表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣と獣??  作者: 暁 とと
15/56

本当に降りだした。


さっきまで穏やかな夕日を浮かべていた空は、瞬く間に姿を変え空を分厚く暗い雲で包んでしまった。


窓の外を眺めていると、テトが部屋に蝋燭を灯し始めた。

「今夜は荒れそうですね。」

「そうだねぇ。あっ降ってきた」

ポツポツと窓辺に雨粒が跳ねる。

「こんな天気で、クラウド達平気かな」

ポツリと呟いた独り言に、テトがクスッと笑った。

「心配なんですね」

「えっ!?あっ違うよ!これはその」

慌てて弁解しようとテトの方を振り向くと、蝋燭の炎に揺れるテトの顔がいつもと違って見えた。

「……あれ。テト、具合悪い?」

彼の可愛らしい小さな顔がいつもより青く見えた。

「大丈夫ですよ」

彼はそう言って笑って見せたが、明らかにその表情は何か誤魔化そうとしていた。

「嘘ついちゃダメ!どこか痛いの?」

テトに近付いて顔を覗くと、彼は驚いたように目を丸くしたかが、やがて観念したかのようにテトはちょっとだけ力なく顔で笑った。

「サクラ様には隠し事はできないみたいですね」

「大丈夫?ちょっと座って」

「いえ、そんな」

「いいから!」

「は、はい」

テトはソファーにゆっくりと腰を下ろして息をついた。

私も隣に座ると、彼の額に手をのせた。

「サ、サクラ様!」

テトは当てられた手に驚いて顔を赤くした。

「あっごめん。熱ないか診ようとして。うん、熱はないみたいだね」

手を離すと、テトは恥ずかしそうに自分の前髪を触った。

「弟がいるからつい、なんかテトにも自然とやっちゃった。ごめんね」

「いえ、心配していただいてありがとうございます。でも、本当に大したことないので」

「うん。でも今日はもう休んで。私なら大丈夫だから」

「えっ、しかし……」

テトはまだ何か言いたそうだったが、私が笑顔を向けると静かに頷いてくれた。

「分かりました。では休ませていただきます。サクラ様も早めにお休みになられますように」

「うん、私も今夜は早めに寝るね」

「何かございましたら遠慮なさらずに声かけてくださいね」

「大丈夫大丈夫。さっ、早く寝ちゃって寝ちゃって」

テトは私の仕草に苦笑しながら、頭を下げて部屋を出ていった。


頑張り屋さんのテトは多分私が気付くもっと前からきっと体の不調を訴えてたんだろうな。

もっと早く気付いてあげられれば良かった。

可愛らしくて弟みたいなテトだけど、年齢以上に大人のように振る舞おうとする彼が頼りにもなり、またに心配にもなる。

私は次第に暗くなる空を眺めながら、テトが早く良くなることを祈った。



「………眠れない。」

真夜中、私はムクッとベットから体を起こした。

いつもなら朝までぐっすり眠れるはずなのに、今夜はやけに目が冴えている。


……なにか飲もうかな。


のそのそとベットから降りると、私はテトに何か淹れてもらおうと、隣のテトの部屋に声をかけようと手を扉にかけた時

ハッと慌てて手を引っ込めた。


今夜はゆっくり休ませてあげようってさっき思ったばっかりだったのに。私はなんてアホなんだ。


こんなにテトに頼りっぱなりだった自分に呆れながら、私はテトを起こさないようにそっと部屋を出た。


真夜中の城を歩くのは初めてだった。

夜は必ずどこに行くにもテトが付き添ってくれている。

暗い廊下を歩いていると、もう見慣れたはずの景色がまるで別のものに見えた。

廊下の燭台がゆらゆらと私を迷わせるかのように揺れている気がした。

私は心細さを紛らわす為に窓の外に目をやる。

外は先程よりも激しい雨が降り続いていた。


ユタの言ってた通り今夜は嵐になるのかな。


昼間の彼の初めて見せた彼の表情を思い出す。

不思議な人だ。

何故かスルスルと私の心に入り込んでくる。


私は自分の胸が微かにチクリと痛んだような気がして、そっと胸に手を添えた。



窓の外の世界は、時折吹く風が木々をバサバサと揺している。


……あれ?


