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旧魔王坂高校 魔術研究部!  作者: 四月一日ワタヌキ
1 新米魔術師の穴
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○日野宮○ 春の満月祭の説話。2

「事故が起こらなかったらば、先輩たちはなにがしたかったんだろう?」わたしは言う。「あの二人は杖を打ち合わせてなにをしたかったんだろう?」

 そう、新歓の演術会は終わっていなかった。事故で中断されていなかったらば、先輩たちは何がしたかったのだろうか?


 キノコが腕を組む。

「筋書き自体はよくある説話でしたね」


「春の満月祭の定番だね! 赤と白に分かれて戦っていたけど、陰の巫皇陛下が赤の一族に火の力、白の一族に水の力を授ける。で一族の若者が力比べをして、不思議現象を起こし、仲直りしましたよ! って話ね」丸様が話慣れている調子で言う。


 そう、よく知られた話。満月祭で神社の舞台で毎年上演されている。子供のころから飽きるほど見ている。リンゴ飴の甘さとセットになった思い出だ。

 ストーリーに合わせて火花が散ったり煙が立ち上ったり、先輩の髪の毛が逆立ったりしていた。ストーリーに遅れることなく繰り出される魔術の数々。学生でもここまでできるんだって驚いた。

 わたしたちはそれを見て歓声を上げたり、ため息をついたり、手に汗握っていた。


 魔術研究の演術はストーリー仕立てで行われることが多い。 

 それは魔術というものが五大元素を精緻に織りあげたものだからだ。魔法は生まれつきの能力だけど、魔術は後天的なものだ。つまり、学んで磨いてうまくなる。

 五つの要素すべてを使うのは、一人の能力では難しい。複数の能力者を掛け合わせるか、魔法具を使う必要がある。


 だから物語という縦糸で五つの魔術という横糸を織りあげる。それでより強大な魔術を行使できる。


 短い演術ならば五分くらい。一つの元素の魔術を一分で行う。魔術師の実力にもよるけれど、一般的には長い演術の方が巨大な魔術を成すことができる。


 新入生歓迎演術会における魔法事故が起こった問題のシーンは確か。

「力比べのシーンか」わたしは言う。


「力比べ?」月野くんが言う。

「事故が起こったときは力比べのシーンだった」わたしは言う。

「そうでしたね」キノコはうなずいた。


 丸様はキノコからもらったキクラゲ飴で口をもごもごさせながら「赤の一族は空を七色のだんだら染めにして、白の一族は地上にいきるものすべての動きを止めてしまうんだよ」と言った。


「へー、丸様ちゃんは詳しいんだね」

 と言いながら体育座りの月野くんはもぎ取った文字の枝でぱちぱち地面を叩く。

「正確には七色の雲と七色の空が七刻踊り続け、地を這うものどもは鉛のごとき重さでうずくまる、だけど」

 丸様は鼻からふんっと息を吐く。


「よく知ってるね」

 わたしが言うと丸様は胸を張った。

「小さい頃暗記させられたんだよ、ウチ神社だから」


 わあ~、実家が神社。すっごいな。

 と、感心していたら月野くんと目があった。キノコも鳳凰使いでエリート一家っぽいけど、丸様は神社の娘で伝統を継ぐおうちの子か。


 魔術研究部なんて異端好き、新しもの好きの変人が集まるところかと思っていたけれど、少し違うみたいだ。


 そういえば魔法の系統が一つだけの人は特別な才能を持っているって聞いたことある。

 特別に強い魔力か、二つ以上の魔法を駆使できる。


 丸様は土系一本だったよな。見かけによらず、こいつは実力者かもしれない。うん、失礼な発言だけど。


「ピンク頭が、しくじったって言っていたよね。赤の一族を演じていたのがピンク頭だよね?」わたしは言う。

「光沢先輩です」キノコが注釈を入れてきた。

「そうそう光沢先輩。赤の一族は・・・」わたしはストーリーを思い出そうと考え込む。

「空を七色に変える魔術を使うんだよ!」丸様が言った。


 なんとなく全員で空を見上げる。

 さっきと変わらず平坦な青い空。魔術で作られた偽物だから当然だけど。

「青だねー」

 月野くんが脳天気に言う。


「先輩方の魔術は空は作れましたれど、色を変える術式でなにか間違えたのでしょうね」キノコは腕を組み直す。

 巨大文字の壁から蒸気がプシューと吹き出した。

「ワタシ、なんにもわからないよ!」

 丸様は力強く拳を振りあげた。

「わかってますよ」キノコが言う。

「ぼくもわかりません・・・」

 なぜだか月野くんがうなだれている。

「はい、わかってますよ」キノコが言う。


「ううう、惨めだ。なんで『オレ最強!』じゃないんだよ」

 月野くんは頭を抱えてしゃがみこんだ。

 わたしはキノコと目線を交わす。

 月野くんは思春期のむずかしいお年頃なのかな? なにかヒーロー願望が強いのかな? それとも単に錯乱しているだけなのかな?


「まあとにかく今わかっていることは3つある」

 わたしは探偵のようにみんなの前で解説を始めた。

あと一話で第一賞はおわりです。

よろしくお願いいたします。

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