プロローグ ○日野宮○わたしは魔法使いになりたい。
・プロローグ ○日野宮○
だいたい今時魔法や魔術なんて大まじめに言う方が恥ずかしい。
火をつけるのならば指先からちょろり立ち上る緑の炎よりもジッポーのオイルライターの方が便利だし、風を起こすのなら気合いを入れた手のひらから起こるそよ風よりナショナルの扇風機の方が効果的。
それに魔法はふつうの人は一個しか使えない。
生まれ持った体質だから使える魔法は決まっている。
まれに2つ使える人がいる。一万人に一人くらいは3つ使える人もいるそうだ。相当な特殊体質だ。
でもさ、魔法が使えるからってどうだっていうんだ。
大まかな原理しかわかっていない。大部分がブラックボックスで不安定。
そんなものが社会のメインを張れるだろうか?
はれない。当たり前だ。
指先に灯る緑の炎の強さと太陽と地球の距離が関係し、荒れ地に水を湧きだすためにどこかの池が空になる。魔法使いが風邪を引いたら巻き起こる風が暴走し鎌イタチになる。
そんなもの信用できないし、システムに組み込めないし、胡散臭い。
だから人前で「魔法大好きで、その力を高めるために瞑想したり研究したり修行している」
なんていったら、社会人ならばダメな人扱いされる。そういうものがあるのは確かだけど公言したらば痛い人なのだ。
もちろん、我が国の象徴としてのトップは巫皇だ。神に祈りを捧げ、護国と五穀豊饒のために魔術を施行する。
町に一つは神社があり、神主さんや巫女さんがいろんな呪いやお祈りをしてくれる。
古式ゆかしい公的な魔術は認められている。
蔑まれているのは私的な新しい魔法。
勝手に五大元素や精霊や神とつながってはいけないのだ。正式な手続きを踏まないで才能だけでそれを行うのは、危うい。
魔法や魔術を追求するなんていうのはすっごく古い人間か、見えないものが大好きな変わり者だけ。
でもさ、わたしはそういうものが大好き。
魔法の才能を伸ばしたいし、可能性を追求したい。
それに私は高校生で、ちょっとおかしなことを好きでも世間的に問題ない。
最初に入った高校には魔法部も魔術研究部もなかった。悲しかった。
父の都合でトウキョウに転校することになった。旧魔王坂高校は名前のとおり魔力の強い土地に建ち、卒業生で有名な魔法魔術研究者も多い。
というわけで、わたし日野宮コノミは旧魔王坂高校魔術研究部に入部することにしたのである。