私は窓に顔を近づける。

今、私の視界の中に暗い空に飛び立つ大きな影が飛び込んできたような。


鳥かな?


こんな雨の中一羽の鳥が厚い雲の中に消えていったように見えた。

それを目で追っていると、突然ビカッと暗い空が明るく照らされた。


「!!!」

私は突然世界を包んだ稲光に身を竦めてしゃがみこんだ。

雷は子供の頃から大の苦手だ。ましてや、こんな真夜中に独りぼっちだなんて。


私の一人で頑張るという決意は呆気なく砕けた。

早く部屋に戻ろう。


私は喉の乾きを我慢して、もと来た道を引き換えそうと立ち上がる。

しかし、ゴォゴォと遅れてやってきた雷鳴に、私はまた体を縮こませて小さく悲鳴をあげた。


部屋から出てくるんじゃなかった。

一人でこんな遅くにチャレンジしてみようなんて思わなきゃ良かった。


私は耳を押さえながら、雷鳴が過ぎ去るのを待つ。

すると、すぐ近くの部屋の扉が開き廊下に光が漏れた。

私は開かれた扉に顔を向ける。


「……サクラかい?」

中から廊下の様子を伺ったのは、ルイスだった。

彼は寝巻きに肩からガウンを羽織った姿で、廊下に縮こまっている私を見付けるとキョトンとした顔を表した。

「こんなところでどうしたんだい?」

扉を開け放ち、私の近くまでくると心配そうに顔を覗いた。

私は情けないくらいホッとして、ルイスに答えた。

「眠れなくて、何か温かいものでも飲めば眠れるかなって思ったんだけど。雷鳴り出しちゃってちょっとビックリして」

自分で言って、なんて小さな子供のようなことを言ってるんだろうと呆れた。

そんな私をルイスはバカになどせずに、優しく笑いかけた。

「そうだったんだね。丁度今夜は私も寝付けずにいたんだ。少し私に付き合ってくれると嬉しいんだが。」

「えっいいの?」

「あぁ、サクラならいつでも歓迎するよ。おいで」

ルイスはそう言うと、私を部屋へと招き入れてくれた。

独りぼっちの孤独から解放された喜びと、話し相手ができたことから私はすんなりとルイスの部屋に入った。


彼の部屋は意外にも私のに宛がわれた部屋と差ほど変わらないくらいの広さで、奥にベット、窓際に机、中央にソファーセットがある他は壁はほぼ本棚だった。

王様なんだから、もっとこうデーンと豪華な造りなっているのかと思っていただけに拍子抜けしてしまった。

「どうかしたかい?」

ルイスは振り返るとキョロキョロ見渡す私に声をかけた。

「ううん。なんでもないよ」

首を横に振ると、本棚に飾られているガラス細工に目が止まった。

細い曲線で象られたそれらは、様々な動物の形をしてキラキラと光を集めていた。

こういうセンスがいい置物は、ルイスらしいなと眺めた。



「ミルクティーを淹れてもらったばかりなんだ。サクラも飲むかい?」

「うん、ありがとう」

私は部屋をもう一度クルリと見渡してから、ソファーに腰を下ろした。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

