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旧魔王坂高校 魔術研究部!  作者: 四月一日ワタヌキ
2 だから、一体ここはどこなんだ?
13/36

●月野● ぼくはヒーローかもしれない。2

「馬が好きなだけの男子高校生だよ」ぼくは言う。

「ソレダケジャ、ナイダロ」魚頭馬フィッシュヘッドが言う。

「そう、それだけじゃない」日野宮ちゃんが言う。


 魚頭馬フィッシュヘッドのつっこみにも気づかず日野宮ちゃんは顎にこぶしを当てて考え込む。

「新歓の破れるはずのない水たまり、懐かないはずの暴れる危険種、知能が低いはずのフィッシュヘッドが話し出す・・・」


「ネエ、チノウガヒクイ、ッテイワレタヨ」

「言葉の綾だよ。気にしない、気にしない」

 ぼくは魚頭馬フィッシュヘッドの胴体を叩く。毛がみっしりと生えていて温かい。ブラシかけてやりたい。


 馬の匂いってぼくは好き。草と獣臭さとすてきな何かが混じっているんだよね。まあ、魚頭馬フィッシュヘッドはそこに磯臭さが混じるけど。

 でも好き。馬の早駆けしたあとの汗の匂いだって好きだ。


「学校のみんなもさ、結構好き勝手な乗り物をつかってるよね」ぼくは言う。

「うーん」

 顎に手を当てたまま日野宮ちゃんは上の空だ。魚頭馬フィッシュヘッドは口を半開きにしながらおとなしくついてくる。

 エラが動いているけど、こいつはエラ呼吸なのかな、肺呼吸なのかな。疑問だな。


 並んで歩くぼくらの横をでかいひよこが追い越していく。

「はよっ! 月野!」

 背中に乗った童顔の女の子が二つに結わえた髪を揺らしながら手を振る。同じクラスの玄葉ちゃんだ。


「おはよう。玄葉ちゃん」

「とろとろ歩いてんと遅刻するぞ」玄葉ちゃんが言う。


 一陣の風が巻き起こる。

「うわっつ」ぼくは頭をかばう。

 きらきら光る鱗の残像だけがまぶたに残り、本体は高く空に舞い上がっている。琥珀龍だ。


「お? 三年の光沢先輩じゃね?」

 でかひよこに掴まって空を見上げた玄葉ちゃんが言う。

「わあ。やっぱり楽しそうな人生だなあ」ぼくは言う。


 キノコちゃんは光沢先輩を

「あれはあれで大変ですよ」

って言ってたけど、通学用琥珀龍だよ?  

 楽しいにきまってるじゃないか。

 ぼくなら土下座して靴を舐め回してでも変わって貰いたいね。

 まあ。やんないと思うけど。


 日野宮ちゃんはうわの空で、腕を組んだまま歩いていき、電信柱に激突した。

「気をつけな」

 おでこをさすりながら日野宮ちゃんは、電信柱と気づかず凄んで、そのまま歩いていく。


「あの松組の転校生、かわってんなあ」

 でかひよこに寝そべりながら玄葉ちゃんが言う。

「日野宮だっけ? あいつもまじゅけん部に入ったんだよな」

「そうだよ。ぼくも日野宮ちゃんも新入部員だよ」

 玄葉ちゃんがチェシャ猫みたいに笑う。


「そうかい。じゃ、月野も日野宮もアタシの部活的後輩だな」

「え?」

 玄葉ちゃんが手を差し出す。

「二年梅組の玄葉よつば。まじゅけん部員です」


 ぼくはまばたきを三回する。

「えー、昨日の新歓に出ていた?」

「シンカン?」魚頭馬フィッシュヘッドが首をひねる。


 玄葉ちゃんがでかひよこの背で跳ね起きる。

「うわっ、その魚頭馬フィッシュヘッド喋んの?」

「ウワッ、ッテイワレタ」 

「そうだね、言われたね」ぼくは魚頭馬フィッシュヘッドの首筋をなでる。

「うん、話すんだよ。これってビックリすること?」

「ビックリって月野・・・」

 でかひよこにちんまりと座り直し、玄葉ちゃんは片眉を上げてみせる。

「ふつうじゃないよ、おまえ」


 魚頭馬フィッシュヘッドと顔を見合わせる。魚頭馬フィッシュヘッドはエラをぱたぱたさせる。

「すごいって言われたね」

「スゴイスゴイ」

「いや、別に誉めてないけどさ」玄葉ちゃんがばしっと言った。


 ぼくはそっと玄葉ちゃんのでかひよこに触ってみる。思ったよりもひよこの毛は硬かった。

「硬っ!」

 でかひよこは素早くぼくの手の甲をつついた。


 ちょっとうなだれぼくは玄葉ちゃんに尋ねる。

「ねえ、玄葉ちゃん。ぼくは魚頭馬フィッシュヘッドを飼いたいんだけど、学校に持ち込むのになんか手続きいるの?」

「テツヅキイルノ?」

 魚頭馬フィッシュヘッドは復唱する。


 玄葉ちゃんは小さな手でぺたんこの胸を叩いて見せた。

「任しときな。アタシの手にかかれば、魔法生物持ち込み許可証なんて一時限目が始まる前に手にはいるぜ」 





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