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夢の延長線へ  作者: 暁文空
EPISODE01――Third Golden Time
5/15

04:テイスティング2 次に来る者


 紅組vs白組

 一回表

 0-0

 無死一塁


 皆川和茂の内野安打により、いきなりランナーを出した森黒智基。しかし、焦ってはいない。

 確かに紅組には白龍の攻守の要、主砲の城志摩健助がいるものの、後は目立った選手はいない。

 せいぜい、一年の有望株である澤田紀彦や鈴本和美あたりが気になるかどうかである。

 それに、あくまでも内野安打。当たりはどう見てもアウト。

 和茂が俊足であったがためのヒットであり、智基の球が悪かったわけではない。故に、自信喪失には繋がらない。


 だからこそ、焦らずに二番バッターへと球を投げる。

 コレも得意球のツーシーム。

 コースは甘く入る。――だが、それでいい。動いた先が厳しいコースであれば。

 甘い球を捉えたと思った瞬間にバットをえぐり、打球を殺す。

 ゲッツーも狙えるそこそこの打球速度。そして、サード真正面というコース。

 だが、それをランナーの和茂は許さない。打球が地面でバウンドしたのを確認したと同時に加速する。

 あっという間に最高速度に乗せ、速度を維持したまま二塁ベースへと滑り込み始める。

 結局、三塁手は一塁に投げて一つのアウトをとる事しかできない。

 だが、アウトはアウト。

 あと二つをとればチェンジなのだ。








 04:テイスティング2 次に来る者








 紅組vs白組

 一回表

 0-0

 一死二塁


 バッターボックスに立つのは、今回の紅白戦では3番レフトである一年生の鈴本和弥。

 メジャーリーグでも有名なアベレージヒッターをリスペクトしているからか、垂直にバットを立てる仕草をしてから、バットを構える。

 それを観察しながら、智基の相方は配球を考える。

 鈴本和弥というバッターはボーイズリーグ最強とまで言われたアベレージヒッターである。

 巧みなバットコントロールを武器にヒット、ホームランを量産し強豪校からも注目されている選手だ。

 故に、上級生と比べても打撃力に関しては見劣りしない。

 それどころか、バットコントロールに限れば松居英幸に匹敵するものがある、と智基もその相方も認識している。

 しかしながら、彼を抑えなければ最悪の状況で最強のバッターである城志摩健助がバッターボックスに立つという事を考えると、ここでせめてアウトをとっておきたい場面。

 勝負に出るしかない。そう思った相方が智基へとサインを出す。

 そして、智基は頷き、投球モーションへと入る。

 セットポジション。そして、最小限のテイクバックからボールを放つ。


 今度はツーシームではなく、かつては現代の魔球とも呼ばれたカットファストボール。

 アメリカが発祥のストレートとスライダーの中間の球。ストレートと思わせておいて手元で少しだけスライドし、ゴロを量産するための変化球。

 凡打を量産する、という点においてはツーシームとの違いはない。

 だが、こちらを選択したのはスイッチバッターである和弥は現在左バッターボックスに立っており、智基は右投げ。内角を攻めるにはツーシームではなくカットボールとなる。

 よりバットの根元を狙い、ボテボテのゴロにする。あわよくば、捕手がそのゴロを取り、三塁へとなげ二死一塁という状況を作り出したい。そういった意図の配球。

 それに対し、和弥は振り遅れ、バットが空を切る。


「……? どういう事だ?」

 智基は小さくそう呟く。バットコントロールに定評のある和弥の空振りはあまりにも予想外すぎる。

 これが和弥による高等な心理作戦であったらどうしよう、という不安に駆られる。


 ――いや、だがあの様子はどう見てもそうは見えない。


 そう思いながら、智基は相方のサインを確認する。

 そして、それにより、智基は自信を持って二球目を投じる。不安はない。

 ストレート。ストライクゾーン。甘く入っていたが、これもバットが空を切る。