ルイスは自分のカップを私の向かいに置くと、窓の外を見ながら座った。

「今夜は荒れそうだね。風がこんなに吹くなんて珍しい。」

「怖いね。ルイスが来てくれなかったら私あそこに朝までいたかもしれない」

私は紅茶をすすりながらそう言うとルイスは可笑しそうに笑った。

「では、私はサクラの役に立てたのだな。それは光栄だ」

「本当だよ!私雷大嫌っ」


ビカッ


私の言葉は、先程よりも更に大きな雷によって遮られた。

私は反射的に頭を手で覆ってその衝撃を耐えた。

「……大丈夫かい?」

固く瞑った目を開けると、ルイスがこちらを見ていた。

「……うん、なんとか。小さい頃からダメなの。」

「そうか……サクラこっちにおいで」

「ん?」

ルイスは腰を浮かすとソファーの半分をあけ、そこをポンポンと叩いた。

私は言われるがままに彼の隣に腰を下ろした。

「なに?」

隣から彼を見上げると、彼の長い睫毛がフサフサと揺れた。

そして、彼は自分の手を私の手に重ねて指を絡めて握った。

「こうしていれば怖くないよ」

私はその間近で見る笑顔と絡んだ手のせいで、耳までもかぁと赤くなっていった。

まともにルイスの顔が見れない。

今私はきっとすごく間抜けな顔をしてる。

私はどきまぎと動く心臓を落ち着かせようとしたが、そんなことできる状態ではなかった。

そんな事態の最中、窓の外ではまた豪快なまでの稲光が輝いた。


咄嗟に私は、繋いだ手にギュッと力をいれてしまった。

「あっ、ごめんなさいっ」

私は急いでその手の力を抜くと、繋がれた手が小刻みに震えているように感じた。

気のせいかとも思ったが、確かに微かに震えている。

不思議に思った私は、隣にいるルイスをゆっくりと見上げた。

「………ルイス?」

彼は私とは反対の方を向いてしまっている。

この反応は………。


「………ルイス、もしかして」

「………」

「……雷、苦手?」

「!!」


ルイスの肩が分かりやすく、ギクッと反応した。

それから私からでも分かるくらい、耳までも赤くなっていく。

その意外なまでに可愛らしい反応に、私は思わず軽く吹き出した。

「……サクラ笑わないでおくれ」

ルイスは少し焦ったように、赤くなった顔で振り向く。

その困った顔が可愛くて、私はますます笑ってしまった。

「……ごめん、ごめんなさい。だって、ルイス意外すぎるんだもん」

私の目をうっすら涙が広がっていく。

当のルイスは弱点を知られて恥ずかしいのか、赤くなったままシュンと俯いてしまった。

「……誰にも言わないでくれないか?誰も知らない私の秘密なんだ」

「わかった、言わない。でも隠すことないんじゃないかな?誰にでも苦手なものはあるよ」

散々笑っておいて説得力はないか、と思ったが私は俯いた彼の顔を覗いた。

「……サクラだって笑ったではないか」

彼は恨めしそうに私を見返してきた。

それがなんだか、悪戯を咎められて拗ねる少年のように見えて、私はまた笑ってしまいそうになった。

「バカにしたわけじゃないの。意外だったから驚いて。でも、なんか安心したぁ。ルイスも苦手なものってあるんだね」

「…それは、私にだっていくつか苦手はものはあるさ。」

出会ってからこれまでの間、ルイスは私の中で完璧な紳士だった。

品があって、凛々しくて、それでいてどんな時でも優しかった。

そんな完璧な彼にもちゃんと苦手なものがあって、優しい表情だけではなく、照れたり拗ねたりもするのだと分かって何故か嬉しかった。

「………サクラがいれば。克服できると思ったのだ」

彼はまだ少し赤い顔を上げてた。

「私も幼い頃から雷苦手でね。こんな夜は一人で震えていたよ。大人になれば克服できると思っていたんだけど、結局変われなかった」

「そうだったんだ」

「今夜、サクラがいれば君の前で恥を晒さないように頑張れると思ったんだが、逆に晒してしまったようだね」

照れたような笑い顔が、いつもより幼く見えた。


ビカッ


また大きな雷が私たちを包んだ。

二人とも固く目を瞑ったので、お互いにその歪んだ顔を見て笑った。


「そうだ!ちょっとタオルケット借りてもいい?」

「?どうするんだい?」

