01:スタートライン
注意書きの通り、この作品はリメイクです。
――が、メインに更新するのは自分のもう一つ作品(二次創作)なので、更新速度は遅めかと。
とりあえず、定期的に更新できればいいな、と思っています。
では、本編へどうぞ。
其処に一つの点がある。
其処にしかない点がある。
手に入れるためには他人を上回らなければならない。
何人もの他人を上回らなければならない。
猛者に勝たなければならない。
何人もの猛者に勝たなければならない。
並半端ではない。
異常な場所。
――だが。
それ故に人々はその点へと向かう。
点――それは夢。
夢にたどり着き、そこから線を延ばす事ができるのは――
――ほんの僅かの猛者のみだ。
夢の延長線へ
01:スタートライン
四龍学園白龍高等学校。
東京西部にある私立高等学校で、野球において関東四大古豪と呼ばれる四龍学園の一つ。
四龍学園の四校が夏の甲子園のベスト4を独占し、野球界を驚愕させたのは半世紀ほど前の出来事。
そう、半世紀ほど前。
今は古豪と言われるだけあって、今では地方でそこそこ勝つものの、甲子園には無縁程度のどこにでもある中堅高校に成り果てていた。
だが、白龍高等学校野球部は甲子園を目指し続ける。
昨年の夏の大会は西東京ベスト8、秋季大会も東京予選でベスト16と着々と地力をつけている。
今年こそ、勝負の年だ――と、白龍高等学校野球部監督、藤森マコトは考えていた。
彼は監督に就任して三年目を迎えていた。
就任当時の新入部員がいまや三年生。
つまり、彼の始めての教え子がチームの中軸となった最初の年。
彼としては、なんとしても、ここで大きい結果を出したい。そう思うのは当然だった。
現在の部員たちの戦力は十分。
だが、ここから大きな飛躍を遂げるのは難しいだろう、と彼は考える。
だから、彼は望む。
起爆剤になりうる、新入部員を――
四月某日。
その日、一年生たちは入部届けが渡され、下校となった。
何部に入部するか、それとも帰宅部でいるのか――そんな会話を繰り広げながら下校する生徒たち。
そんな人ごみの中に、一人の少年がいた。
色素の薄いためか灰色に見え、少し癖のある髪の毛をポリポリとかきながら、その少年――秋穂真吾は入部届けを眺めていた。
どの部活に入部するのかを迷っているわけではない。
むしろ、迷う理由は彼にはない。ただ単に、眺めていただけだ。そんな彼の背後に、一つの影が迫る。
「――真吾っ」
そして、その直後。彼の背中に衝撃が走る――のではなく、背中をポンと叩く音がした。
「なんだ紀彦か」
「おいおい、『なんだ』はないだろ、真吾。とにかくさ、明日が楽しみだよな」
そう言って、真吾に紀彦と呼ばれた少年――澤田紀彦は「くーっ!」と奇声を上げる。
そんな彼はどこから見ても変人である。周囲を見渡せば、彼の奇行を見た数名の生徒が距離をとっている。
紀彦と友人である真吾だが、変人には見られたくない。
よって、そんな変人からは真吾は距離をとる。
「お、おい! おいてくなよ! 真吾!」
「……そう思うなら自重しろよ」
「ハハハ。自重する澤田紀彦なんて、澤田紀彦ではないわ! ハハハ!」
「だったら、そう言いながら友達の数でも減らせよな」
「勘弁してください神様仏様秋穂様ぁ!」
「……なぁ、自重する気、あるか?」
「ない!」
「自・重・し・ろ・よ」
真吾が紀彦を睨むと、数瞬だけ遅れて、紀彦は「はい」と返事をした。
秋穂真吾と澤田紀彦は幼稚園の頃からの友人――ではなく、親友である。
だからこその先ほどの掛け合い。それに意味があるのかと問われれば、勿論、ないのだが、とにかく、彼らは一般で言うところの友人の枠に収まるとは言えない。