 ニヤリとしながら、三球目もストレートを投じる。

「ストライク、バッターアウト」

 三球三振。智基にとっては好都合の――そして、和弥にとっては不都合な結果。


 これで二死二塁。

 バッターは、城志摩健助。

「さァて、いくか……」

 そう呟きながら、ホームベースをバットでこつんと叩いてから、構える。

 ゆったりとしたその動作に貫禄がある。捕手はそれを見て威圧される。

 故に出したサインは敬遠。一塁も空いている。勝負しなくてもいいはずだ。

 そのような意思が見えるこのサイン。それに対して智基は首を振る事で答える。

 勝負。それが智基の結論。

 これが公式戦であれば智基もサインに従ったかもしれない。

 しかし、これは紅白戦。個々の実力を測る場。

 敬遠では実力を測れない。だからこそ、智基は首を振る。

 実力を測ってもらい、認めてもらえれば、二番手エースに昇格できるかもしれない。そう思って、首を振ったのだ。

 相方はその動作でその意思を感じたのか、サインを変える。


 勝負。


 サインを確認し、智基は球を投げる。

 外角低め。長打を防ぐためにもストライクゾーンギリギリを攻める。

 それに対して健助のスイングが球を襲う。

 全国クラスといわれるスイングスピードが球に当たれば外野奥深くまで飛ぶ事は確実。スタンドインもあり得る。

 しかし、それを防ぐためのツーシームやカットボール。

 彼の投げるストレートは直前までどのような軌道を描くかはわからない。


 ――そして、その瞬間は訪れる。


 金属音が鳴り響き、球は飛ぶ。ミットに収まらず、フェアゾーンへ。

 打球はショート方向。そこを守護するのは秋穂真吾。

 アピールのためにもぜひともキャッチしておきたい場面。

 ここで捕球できれば守備力の高さをアピールし、ベンチ入りの可能性が高まる。


 それを認識しているために、真吾は打球へと向かう。

 だが、間に合うか否か。

 ダイビングキャッチであれば確実に届くと判断したものの、それによるエラーの確立が頭をよぎる。

 しかしながら、通常の守備範囲でもギリギリ。

 天秤にかける。

「……決めたっ……」

 そう呟きながら、打球の予測位置へと駆ける。

 三遊間。全速力で打球へと向かう。そして、最後の一歩。

 飛ぶことなく打球を捕球する。地についた足が砂を巻き上げながら滑るがスパイクが足を止める。

 力いっぱい、だが正確な送球が一塁へと送られる。


「アウト!」

 そして、宣言された“アウト”。

「っしゃっ!」

 小さくガッツポーズをしながらベンチへと戻る真吾。

 アウトだった事にホッとする智基とその相方。

 たった一人をアウトにしたこの行為。だが、それは大きな意味を持つ。

 主砲である城志摩健助が凡打に倒れる事など、公式の試合でも数えるほどしかない。いくらファインプレーによってのアウトだとしても、だ。

「……面白くなりそうだね」

 ベンチで泰助はそんな事を呟きながら、肩をぐるぐると回す。


 紅組vs白組

 一回裏

 0-0

 無死無走


 バッターボックスに立つのは白龍高等学校野球部屈指の天才、松居秀幸。

 巧みなバットコントロールとスイングスピードを兼ね備えた打撃の鬼神。

 野球経験が浅いため選球眼こそ良い訳ではないが、そのバットコントロールによりヒットに変えてしまうあたりが天才と言われるゆえんでもある。

 そんなバッターを前にして、マウンドに立つ投手、白龍高等学校野球部二番手エースである安嶋やすじま直人なおとは考える。

 持ち球、今日の調子。

 そして、現在ミットを被り目の前でサインを出している一年生の捕手――澤田紀彦。それらの要因を踏まえ、作戦を立てていた。

 一年生にリードされる、という事実にムッと来るものを抑えつつ、紀彦のサインを確認する。

 別に悪いものではない。……だが、首を振る。

 もう少し良いサインがはずだと、新たにサインを要求する。

 だが、サインは変わらない。頑なにサインを変えようとしない一年生に苛立ちが募るばかり。

「……っ」

 しかしながら、投げなければ話にならない。


 ――ならば、自分が配球を考えても、問題はないだろう?


