02:デモンストレーション
二ヶ月に一度の更新が目標、と言いましたが、一話だけで二ヶ月放置はまずいと思い、二話を投稿しました。
あくまでもリメイクというものありますが、執筆速度はもしかすると二次創作よりも速いかも。ただ、執筆にかけている時間はあちらのが長いですが。
とはいえ、こっちは一話一話が非常に短い、ってのも関係しそうです。
とりあえず、第二話をどうぞ。
上下関係というのは社会の縮図である。
年功序列、実力、身分――様々な要因によって上下関係は生まれてくる。
それは、どこにおいても存在し、常識である。
だが、不満のできる上下関係は、様々な弊害をもたらす。
野球部において、実力の伴わない上級生による下級生いびりは褒められたものではない。
いくら年上であろうと、そういった人物を尊敬はできない。
これもまた、常識である。
だからこその、紅白戦。
実力の違いを見せ付ける必要性が上級生にはある。
――そうして、紅白戦は始まる。自らの力を示すために。
02:デモンストレーション
白組0-0紅組
一回表
無死無走
観戦スポットにたどり着いた一年生たちは、グラウンドを方向を見ていた。
守備につくために散り散りになる紅組。マウンドに立つのは、白龍高等学校のエース、松岡泰助。
バッターボックスには、先ほど一年生を引率していた気弱そうな二年生、松居秀雄。
「なぁ、あの人スタメンだったんだな」
そういったのは、紀彦。自己紹介で空気を凍らせた張本人。
真吾の親友であるが、流石にその行動には真吾も引かざるを得なかった――が、とりあえず保留にして真吾は紀彦との距離を詰める。
「まぁ、意外だけど――バッターボックスに立つと気弱じゃないんだな、あの人」
泰助に引率をするように言われた時の秀雄は気弱にしか見えない。真吾も、「これが本当に上級生か?」と疑問に思ったほどである。
――だが、バッターボックスの彼はまさに別人。
気弱そうに見えるどころか、エースの松岡泰助を威圧しているようにも見える。
「――そんなに、アイツが凄そうに見えるのが意外か?」
そこに、一つの人がけが迫り、声が響き渡る。
一年生たちはそちらを向くと、そこには一人の男性がいた。
「俺が白龍高等学校野球部の監督、藤森誠だ。ようこそ、白龍高等学校野球部へ」
そう言いながら、藤森はグラウンドの方に目をやる。
「とりあえず、アイツ――松居だが、聞いて驚くな。アイツは秋の大会から白龍高校野球部の1番レフトなんだが、野球を始めたのは高校からだ」
その言葉に、空気が凍る。
野球というのは経験が全てだ。
天性の才能というものも影響するが、最後は経験がものを言う。
歴代の名選手も才能はあったのだろうが、それ以上に経験を積み、そして才能を開花させていった。
そこに例外というものはない。
故に、藤森の言う事が正しいのであれば、松居秀雄という選手の才能はいかなるものなのか。
僅かな経験で開花する才能なのか。あるいは、短期間に多量の経験を積めるという才能だったのか。
――いや、そのどちらであっても、だ。
松居秀雄という選手は異質でしかない。
「とにかく、アイツは俺にもわからない。――とりあえず、バッティングセンスなら西東京でも随一だ」
その一言とともに、グラウンドから快音が鳴り響く。
エースである泰助のストライクゾーンギリギリをつく投球を巧みなバットコントロールで捉え、ライナー性の打球がセンター前に落ちる。
松岡泰助は西東京屈指のピッチャーの一人である。
それを容易そうに打ち返す松雄秀雄の打撃は、一年生に衝撃を与えるのには十分すぎた。
白組0-0紅組
一回表
無死一塁
「うわ、あれを打つのか……」
松岡はマウンド上で小さくそう呟いた。
ミットを構えているのが二番手捕手だから打たれた、という言い訳もできなくはなかったが、それ以上に秀雄の打撃が桁違いであった。
少なくとも、健助であればそのコースにはボールを要求しないだろう。
だが、このコースならば容易には打てないだろう――と、泰助も確信していただけに、この結果は驚かざるを得ない。
――だが、ずっと驚いている訳にはいかない。
泰助は視線をホームベースへと戻す。バッターボックスには控えの選手がいる。
「せめて、レギュラーと控えの格の違いくらいは、見せないと、ねっ」