となれば、親友という枠しか残されていない、というわけだ。
そんな彼らには、共通項がある。
それは、野球経験者である事だ。
――訂正しよう。彼らは野球選手だ。
ある区立の中学では、真吾と紀彦と、あともう一人を含め、と中学最凶クリーンナップ三羽烏と呼ばれた野球の天才である。
陸上部顔負けの俊足とバットコントロールが武器の三番二塁手。
長打力は中学生離れしている超中学級スラッガー、四番捕手澤田。
勝負どころで粘り打撃を見せるクラッチヒッター、五番遊撃手秋穂。
彼ら三人で構成されたクリーンナップは公立中学としては異常な破壊力を見せ、チームの総合力は高くなかったものの、都ベスト8に輝いた。
そんな三羽烏の二人が、野球の古豪・白龍高等学校にいる。
――となれば、彼らが入部する部活は決まっていた。
翌日。
部活動にいち早く参加しようと一年生は午前中に入部届けを出し、放課後なればすぐ、各々がその部活へと向かう。
その中に、真吾と紀彦の姿もあった。勿論、彼らが向かったのは野球部部室。
野球部部室前に彼らがたどり着いた時、彼ら以外の一年生は既に十六人ほど集まっていた。
彼らをあわせれば、十八人になる。
知名度は高くないものの、野球をやっている者からすれば知らない人間はいない白龍高等学校。
古豪とはいえ、新入部員の数は侮れない。
二人は新入部員の山の中に入る。
とりあえず、監督もしくは先輩が来ないと話にならない。
実力があろうとも、所詮は一年生。ここにおいては無知で、まだ頼りない存在なのだ。
そうして、数分がたった頃。
二人の猛者が、そこに現れた。
「お、今年も結構いるなあ。……俺たちの時もこれくらいだったなあ。なぁ、泰助?」
「いや、僕たちの頃の方が少ないよ。五人くらい多いんじゃない? 一昨年より」
「……お前は細かいな、泰助。少しは大雑把にならないと、ハゲるぞ?」
「少なくとも、彼女のいない君には言われたくないよ健助」
「うるさい。リア充爆発しろ!」
一人は角刈り。一人はイケメン。
一人は筋肉質。一人は細身。
一人は捕手。一人は投手。
一人は主将。一人は副主将。
――そう。この二人こそが白龍高等学校を昨年の夏の大会は西東京ベスト8、秋季大会も東京予選でベスト16に導いた張本人。
4番キャッチャーと、エース。
「あー、とりあえず、先にこっちから自己紹介をすまそうか。俺は主将の城志摩健助。ポジションはキャッチャー。一年でキャッチャーのヤツは残念だったな。スタメンは俺で決まりだ。ベンチ入りなら死ぬ気でやればどうにかなるかもな!」
「……健助。挑発しすぎだよ……。まぁ、こんな事言ってる割には小心者だから安心していいよ。僕は松岡泰助。一応、白龍高校のエースをやってる。正直、僕としては二番手エースとか控え投手がいてくれると嬉しいから、投手志望の人には、頑張ってほしいかな」
「おい。テメェも同じような事言ってんじゃないか」
「君よりはオブラートに包んでるつもりだよ」
「あ、テメェ! 自覚してるな!?」
「……だってさ。一年に負けるとか悔しくない? 僕らは攻守の要として他校に知られるくらいの実力なわけだし。そう簡単に一年に負けたら、ダメじゃない?」
それに、と言って泰助は続ける。
「――それに、一年生がいくら努力しようとも、僕も努力してるから、追いつけるわけないしね」
涼しげな顔をしながら泰助は口元をニヤリと歪ませた。
初見で泰助を温和そうだと思った後輩たちは、その姿にその印象をすぐに撤回。
腹黒い印象が彼らの頭にインプットされた。
「まぁ、そりゃ事実だけどな。とりあえず、一年生が俺たちに追いつこうとするなら、俺たちの三倍は練習しないと駄目だな。よっぽどの天才なら話は別だけどな」
