○日野宮○ 新入生顔合わせ! 4
「なにやってんだよ、角吉」
林田君が駆け寄り、角吉の右手をとる。
青い煙をくすぶらせる右手は赤く腫れ上がっていた。
「メイちゃん、塗り薬」
メイちゃんはレースのエプロンポケットからいくつかの小瓶を出すと乳鉢で混ぜ合わせる。
「はい! 電撃系火傷特効薬なのです」
乳鉢を掲げて決め台詞を叫んだ後、素早く角吉の右手に塗り包帯を巻いた。
口にえびせんを詰め込みながら月野くんが振り向く。
「ん? どうしたのあの子」
わたしは腕を組む。
「いやあ、自業自得ってやつ?」
「ふーん。でも痛そうだね。かわいそー」
可哀想と言いながらもえびせんを食べる手を止めない。
「角吉、おまえバカなんじゃないのか」
林田君が言う。
「儂が思うにバカじゃなかったらこんな失敗しない。惨め」
和服黒子のジーローが懐手をしながら笑いをかみ殺す。「惨め惨め」
角吉は包帯を巻かれた自分の手を見る。
「ちゃんとスイッチを押したのに、あいつ反応しなかった。二回目もそうだよ。三回目押そうとしたところでこのざまよ」
「ざまあない。くっくっくっく」
ジーローが笑う。
「ねえ、メイちゃん。儂が今、このざまとざまあないを・・・」
「ちょっと黙ってろジーロー」
メイちゃんは縞々ニーソックスのひざを突いて角吉の手を握りしめる。ふりふりのエプロンがふわっと広がる。
「早く良くなりますように祈りますです。でもね」
メイちゃんの目つきが厳しくなる。
「こんなイタズラは今回限りにしてくださいですよ」
角吉は頬を膨らませてふてくされようとしたけれど、メイちゃんのこめかみに青筋が立っているのを見て「わかったわかった」と言う。
「返事は一回」
拳を握りしめたジーローが言う。
「ジーローは黙ってろ」
メイちゃんは素早く裏拳をかます。ジーローは鼻を押さえて悶絶する。
「みんな、仲間だよ? ね?」
「はいはい、仲間ですー」
角吉は唇をとがらせ横を向く。
「心配かけてごめん」
メイちゃんが声をあげて角吉に飛びついた。メイドさんとゴスっこの抱擁は、面白い絵面だ。
「一年の新入生たち、仲がいいんですね」
キノコがキノコの山を両手の指の間に挟んで一個づつ平らげていく。
「実に麗しい光景ですよ」
ポッキーをトドの口ひげみたいに口から生やしながら丸様がうなずく。
「うん。ちょっとバカみたいだったけどね!」