そして、泰助はセットポジションからボールを放つ。
130km/h超のストレートが、外角低めストライクゾーンへと入る。
その速さ、その正確さ。
それを持ってして松岡泰助は西東京屈指の投手の座を勝ち得たのだ。
そう何度も打たれるほど、松岡泰助という男はヤワではない。
そして、二人の打者を見逃し三振にしとめ、迎えた一回表二死一塁。
バッターボックスには本来なら泰助のボールをミットで受け止めているはずの相棒、城志摩健助がいた。
「いよぉ、泰助。打たせてもらうぜ!」
「まぁ、あくまでも紅白戦だけどね。投手としては打者に負けるわけにはいかねいよね……っ」
そして、勝負は始まった。
一球目は挨拶代わりのストレートを内角高めストライクゾーンギリギリに決まる。
「流石は泰助だな。ただ、まだ本調子じゃないだろ?」
「まぁね。どうせ僕は相変わらずのスロースターターだよっ」
泰助はサインを確認し、その直後にボールが放たれる。その投球間隔はあまりに短い。故に、健助の思考が途切れる。
そうやって左腕から放たれた二球目は右バッターである健助の外角へと逃げてゆくスクリュー。カーブとは左右対称に、キレイな軌道を描く。
しかし、それはストライクゾーンからも逃げ出し、健助はそれを見送る。
1ストライク1ボール。
だが、その事実を泰助は淡々と受け止め、捕手からの返球を受け取り、サインを確認するとすぐにボールを放つ。
再び思考を崩されつつも健助はボールを睨みつける。そして、スイングを始動させる。
西東京屈指のキャッチャーの座は攻守ともに全国レベルだからこそ得られたものだ。
例え相手が自らの相棒だったとしても、高いバッティング技術は発揮される。
だが、それは泰助も同じ。エースとして、バッターを抑えにいく。
放たれた三球目は再び内角高目へと襲い掛かり、ミットへと収まる。
一度外に外され、そのうえ、二球目は球速差のあるスクリュー。
緩急の差、そして間隔をあけずに投げる泰助の技法に健助は舌を巻く。
普段はそれを活かして配球を考える立場である健助は、自らの相棒が厄介である事を再認識する。
だが、それでも、打つ気でいる。
――そうでなければ、白龍高校野球部の主砲にはなりえない。
そして、四球目。やはり間隔をおかずに放たれる。
低めのボール。だが、それに合わせようと健助はスイングを始動させる。
長く持ったバットで一気に振り切る。それでいながら、バットをギリギリまでコントロールする。
長打力と巧打力の両立をしようとすれば、必ずたどり着く境地。豪快かつ正確なスイング。
健助のスイングは、その完成形に近いものである。故に、攻守で白龍高校野球部の要となり得たのだ。
――だが、そのスイングをもってしても泰助のボールを捉えるのは困難だ。
スイングに捉えられたかと思われたボールは手元でスライドし始め、バットの芯から逃げてゆく。
それを確認した健助は更にバットをコントロールするが、芯で捉える事は出来ない。
芯で捉える事ができずに弾かれたボールは、三遊間へと転がってゆく。だが、勢いが足りず、遊撃手が捕球し、一塁へと送球する。
俊足ではない健助はショートゴロに倒れ、一回の表の攻防が終わる。
「白龍高校野球部のエースは文句なしで松岡泰助だ」
藤森誠はグラウンドの様子を見ながら、一年生たちに説明をする。
「スロースターターなのが惜しい所だが、ストレートは最速141km/h、変化球もカットボール、カーブ、スクリューと豊富的だ。――だが、それ以上に魅力的なのは制球力と投球リズムだ」
そう言いながら、一年生の方を向きなおし、説明を続ける。
「公式試合、練習試合での通産防御率2.85、奪三振率9.27はそういった技術の結果だ。ストレートが速い、というのもあるが、あの体格であのストレート、というのは技術がなければ無理だ」
そもそも、速い球を投げるためには強靭な下半身と上半身、両方がなければならない。
故に、優れた体格が必要とされるのだが、松岡泰助は投手にしては細身過ぎる。
野球部の練習で下半身は強化されているものの、やはり肉が足りないと言える。
だが、そんな松岡泰助を支えているのが技術だ。
テイクバックやリリース――投球フォームの全てが、教科書通りなのだ。最適な投球フォームの通りに投げる、というのはそれだけで技術だ。
