●月野● ぼくはヒーローかもしれない。
土日は一回の更新です・・・・
ようやく月野くんの活躍? ハーレム?
展開開始・・・のはずです
「おはよー」
「あ! おはよう日野宮ちゃん」ぼくは答える。
鞄を背負った日野宮ちゃんの足下がニーソックスで、朝からぼくは元気がでてきた。
日野宮ちゃんはミニスカートがよく似合う。日野宮ちゃんはポニーテールに凛々しい表情で「月野くん、何にやにやしてんの」と言う。
「無事迷宮から出られてよかったなって思ってた」ぼくは言う。
日野宮ちゃんは背負っていた鞄をぐるりと前に抱え直し、唇をとがらせる。
「なんで出られたのかを一晩ずっと考えたんだけど」
日野宮ちゃんの目の下にはクマができていた。
「熱心だね」ぼくは感心する。ぼくなんか帰ったらすぐ寝ちゃったもんね。
「気になるでしょ? どうしてあそこで術が破れたか。わたしね、思うんだけど・・・」
いきなり曲がり角からマグロのお頭と馬のキメラみたいなのが飛び出してきた。
「危ない!」ぼくは叫び、日野宮ちゃんの肩をつかむ、
「フィッシュヘッド!!」日野宮ちゃんが言う。
ぼくはとっさに日野宮ちゃんを抱えて、道路の脇にとびのいた。
うん、運動神経だけはいいからね。
魚頭馬はぼくらを見下ろし鼻水混じりの鼻息を吐き出す。日野宮ちゃんが体を強ばらせ「こいつ、危険種なのになんで」とつぶやく。
危険種?
なんかモンスターっぽい響きだけど、魚頭馬はマグロ頭が愚鈍で生臭くてマッドサイエンティストの失敗作っぽい。戦っても何のポイントにもならなさそう。
というかこれは馬の一種でしょ?
ならぼくの黒毛のオハナと一緒だよね。夏と冬の牧場合宿で仲良くなった、年寄り馬。ああ、オハナは元気かな。懐かしくてたまらない。
父さんに牧場合宿と言う名の修行に放り込まれたときは、文句たらたらだったけど、今思うと楽しいことしか思い出さないもんね。
「どうどう」
ぼくは魚頭馬に手をさしのべる。
ぼくのポケットにでがけに豊田さんが「風邪をひくなよ!」って黒飴をくれたのが入っていた。
黒飴を手に乗せて近づけば、魚頭馬が鼻面をすり寄せてきた。
ちょっとウロコで滑るし生臭いけど、懐くとかわいい。どろりとした眼も愛嬌がある。
「月野くん、大丈夫なの?」日野宮ちゃんが心配そうに言う。
日野宮ちゃんは道路の端でヘたりこんだままだ。
「生臭いけど、かわいいよ」ぼくは言う。
鞄をきつく抱え込んだ日野宮ちゃんは、ぼくらにおそるおそる近づいてくる。
「フィッシュヘッドは呪われた馬で、海にも陸にも居場所がない。だからいつも暴れているんだよ」
「ぼくと一緒じゃん」
ぼくは、わかった。居場所がないって辛さ。ぼくに力があったらば、きっと破壊活動にいそしんでいた。
生臭いのも忘れて魚頭馬に抱きついた。ぬるりとした感触が気持ち悪いけれど胴体はふつうの馬。
魚頭馬おまえも大変だね。
「オマエモナ」
馬がしゃべった。
ぼくはびっくりして魚頭馬から身を引きはがす。
「しゃべれるの?」
「キコウトシテクレル、アイテガ、イレバ」
ぼくは頬が熱くなってくるのがわかる。
え? これ初めての仲間? すごく魔法っぽくない?
すごいや。魚頭馬のみかけがちょっと残念なのは忘れることにしよう。
「日野宮ちゃん! ぼく、この子を飼っていいと思う?」
日野宮ちゃんが目をまん丸くしている。
「月野くん、あんた一体何者よ?」
うーん、ただの迷子だけどね。