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旧魔王坂高校 魔術研究部!  作者: 四月一日ワタヌキ
2 だから、一体ここはどこなんだ?
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●月野● 正真正銘の一人ぼっちの迷子 2

 魔法があるってのは、初日から気づいていた。


 魔法具屋の棚のラインナップからしてなんかおかしいと思ったけど、魔法具屋の店主さ、指先から出した炎で葉巻吸ってるの。

 ぼくは一時間立ちっぱなしで、貧血おこしかけて、意識が遠くなってきていた。

 でも緑の炎のインパクトはすごいね。一発で意識がはっきりした。


「すごいや」

 ぼくの歓声も素知らぬ顔で、店主は葉巻をふかす。ひげもじゃのおっさんは随分と客に信頼されているみたいだった。「これどう?」「あー。そいつは、あんたにや合わないな。一つ前のモデルにしな」

 ぼくはなんだか恥ずかしくなって、店を出た。交わされる会話がちっとも分らなかった。みんな魔法なんて当たり前って顔していて、きゃーきゃー言うなんて子供っぽすぎた。


 ここはぼくのいるべき場所ではない。 


 カワサキ周辺をうろうろしているのは、昼間は楽しい。

 見たことのない店、中身だけ違う店。街中ににょっきり伸びる異形な天文台。

 店先を覗きこんだり、見慣れぬものを指差し、店員さんに話しかけてそれがなんなのか説明してもらうのはうれしい。

 ぼくが異世界迷子ストレンジャーだってばれないし、ぼく自身も自分が異世界迷子ストレンジャーなんかでなく、単なるお客さんであると信じ込めた。


 そしてぼくは時間を見計らってメシ狩りに行く。

 狩場はコンビニか商業ビルの裏手ね。時間切れの廃棄物狙いだ。


 ホームレスと翼の生えた猫との縄張り争いは厳しかった。

 ぼくは最下位なので、両者が争っている隙におこぼれをいただく。


 ああ、ぼくは翼の生えた猫以下なんだ。

 そう思っただけで、涙がだーだー流れた。涙腺がバカになったみたいで涙が止まらない。でかい体をした男子高校生が泣きながら夜道を歩く。

 決して美しいものではない。

 美しくはないけれど、その時のぼくにはどうしようもなかった。


 住み慣れたベンチの下に潜り込み、その晩も泣いていた。

 泣いた理由は忘れた。泣く理由なんかたくさんあるからね。そんなもんだ。


「おい、がさがさ、ずーずーうるせえぞ」


 泣きすぎて吐きそうになっていたぼくは、体を強張らせた。

「すみません。もう泣き止みます」

 って言った途端に吐き気がこみあげてきてげえげえ言い出した。

 ぼくはベンチ下から這い出して、大切な新聞紙も振り捨て、体を二つに折り曲げてげえげえした。

 

 ぼくの冷えた背中に温かい手が置かれ、さすってくれる。

「おいおい、大丈夫かよ、坊主」

 あ、すみません、ありがとうございますってお礼を言いたかったけれど、

実際に発した言葉は「あずdべあぼりごう」だった。


 おっさんはひげもじゃも顔をくしゃくしゃにすると

「いいよ、気にすんな。全部吐いちまえ」

と言って背中をさすり続け、ぼくにスポーツ飲料を買ってくれた。

 スポーツ飲料を一口飲めば、やさしい甘さに胸が熱くなる。


 あちらの世界ではさ、「これあんまりおいしくないよね」なんて言って限定商品のペプシバイオレットをまーくんに押し付けたりしていた。

 今はとても反省している。

 まーくんもセッチンも東海も父さんも母さんも瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんも元気かな。

 空を見上げると丸く月が二つ浮かんでいる。


「なんで二つなんだよ・・・」

 本当に嫌だ。天体からして異世界を表現しなくてもいいじゃないか。


「お前はもしかして『大いなる迷子』か?」


 おっさんが肩をつかんで前後左右にぼくを振り回す。

「おい、珍しいなあ」

 ぼくはぽかんと口を開ける。「はあ?」


「『大いなる迷子』なんだろう? 魔法文献に書いてあった」

 魔法文献? ぼくは聞きなれない言葉をうまく飲み込めない。めまいがするような感覚がまだある。頭がぼんやりしている。


 ひげもじゃおっさんは興奮している。ぼくを揺さぶるスピードがさらに速くなる。ちょっと吐きそうだ。

「こことはそっくりだけれど違う世界が大きくは7系統あって、そのうちの2つからは人が迷い込んでくる。そのうちのひとつの世界では月が一つしかないってホントか、おい」おっさんは言う。

「月はひとつでしょ、当たり前だよ」ぼくは答える。

 嘘をつくのも疲れた。

 まあいいや、ばれたって。それにこのおっさんなら平気な感じがする。悪い人じゃない。


 ひげもじゃおっさんは神社の神主だった。魔法具屋の店主も兼任していた。あのラゾーナの魔法具屋。ぼくが一番初めに出現した場所。あそこの店主だった。

「あのな、魔法具や魔術具は見る目を持った人間がフィッテイングしてやらんとあかんのだ」

 おっさんは豊田と名乗った。

「おい、坊主。俺のうちに来い。部屋数だけはあるし、氏子さんのご厚意で食い物だけには困らんからな」

 ぼくは自分が手に持っていたペットボトルを落としたのも気づかなかった。

 ぼくは初めて本気で頭を下げていた。

 

 そしてぼくは豊田神社の子になった。高校にまで転入させてもらえたんだから、ひげもじゃおっさん、ほんといい人。


 ぼくはまだ運命の女神に見放されていなかったってことだね。


 



ようやく月野くんの自己紹介は終わり!

部活に参加した月野くんはどんな変化があるのか

変化なしか

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