私はルイスのベットからタオルケットを抜き取ると、また彼の隣に座り二人を包むように頭からそれを被せた。

「私ね、いつもこうして雷が鳴りやむの耐えてたの。この中にいれば安全だって勝手に自分でルールを作って。だから、ルイスも今夜は絶対安全だよ」

彼は一瞬驚いたように目をパチクリさせたが、すぐにフワリと笑った。

「そうだね。ここなら安全そうだ」

「うん」

「サクラのお陰だよ」

「えっ、やだなぁ私なんてなんの役にもたてないよ」

「そんなことはないよ。サクラは今私に力をくれた。こんな不甲斐ない私にね。」

ふいに、ルイスの顔を悲しげな影が包んだ。


「………ルイス?」

私は心配になり、彼の顔を覗いた。

「サクラ、少し私の話を聞いてくれるかい?」

「えっ…うん、もちろん」

「ありがとう」

彼はいつもの明るい穏やかな笑顔からは想像できないほど、悲しげな表情で私に語りかけた。

「……サクラはこの世界の『生』をどう思った?」

「……生?」

「あぁ。マクリナから聞いただろう?この世界では生は突然現れるんだと。どの家にどの子供が生まれるかは、本当に偶然なんだよ。」

そういえば、初めてマクリナからこの世界について説明されたときにそんなことを言っていた。

「子供が生まれた家では、授かり物として子供を育てるように定められている。誰が決めてその家に生まれたのかもわからないままね。」

ルイスは両足をソファーの上に立て、それを両腕でくるんだ。

「そして私はこの城の王の元に生まれた。一筋の光として運ばれてね。当たり前のように王は私を受け入れ、亡くなるまで私を大切に育ててくれたよ。この国の王にするためにね」

「……でも、それがこの世界では普通のことなんでしょ?」

私は不思議になった。

ルイスは何が言いたいのだろうか。

たしかに私の知っている誕生とは全く違っているけど、それがここでは当たり前として成り立っている。

不思議だけどそれにもきっと何か理由があるのだろう。


「……クラウドはとても腕がたつ騎士だ。昔はただやんちゃだっただけなのに、今ではソウマにだって引け劣らないほど成長した。」

ルイスの話題が急に違うところにとんで、私はちょっと驚いた。

「マクリナはとても優秀だ。学者としてだけではなく参謀としてもその才を発揮してくれる。オルタナも普段はあのように自由にしているが、いざ戦場に出ればその強さは折り紙つきだ。イーヴァは奇襲には欠かせない子だ。小さな体で疾風の如く飛び、作戦の要となってくれる」

それから、ルイスは私を優しく見つめた。

「……そしてサクラ。君は龍の巫女だ。いずれ私達の大きな力となってくれる。」

ルイスの優しかった瞳に再び悲しげな色が灯る。

「………では、私は?私は一体何ができるのだろう。私には誰かと戦う武力はない。誰かに与える知識もない。……私はただこの城に生まれただけだ。それだけで、私は今の地位を得た。……こんな何も出来ない私が」


ルイスは最後そう呟くと、膝の上に顔をのせた。

私は、彼の隣でそれを黙って聞いていることしかできなかった。

突然彼の中で何かが破裂してしまったようだった。

今ここで背を丸くしているルイスは、私が知っているキラキラと優雅に輝く彼ではなかった。

自分の想いを誰にも打ち明けられず、孤独の中で小さく震えている。そんな子供のようなルイスがそこにいた。

自分は何も出来ない。

そう思い込んでしまって、周りの人達がひどく輝いて見える。その眩しさで自分自身の輝きが見えていないのだろう。


私は彼になんて声をかけてあげればいいか迷った。

闇雲に励ましたところで、逆に彼をもっと傷付けてしまう気がした。

彼の抱えているこの悩みは彼にしか感じることの出来ない悩みだから。


私はそっと両手を伸ばし、彼の小さくなった肩を包み込んだ。

ビクッとルイスの肩が揺れた。

「……ルイスは、何も出来なくなんかないよ。」

私は初めて彼に手を差し出されたときのことを思い出していた。

「ルイスは常に誰かのことを考えてあげられる。私が初めてここに連れてこられた時、得体の知れない私に優しく話しかけてくれたじゃない。目を見て笑いかけてくれた。それって誰にでもできることじゃないと思うよ」

