

「異国の装束だね。それはサクラの世界の物かい?」

「うん、オルタナに伝えたら作ってくれたの。素敵でしょ?」

自慢げに両手を広げて全体を見せる。

「ほぉ、ヒラヒラしていて面白いデザインだね」

ルイスが珍しそうに袖口を揺らしてみる。

「うん、とても似合っているね。それにとても艶めいて見えるよ」

私にだけ聞こえるように顔を寄せてそう言うルイスは、色気たっぷりの笑顔を浮かべている。

見つめられると目眩すら起こしてしまいそうだ。

「ありがとう、オルタナはもっともっと豪華なのを着てるよ」

フラフラしそうな体をどうにか立たせて話を反らす。

ルイスはクスリと笑いながら顔を離した。

「そうか、ではオルタナのその姿も見てやらねばな。なぁソウマ」

悪戯っぽく笑うとルイスがソウマを見上げる。

私も彼に視線を向けると、バチリと視線がぶつかったので驚いた。

空気のように静かに佇んでいて気が付かなかったが、彼も私を眺めていたようだった。

「………そう、ですね」

曖昧に答えたのは私と視線がぶつかって動揺したのか、はたまたルイスの言葉に戸惑ったのかはわからい。

ただ、普段の無表情な彼にしては珍しい反応だった。

そんな彼に気付いていないのかルイスは次第に紺色に染まる空を見上げた。

「さて、名残惜しいが私はそろそろ行かなくてはならないようだね。」

「もう行っちゃうの?」

「すまないね。祈祷の用意があるのだよ。サクラは私の分も楽しんでおくれ」

「それなら任せて」

力強く頷くとルイスが口元に笑みを浮かべて頷いた。

「ではまた後で会おう」

手を振る私に笑顔を残し護衛を引き連れて人混みの中に消えていった。




ルイスを見送っていると、どこからか楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

その聞き覚えのある声の主をキョロキョロと探していると、負のオーラを垂れ流しながら歩いているマクリナを見つけた。

「ねぇ、あれって」

そのどんよりとした雰囲気に驚きながら、私はクラウドの袖口を引っ張って指差した。

彼もそのマクリナの姿を見つけてめんどくさそうに口を開いた。

「無理矢理連れ出されたんだな」

そう言われてよく目を凝らして見ると、トボトボと歩くマクリナの袖口がフワフワと不自然に揺れていた。



「イーヴァ?」

彼の右袖を引っ張りながら楽しそうに飛んでいたのは、体ほどの大きさのクッキーを抱えたイーヴァだった。

そういえばオルタナとイーヴァが引きずり出しに行ったんだっけ。

マクリナのあの表情はそういうことか。

対照的すぎる二人を眺めていると、なぜか心がほっこりした。

「声かけなくていいのか?」

「うん、イーヴァどこか目的のものがあるみたいに急いでるし。またどこかで会うかもしれないからいいや」

今は二人の時間を楽しませてあげよう。

イーヴァにしてみれば研究室に籠りっきりの父親と遊びに出掛けられる数少ない機会だ。




あらかたの店を廻ったことには町はどっぷりと夜の色に包まれていた。

クラウドが空を見上げて時間を確認した。

「祈祷まではあと少しだな。もう少しだけ時間潰すか」

「そっか、じゃあ…」

次に何をしようかと考えていると、先程の広場に舞台のようなものが作られていることに気がついた。

周りは沢山の人で埋め尽くされている。

「あれは?」

「ん?今から演劇が始まるんだろ。毎年やってるからな。この地に住む龍とその龍が恋をした女の話だ」

「へぇ~」

そう話している矢先、幕が上がり舞台が始まった。

クラウドはもう何度も見ているせいか、あまり興味なさ気にぼんやりと舞台の灯りを眺めている。

「……観に行くか?」

「えっいいの?」

彼が退屈かもしれないと思い、言い出せずにいるとそっと背中を押してくれた。

「当たり前だろ。お前が楽しむ為に祭りに来てるんだから」

「ありがとう」

ぶっきらぼうな言い方がなんだかくすぐったい。




私達は人混みの最後尾辺りに腰を落ち着かせた。

舞台上では龍に扮した青年が一人孤独そうに佇んでいた。

古代の言葉を用いているらしく、所々私の知らない言葉で台詞が語られる。

そこに艶やかな天女のような姿をした女の子が現れた。

演じているのは男の子だが、背丈が小柄なせいか舞台の化粧のせいか完璧に女の子に見える。

彼等は出会ってすぐに恋に落ちた。

たった二人だけで続けられていく舞台。

幸せそうに語り合う二人。



