●月野● そして鳳凰は語りだす
「え? ユムユムも喋るの?」
「もう一度問おう。世界に属さず、約束破りの者よ、お前はなにとして覚えられたい?」
鳳凰のユムユムは赤い虹のように色を変える羽を揺らめかせる。瞳は燃えるような紅玉色で見ていると吸い込まれそうだ。
「えーっと、ほんとは勇者がいいけどぼくはまあ普通だし・・・・」
「その意気や良し!」
「いや、なにも答えてないし」
「勇気を持つ者よ。そなたがどうしてこの世界にやってきたのか考えたことはあるか」
人の話を聞かないなあ、鳳凰。
「あのさ、こっちにきたときの悲惨さから、ぼくはいらないものなんだって理解したの。高望みしないの。理由なんてない、なんかバグみたいなのでしょ」
鳳凰のユムユムはくちばしを開け閉めしてかつかつ音を立てる。
「バグではないよ。若い衆。すべては意味がある」
ぼくは上半身を起こすと鼻で笑った。
「そういうちゃっちい運命論とかぼく信じないから。意味なんかねーよ」
ぼくはパーキングブロックを仕切る柱に掴まりながら立ち上がる。
「なんなら、ぼくはすべてに意味はないってことを証明するものとして覚えられたっていい」
鳳凰のユムユムは目を細めた。冠毛が風もないのに左右に揺れる。
ぼくはこぶしを握りしめて宣言する。
「ぼくを待たない世界で、ぼくはどんな役だって演じるつもりはない。興味があるのはぱんつ、おっぱい、おしりだけ!」
魔法生物停留場に沈黙が降りる。
鳳凰のユムユムは咳払いをした。
「そうか。それならそれでもいい。すべてに意味はないことを証明するものよ。我ら魔法生物はおまえを歓迎するぞ」
てっきり怒られて、下手したら火とか吹かれるかと思った。
「歓迎しちゃうの?」
ユムユムは大きく羽を広げる。世界中の赤が集められ、精緻に羽の上に並んでいる。そんな鮮やかさ。
「そうだ。魔法大戦以降、人間どもも魔力が弱まったが、我ら魔法生物も弱まった。源がどこかで制限されている。わしにも往時の力はない」
ユムユムの周りに魔法の炎が揺らめき出す。でもその炎はパーキングブロックをはみ出ることはない。
「なさけなや。こんな術式に捕らわれるか、今のわしは」
一瞬にして魔法の炎が消える。
ぼくはおそるおそる尋ねる。
「キノコちゃんに使役されているのが気に入らないの?」
鳳凰のユムユムは哄笑した。
「気に入らぬものに使役などされぬ。あのものの資質に惚れ込んでいるのだよ」
「じゃあなんで、苛立ってる風なの?」
鳳凰のユムユムは自分の羽をくちばしで整える。
「なんでだろうのう」
ぼくはユムユムの落ちた風切り羽を拾う。抜けた羽毛でも取り込まれるような魅力がある。
ぼくでさえぱんつより羽を選んでしまいそうになるかも。
「わしら本来の姿に戻りたいだけだ。誰かがこの世界の理を変えた。それによってすべての生命が違うルールの元で生きることになった。若者よ」
鳳凰のユムユムが巨大なくちばしをぼくの近づける。
「その理さえ意味がないということを証明してみよ。そうであれば我らは貴様を陰ひなたに助けてやろうぞ」
これで、一応月野君の章はおわり。たぶん。鳳凰がなんか締めちまった。
次からは日野宮の章です。