 そんな事を心の中で呟きながら、ワインドアップから一球目を放つ。

 要求されたコースとは正反対。要求はインハイ。実際に投げたのはアウトロー。

 球種はストレート。最高球速は130km/h半ばを計測し、高校球児の平均を考えれば速球派を自称できるレベル。


 だが、その程度なのだ。

 ストライクゾーンギリギリというわけでもない。球威があるわけでもない。

 そんなボールは天才には通用しない。秀幸は巧みにバットをコントロールし、ボールに合わせる。

 ファールゾーンではあったものの鋭いライナーがバットから放たれていた。

 フェアゾーンであったならば、確実にヒットであっただろう当たりに直人は恐怖を抱かざるを得ない。


 だが、それでも直人は自信を持っていた。

 入学当初から130km/hを計測した自らの右腕を信じていた。

 紀彦のサインはアウトローのカーブ。

 だが、それを無視して秀幸に対しインハイのストレートで直人は攻めに行く。

 130km/h後半台のストレート。格下であれば十分であるはずの武器も、天才相手には十分ではない。

 腕を折りたたみながら巧みにインハイのストレートを捉え、打球はセンター方向へと飛んでゆく。

「ちっ」

 直人は舌打ちをする。集中力は散漫。自らの考える配球どおりにも投げきれる状態ではなく、制球力という面については絶不調といえた。

 最高球速をマークするストレートにしろ、球威は平均的な投手のものと変わらず数字の違いしかない。

 紀彦は球審をしている三年生にタイムを告げ、マウンドへと駆け寄る。


「安嶋先輩。さっきから全然サイン通りじゃねーっすよ。コントロールも危ないし、さっきは球種すら違う。やる気あるんすか?」

「何を言っている。俺は白龍高校ナンバーワンの右投手だ。やる気がないわけないだろ、一年坊主。お前こそ、配球をしっかりと考えてくれよ」

「……それは何? アンタの方が上手く配球を組み立てられるって事?」

「その通りだ」

「その結果、打たれてちゃ話にならないと思うけど?」

「あれはたまたまだ」

「……あっそ。とりあえず、次行きますよ」

 説得を諦め、紀彦はマウンドから去る。

 そして、再びミットを構えながらサインを出す。

 そして、直人が球を放る。


 二番、三番打者を直人自慢のストレートで見逃し三振にしとめ、二死にするも走者は二塁。そして迎える四番打者。

 バッターボックスに立つのは二年の仕切り屋、泰岡たいおかいさお

 豪快なフルスイング、積極的な走塁など様々な場面でその熱血さが発揮され、秋の大会では一応スタメン入りも果たしている長距離打者。

 紀彦は彼がバッターボックスに入る前の素振りを見て、戦慄する。

 バットコントロールはともかく、当たればスタンドインの可能性がある。そういうスイングだった。

 故に相手の読みさえ外せば空振りが狙える。ここで投げるべきは変化球。

 ここまでストレートとカーブで攻めていた分、ここでもう一つの球種、シュートに対しては油断しているはず、と予測した。

 そして、サインを出す内角高めのシュート。一度内角を意識させよう、というサイン。


 サインを確認し、直人がセットポジションからボールを放つ。

 ボールは内角。サイン通りだ。だが、様子がおかしい。紀彦はボールを注視する。回転の方向が違う。

 これは――ストレートだ。

 自らの配球を無視し、勝手に配球を組み立てその通りに投げる直人に対し、紀彦は舌打ちをせざるを得ない。

 これでは勝てるはずがない。

 案の定、内角のストレートを勲が強引に引っ張り、レフト前ヒットとした。


 二死ツーアウトながら三塁一塁。

 バッターボックスに入るのは、紀彦の親友、秋穂真吾。


「ついに来たか、真吾」

「ああ、俺の番だよ」

「……手加減は抜きだ」

「当たり前だ」

 そして、勝負の時間が訪れる。


 真吾の狙いはストレートだ。先ほどからストレートの割合が異常に多い。

 此処まで来るとそれ以外の球を狙う気にもならない。もしかしたら、それこそが罠の可能性もあるが、真吾はそれはないと予測した。

 130km/h後半台をマークするストレートは高校野球においてはそれなりの速さだ。

 それを武器として捉えない、といのはまずない。

 勿論、全国レベルでは140km/h超でないと厳しかったりするが、それでもやはり130km/h後半台は十分な武器である。

 それを多投したくなる、というのはあるだろう。

 だが、紀彦がミットを構えている。配球も勿論考えている。だとすれば、変化球をもう少し投げさせるだろう、と真吾は踏んだ。

 つまり、此処までの投球は直人によるものであると推測したのだ。

 だからこそ、真吾の狙いはただ一つ。

 外角低めストレート。それだけ。


 そして、直人がボールを放つ。

 セットポジションから右腕がうなり、ボールが手からはなれ、指によって回転をかけられ、ミットへと向かってゆく。

 最高球速140km/h弱のストレート。直人自慢のボール。

 それを真吾はまず見送る――が、ストライク。あまりの速さに真吾は下を巻く。

 中学時代には存在しえない140km/hの壁。

 目の前に迫ってくるのは、まさしくそれだった。

 二球目。これも速いが、真吾は狙いに行く。

 コンパクトなスイングで当てに行くが微調整の時間が足りず、バットは空を切りツーストライク。これで追い込まれた。

 マウンド上の直人はニヤリと口元を歪ませる。

 そして、早々に三球目が放たれる。


 いい加減にカーブか何かが来るだろう、そう思いつつもその考えを捨てて、真吾は構える。

 迫ってくるのは読みどおりストレート。

 後がない。少なくとも当てるしかない。

 そして、振りぬく。

 今度は、微調整を長めにとり、確実に当てに行く。


 ――きん、と僅かな金属音。


 ボールはバットによってミットへの道を阻まれ、僅かに軌道が変化したミットをすり抜け、キャッチャーマスクの僅か上を通り過ぎてゆく。

 今度は、真吾がニヤリと口元を歪ませる。


 ――打てる。このボールなら、打てる。


 真吾は確信し、バットをもう一度構えなおす。

 それを見て、紀彦はただ驚かざるをえない――が、目の前にいる投手のあまりの慢心さに舌打ちを止める事が出来ない。


 ――打たれる。

 そんな予感が、紀彦の思考を支配していた――









To be continued...

中二万歳な話に仕上がっちゃいました。

どうも、YBFです。

活動報告にもあるとおり、パソコンの使用制限がかかりました。

原作になるべく忠実にしたいので、二次創作は大打撃ですが、こちらは執筆時間が短いので、比較的更新できるかな、と思ってます。

――つか、読んでる人少ないんですけどね。

それでは、今回はこの辺で。

では。

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