王である彼自ら、クラウドが止めるのも聞かずに私を庇ってくれた。

その時の安堵感は今でも忘れられない。

「それにね、皆貴方の事が大好きなんだよ。あのクラウドでさえ、この世界の王はルイスしかいないって言ってたんだもん。そんな風に誰からも愛されるルイスは何も出来ない人なんかじゃないよ」

私はルイスに廻した手に少しだけ力を加えた。

まるで、壊れてしまいそうに脆いガラス細工を包み込むように。

「ルイスは皆に愛されてる。周りの人の事をしっかり見てあげられて、その人達のことを考えてあげられる。国の事を一番に考えて行動してるんでしょ?それって凄いことだよ。だから、そんな風に自分を過小評価なんてしないであげて」



「………ありがとう」

ルイスはポツリと俯いたまま私に言った。

彼の中の靄は少しでも晴れてくれただろうか。

こんなにも彼が思い悩んでいるなんて、誰が想像できただろう。

この世界の矛盾やプレッシャーと一人で戦っていた彼の気持ちが、私なんかが分かるわけはなかった。


やがて、肩に置いた私の手にルイスの手が重なった。

「……サクラも」

「えっ?」

彼はようやく顔を上げると、その手を握ったまま私の顔を見詰めた。

「サクラも私の事を愛してくれるかい?」

触れてしまいそうなほど間近で、彼は私にそう問いてきた。

そのすがるような瞳が私を映す。

「えっ……私…私も………」

突然迫られた私は、自分でも驚くほど動揺していた。突如また頬に熱が広がっていく。

窓に打ち付ける雨音よりも、私の心臓の音が騒がしい。




「………すまない。意地悪な質問だったね」

彼はふっといつもの穏やかな笑顔を浮かべた。

それから、そっと私の手を握ると優しく微笑んだ。

「サクラは不思議な子だね。私がこんな事を話したのはサクラが初めてだよ」

私は動揺を隠すように静かに息を吐いた。

「…そうなんだ。私で良かったのかな?」

「サクラでなければ話してなかったよ。誰にも話せないまま私は疑問を抱きながら王として生きていただろう。自信がない張りぼての王として」

「そんなこと」

私は彼の言葉を否定しようと言葉を発したが、そんな私の肩に彼の頭がポンッと乗っかってきたので、その先の言葉がグッと喉の奥に落ちてしまった。

「……ルイス」

私の声は裏ずっていた。

「……サクラ、しばらくこうしていてはくれないかい?少しでいいから」

ルイスの声は消えそうなほど小さかった。

「……うん」

私は彼の望みを受け入れると、肩に入っていた力を抜いた。


今日だけは、王としてではなく一人の人として誰かに甘えてもいいだろう。

私は肩にもたれ掛かるルイスが少しでも安らげるように、彼の髪を撫でた。

柔らかく細い髪を撫でる。

その感触は小さい頃母親に「高価なものだから触っちゃいけません。」と何度も叱られながらも触ってしまっていたミンクのマフラーのような手触りだった。柔らかさが人間のそれとは違っている。


やっぱりルイスも人間じゃないんだね。


その毛並みを撫でていると、私の心も自然と落ち着いていく。不思議な感覚の中に落ちていった。


ルイスよりも私の方が役たたずなのに。

今だに何も出来ない自分に、さっきのルイスの言葉が重なる気がした。


私は彼の髪を撫でながら、遠くに聞こえる雷鳴に怯えることなく目を瞑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