目覚めると
『そなたに力を授けよう』
『………私に……』
『此れを使うかどうかはそなたに任せる』
『………』
『そして忘れるな。私は常にお前の味方だ。』
突風が体を揺らした。
バチッとその瞬間に弾かれたように目が覚めた。
「………いて。」
頭を強く打ち付けたような痛みが後頭部を走る。
寝転んでいた体を上半身だけ起こしながら頭を擦ると、涙で滲んだ視界がゆっくりと色付いてきた。
「……なに、ここ。」
その発せられた独り言は、空虚なまでに澄み渡る青い空に溶けていってしまった。
私、どうしたんだっけ。
サクラは頭を擦りながら辺りを見渡した。
緑が生い茂る森の中のような場所だ。穏やかな風がふき、緑の木々を優しく撫でる。
少女漫画の読みすぎで、リアリティーのある夢を見ているのか。
はたまた、もしかして自分は死んでしまったのか。
今の私には到底理解できない状況だった。
目を覚ますと
そこは木々が生い茂る森の中だった。
風が爽やかに吹いていて、暖かな木漏れる日がキラキラと光っていた。
すごく目覚めのいい景色。
を、堪能したのはほんの数秒。もしくは瞬きをした瞬間だけで、次の瞬間には頭の中に信じられないくらいの言葉が浮かんできた。
どこだろう、ここ。
キョロキョロと視線を四方八方に行き渡せても、全く見覚えのない場所だった。ゆっくりと頭が冴えてくる。ぼんやりとした思考から、だんだんとそれは恐怖に変わっていった。
足元にも視線を向けるとサクラのバックが中身が飛び散るように散乱しながらも、ポトリと落ちていた。
そうだ!GPS!
乱暴にバックを引き寄せると中身をバサッと地面に投げ出した。
化粧品がコロコロと転がって草むらに消えていったが、それどころではなかった。
頼むよぉ。現在地を私に教えてくれよぉ。
祈る思いでスマートフォンの画面を指でスクロールした。
検索中というマークがピコピコと何度か点滅した後で
『error』
という文字が浮かび上がってきた。
エラー?なんで?
もう一度試してみたが
『error』
丸文字に変換していた英語表示が同じように映し出されるだけだった。
……いやいや。なにこれ?もしかして、私どっかに拉致られたとか?
しかし、財布の中には朝コンビニのATMから引き出したお金は朝入れたのと同じように全て頭を逆さにしてきちんと収まっている。おまけに学生証や保険証といった身元が分かる物も全てきちんと収まっていた。
体中をペタペタと触ってみたが、特に服を乱されたり、怪我をしているということもなかった。
ふぅーととりあえず安堵のため息を漏らしながら、もう一度頭に触れるとハラリと髪の毛に引っ掛かっていた何かが目の前に舞い落ちた。
「なんだ、こりゃ?」
指先でつまみ上げ目の前にかざす。
花びら?
それは白い一枚の破片だった。
角度をかえて光にかざすと、キラリと銀色を帯びた輝きを放った。
どこでこんなの着いたのかな?
サクラは不思議そうにそれを眺めてから財布の中にしまった。
とにかく、誰かにここがどこか聞かないと。
立ち上がり、膝についた砂をはらおうとした時
ザザッ
近くので何かが動く音がして、反射的に体を前屈みにしたまま凍り付いたように動きが止まった。
………何かいる。
こんな人気のない山ん中にいるのって……熊?いや、人だとしてもそうとうヤバい気がする。
背中に冷たい汗が流れた。
そのままの姿勢で物音のした方に聴覚を集中させた。
『………あれ、オンナじゃないか?』
『まさか!!あれがそうなのか』
『………どちらにしても、捕まえてみればいい』
小声で話す声はサクラの耳にはそう聞こえ、ますます体から冷たい汗が吹き出した。
マズ過ぎるよね。これって。