●月野● ぼくはヒーローかもしれない。4
「早く言ってよー」
ぼくは言う。
「今、注意してあげました。身を守ることも覚えてください」
「はい」
腰に手を当て堂々と宣言するキノコちゃんには逆らえない。
「しっかしよー、キノコがまじゅけん部とはな、一年の頃には考えられなかったぜ」
玄葉ちゃんはほっぺたを膨らませてみせる。
キノコちゃんは真顔のままうなずいた。
「そうですが、人は変わるんですよくーちゃん。今年の私は部活動熱心な女子です」
鳳凰のユムユムを撫でる。ユムユムはキノコちゃんに頭をこすり付け、気持ちよさそうな声を出す。
ちらっとキノコちゃんのスカートがずれる。
ぼくは鷹のような目になった。シンプルなストライプ。そっかー。
「だって変ですよ。高校生でも魔法事故を起こして怪我をしたり、呪で病になるのに、全部『きのせい』とか『免疫弱い』せいにされるんですよ」
「まーな」
玄葉ちゃんはうなずいた。
「大戦からこっち、民間の魔術がどんなにバカにされても廃れないのは『ある』からだよな」
「そうですね。私はやることがあるんです」
キノコちゃんはそういうとパ-キングスペースの鳳凰の首をひとなでして、校舎へ向かって歩いて行った。
「じゃ、アタシそろそろ行かないとまじで遅刻しちゃうな」
マイクロミニスカートをひらひらさせ、ツインテールをふさふさせながら玄葉ちゃんも歩いていく。
「え? ちょぼく置いてきぼり?」
玄葉キックのダメージで起き上がれないぼくは1時限目遅刻決定みたいだ。
心配した魚頭馬が磯臭い顔を近づける。
ありがとう、でもすこし迷惑だよ。
「そうじゃな、坊主。置いてきぼりだ。あちらの世界でもこちらの世界でも」
年老いた賢者みたいな声がした。
首だけを巡らせて、声の主を探す。
でも、人間はだれもいないよ。
「あれ? だれもいないけど声がする・・・」
鳥肌が立ってきた。
早く起き上がらなきゃ。
「わしじゃ。目の前にいるであろうが」
鳳凰のユムユムが喋っていた。
キノコちゃん、やっぱ名前は不釣り合いだよ。
「世界に属さず、約束破りの者よ、お前はなにとして覚えられたい?」