「――だからこそ、アイツはまだまだ伸びる。一年生の頃からベンチ入りさせているが、一年の頃から球速を20km/hも上げたからな。アイツは。――ホント、これからが楽しみだよ」
ニヤリ、と口元をゆがませて藤森は笑う。
「勿論、君たち一年生も優れた実力さえあればベンチ入りも夢ではない。実際に、松岡や城志摩がやってのけた事だしな。……さて、今年は何人がベンチ入りできるかな?」
その一言に一年生は燃える。
――その何人かに入ってみせる――
一年生たちはそれを目標にする。実際に一年生でもベンチ入りした例があるのなら、不可能ではないはずだ。そう思って、もう一度グラウンドに目をやる。
すると、あっという間に一回の裏も終わり、二回を迎えていた――
――そして、その後一時間にわたり攻防が続き、紅白戦は終了した。
白組2-3紅組
試合終了
最初に先制したのは白組。六回、松居がヒットで出塁し、二死二塁から健助がタイムリーを放つ。
しかし、エースである松岡泰助から得られた得点はこれのみ。裏に二番手エースが捕まり、集中打を浴びて3失点。紅組が逆転。
八回以降を控え投手が1失点するもリードを守り切り、結果として紅組の勝利となった。
数時間後。
紅白戦を見終わり、その後の練習も見学し、帰途についた真吾は、高校野球のレベルの高さに絶句するしかなかった。
中学レベルでは騒がれていた真吾だが、高校ではどうなのか、と考えると少しネガティブになった。
140km/hの大台。そんなストレートは中学には存在し得ない。
真吾の知る強敵ですらも130km/h半ばが関の山。――つまり、140km/hは未知なる世界なのだ。
勿論、140km/hというのは高校野球において、豪腕の称号を与えられる投手たちだ。
所謂、猛者というヤツであり、それが平均ではない。
だが、真吾の目標を考えれば、140km/hとの勝負は必須となってくる。
――なぜならば。
真吾の、いや、彼らの目標は、甲子園出場だからだ。
甲子園には140km/hどころか150km/hを披露するような猛者、いや稀代の天才が現れる。
そして、そういった選手たちが輝くのが甲子園という舞台。
だが、それでいながら猛者や稀代の天才が必ず勝つとは限らない舞台。猛者や天才ですらも負ける舞台。
とはいえ、140km/hと勝負ができないようじゃ、天才や猛者を破る事など、できない。
――本当に、甲子園は狙えるのか。
そう真吾が考えていると、背中に衝撃が走る。
「何、ネガティブになってんだよっ」
振り向くと、そこには紀彦が笑顔で仁王立ちしていた。
「俺たちはまだ一年生なんだぜ? ――それに、俺たちは“中学最凶クリーンナップ三羽烏”なんだぜ?」
ニヤリ、と口元を歪ませながら、紀彦は言い放つ。
「……ああ、そういや、そうだったな。ったく、何当然な事を言ってるんだか」
別に、中学時代打てたからといって、高校野球で通じる、というわけではない――というのは、真吾は理解している。
だが、だからといって、打てないと思ってしまえば負けなのである。
自分にはできる――そう思っている者が、できる、という可能性をもぎ取れるのだ。
だから、だからこそ。
自信満々な紀彦を見て、真吾は感じ取った。
――ああ、なんか出来る気がしてきた。
真吾はニヤリ、と笑顔で返すと紀彦も再び口元を歪ませた。
そして、紀彦は急に立ち止まり、言い放った。
「それじゃ、ここから○△公園までダッシュしようぜ!」
その瞬間、紀彦は一歩踏み出し、走り始めた。
「お、おい。ったく、待ちやがれってんだよ」
ため息をつきながら、紀彦を追いかけるために走り始める真吾。
夢の延長線へ向けて、走り始める。
――夢に向けての勝負は既に、始まっているから――
To be continued...
リメイク前と比べ、松岡泰助や城志摩健助、松居秀雄が格段に強くなってます。
特に、松居秀雄はリメイク前はモブでした。
松岡、城志摩あたりが引退してからの準レギュラー昇格という立場。かなり出世してます。実力も格段に上がってます。
……最初は、そんなつもりはなかったんですけどね……どうしてこうなったのか。
とりあえず、今回はこの辺で。
では。