しかし、次の場面でそれは一変した。

影絵を用いて何かの争いを描いている。

荒々しく燃え上がるような黒い影達。

倒れていく人々の描写が生々しい。

激しく動き、姿を膨らませ、やがて誰も動かなくなる。



場面がまた変わり、先程の二人舞台になる。

だがそれは幸せそうだった彼等ではなく、悲しみに満ちた場面だった。

龍の青年が床に伏せる少女を抱き締めている。

どうやら彼女の死期が近いようだ。

彼女が何かを囁いている。











「クラウド様」







舞台に見いられていた私は、その囁き声でハッと現実に引き戻された。

すっかり心を奪われてしまっていた。


我に返った私はその嗄れた声の方を向いた。

そこには小さなおじさんが立っていた。物語に出てくるドワーフみたいだ。

どうやらクラウドの知り合いらしい。

ニコニコとおじさんは私に軽く会釈をすると、クラウドに何やら耳打ちをした。

「………本当か!?」

ゴニョゴニョとおじさんが伝えるとクラウドは小声で歓喜の声をあげた。

「えぇさっき入手いたしました。紛れもなく本物ですよ」

ニコニコと人の良さそうな笑顔のおじさんだ。

クラウドはいつになく目をキラキラと輝かせて興奮ぎみだ。

「どうしたの?」

「あ、いやぁ……」

歯切れの悪い返事だ。

「なに?」

何か良からぬ物でも手に入れようとしているのかと、私は眉を寄せた。

それを見ると、クラウドは慌てて口を開く。

「ずっと探してた酒が手に入ったんだ。このおっさんは酒場の親父で、それをいち早く俺に伝えようと町で探し回ってくれてたらしいんだ」

クラウドの言葉におじさんもニコニコと頷く。

「町中って、こんな人混みの中を?」

この舞台を見ている人だけでも相当な人数がいる。

それを町中クラウドを探し回ってくれたと言うのか!?この小さなおじさんは。なんていい人なんだろうか。

「クラウド様はうちの大事なお客さんですからねぇ。それにたった一本だけ手に入ったので、クラウド様が必要なければ店にすぐにでも出してしまいたい代物なんですよ」

なるほど、いい人だけではなくちゃんと商売人のやうだ。

クラウドは落ち着かない様子で何かを考えていた。

私はその内容がなんとなくわかってしまった。





「行ってきなよ」

「えっ?」

かけられた言葉が意外だったのか、クラウドは驚いて私の方を見た。

「ずっと欲しかった物なんでしょ?おじさんもわざわざ探しに来てくれたわけだし」

「いや、でも」

任務に対しての責任感が人一倍強い彼だ、そんな簡単には頷かないだろう。

「大丈夫だよ!私はここで舞台見てるから。早く行って早く戻ってきてくれればいいでしょ?」

「………」

それでもまだ葛藤しているようだ。

おじさんは相変わらずニコニコとその場で待っていている。




「………ここにいろよ。すぐに戻るから」

眉間に皺を寄せまくって考えた挙げ句、彼は何度も私にそう言っておじさんを抱えるように駆けていった。

その慌ただしさに苦笑しながら、私は再び舞台へ向き直った。

だが、私が振り返った頃にはもう話の終わりに差し掛かっていて、結局何がどうなったのかわからないまま龍の青年が一人広大な大地に立って何かを呟いているところだった。



毎年行われている舞台のようだから、テトあたりに物語の内容は聞き直そう。

そう諦めてあとはぼんやりと舞台の挨拶などを見学することにした。





「………ん?」







何気なし眺めていた舞台の影に、私は見覚えのある後ろ姿を捉えた。





あれって。

いや、でもまさか…………。




目を凝らして意識を集中させる。





すると、彼が微かにこちらを振り向いた。







間違いない!

彼だ!!








途端に私の胸が高鳴った。

いるはずのない彼の姿を見ただけで、私は可笑しいほど胸を踊らせていた。




舞台ではまだ挨拶が続けられている。

クラウドも今しがた出ていったばかりだ。

いや、もうそれすらも関係ないほどに私は彼の元に駆け寄りたくなっていた。



周りの人の邪魔にならないよそっと静かに立ち上がると、辺りを気にしながら舞台の影に足を進めた。

彼の姿を見失わないよう注意しながら歩く。




少しずつ早足になっていく。



駆け出してしまいたい程の引力に耐えながら、私は息を弾ませて彼に近付く。




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