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旧魔王坂高校 魔術研究部!  作者: 四月一日ワタヌキ
2 だから、一体ここはどこなんだ?
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●月野● 正真正銘の一人ぼっちの迷子 1

 ここは、なんか変だ。


 ぼくのいた世界ではない。

 手が変な汗をかいている。心臓の音がやけに耳をつく。


「セッチン! 東海! まーくん!」

 もしかしたらこの妙な事態にあいつらも巻き込まれているかもしれない。

 そんな儚い望みを抱いて、ぼくは声を上げる。


 もちろん返事なんかない。ぼくの友達からの返事はない。

 通りすがりのおばさんがぼくの大声に対して「行儀が悪いわね」と眉をしかめただけ。


 ぼくは足に力がうまく入らなくて、駆け出したいのに歩行訓練する老人のような足取りだ。

 もう一度、店の中に戻るんだ。あの薬草棚の前に立てば、あいつらといた本屋に戻れるかもしれない。セッチンの間抜け面を笑ってやれる。


 ぼくは薬草棚の前に一時間は立っていた。届かないメールを何十通も送りながら。


 魔法具屋の中にも、どこにも、見知った顔はなかった。

 ぼくは正真正銘の一人ぼっちの迷子だった。


 ここでね、「あなたを待っていました勇者様!」

 って耳の長いかわいい女の子が迎えに来てくれたら、いいよね。

 ぼくだって、ない能力振り絞ってがんばれる。なんか素敵な剣とかふるって。

 こう見えても運動神経だけはいい。すごいでしょ? 

 きっとうまくやれた。

 馬も一応乗れたりする。だから迎えにさえ来てくれればばっちりだったんだ。


 ファンタジックな動物が迎えに来るパターンもいいね。ペガサスやグリフォン、麒麟なんかも格好いい。


 でもいない。

 

 変な動物を連れて歩いている人たちはたくさんいたけれど、ぼくが知っているようなメジャーな動物ではない。それに動物たちもぼくになんか一ミリの興味も持っていない。


 あ、違った。小さなヒトカゲに威嚇された、あの日。それでラゾーナもどきを飛び出した。


 ぼくは新聞紙にくるまって、公園のベンチの下にいた。


 なんかに隠れると安心できたのだ。

 ゴミ箱から拾い上げた新聞紙がぼくの震えを拡大して、カサカサカサうるさい。

「もももももう、かか勘弁してくれよううう」

 泣いてた。涙と鼻水が止まらなかった。定期も使えないし、硬貨もお札も使えない。携帯も通じない。おなかも減った。


 この世界の我が家に家族がいるのかどうか。


 居なかったらば、どうしようぼく。

 奇声を発しながら裸で町内一周しちゃうかも。

 そんなことをするのは、嫌だなあ。


 なんてしょうもないことをぼんやり考えていた。

 そしていつの間にか寝ていた。体育があった日だったからジャージも重ね着できたし、新聞紙は温かかった。

 この時のぼくに温かく接してくれるのは新聞紙しかいなかった。

 笑い事じゃない。実際にそういう体験してみなよ。

 人間が怖くなる。新聞が恋しくなる(スタンドで売られているものもね!)。自分がゴミに思える。


 ま、そんな感じで二日が過ぎた。


 不況といえど飽食日本万歳ってわけで、コンビニの前をはっていると食べ物にありつけた。

 水はトイレで飲めるし、ありがたいなあ。

 暇だからこちらの世界の新聞を読んでいた。


 それで、はっきりした。ぼくがいた世界では絶対にない。

 巫皇って誰だよ。そんなの知らねえよ。


 残り物のおにぎりをかじりながら悪態をついた。

 巫皇陛下の誕生日に日嗣の宮がなんか素敵なものをあげたっていうニュース。

 本当に別世界。

 日嗣の宮ってこちらでいう皇太子だって。白い衣を頭からすっぽり被っていたけれど、手とか体つきからすると若い女の子みたいだった。


「君が迎えに来るべきなんじゃないの?」ぼくは言う。

 目の前にいた緑色のカラスが首をかしげた。まあ、ぼくにふさわしいのはカラスくらいのもんですよね。

 決してこの白いお姫様じゃない。

  

 警官はなんだか怖くて避けた。


 目つきが鋭いし、自分の状況をどう説明すればいいってのさ。

「勇者になりそこないました」

「ただの迷子です」

「ここは僕の世界ではありません」


 うん。頭の痛い子みたいだ。



月野くんの独白は暗かった・・・

もうしばらくすれば暗くはなくなるはず

もうしばらくお付き合いくださいませ

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