これまたニヤリと口元を歪ませながら健助も一年生に対して言い放った。
彼らは4番とエース。それも、一年生の時からもベンチ入りを果たしていたほどの天才。
しかも、今では西東京屈指のバッテリーだ。
一年生に天才がいようと、その座を奪うのは不可能だという事は、その場にいる誰もが理解していた。
――いや、再確認できた。
健助も泰助も実力に絶対的自信を持っているからこそ、この発言ができたのだ。
そして、その自信はこれまでの大会での実績に基づいた――いや、裏づけられたものだ。そう簡単には揺らがない。
「……ま、とりあえず。このままだと僕らは君たちの名前を覚えられない。と、いうか知らないからね。……そうだね、僕らから見て一番左――そこの君から自己紹介してもらおうかな」
泰助はそう言って、灰色の髪の少年――真吾を指差した。
「俺から、ですか?」
「うん。そう」
その順番に、真吾はどうしても作為的なものを感じてしまった。今回の場合はそんな事ないのだが、秋穂という苗字は出席番号が1になりがちなのだ。つまり、真吾は既に苗字を知られているのでは、と思ったという事である。
とりあえず、ここで不満を言っても得にはならない、と判断した真吾は考えていた事を捨て、猛一つの思考回路で既に組み立てていた自己紹介文を読み上げる。
「一年一組出席番号一番、秋穂真吾です。内野ならどこでも守れますが、メインはショートです。これからよろしくお願いします」
テンプレートを読み上げ、真吾はふう、と息をはいた。
そして、泰助はその隣――紀彦に視線を移す。それを確認した紀彦が、口を開き――
「ちゃーっす!」
――空気が固まった。
隣で息をはいていた真吾はもちろん、まわりの一年生、そして猛者である二人までもが、固まった。
初対面でここまでくだける事のできる人間がどこにいるだろうか。
少なくとも、上下関係がきつくなりがちな野球部においては、このようなテンションはあまりないはずである。
だからこそ、猛者ですらも硬直せずにはいられなかった。
むしろ、硬直しない者などいない、と誰もがそう感じた。
「一年一組十二番澤田紀彦! ポジションはキャッチャー! だけど一応他のポジションは全てオッケー! 長打力と肩、配球には自信あり! よろしくっ!」
「……」
「……」
「……」
「……じゃ、じゃあ、えーと、つ、次、行ってみようか」
いち早く衝撃から立ち直った(だが、それでもまだ困惑している)泰助が、次を促し、自己紹介が進んでいく。
こうして、一年生全員の自己紹介もあと一人となり、最後の一人が自己紹介をする。
「一年五組十五番。鈴本和哉。メインは外野手で、投手もある程度。アピールポイントはバットコントロールと足。七王子ボーイズのセンターをやってました。よろしくお願いします」
その一言に、周囲がざわつく。
七王子ボーイズ。東京のボーイズリーグの強豪チームだ。
例年、上位に入賞し、数年に一度は、必ず熾烈な戦いを突破し全国大会に出場する、名門。
彼はそんなチームのスタメンだというのだ。――即戦力に間違いない。誰もがそう思った。
――二人を除いて。
「……なるほどね。七王子か。確かに、凄いところだね。――でも、一言だけ言っておくよ」
「高校野球、なめんじゃねぇぞ! スタメン取れるかどうかは、その実力次第なんだからな!」
健助と泰助。
西東京屈指のバッテリーである二人が、そう言った。
二人とも、中学時代には目立った実績はない。
――だが、高校に入ってすぐ実力を発揮し、周囲の強豪シニア、ボーイズ出身の選手を追い抜き、一年の頃からベンチ入りを果たしたのだ。
そんな彼らからすれば、強豪シニアやボーイズなど、なんら関係がない。
大事なのは高校野球において通用する実力と精神力を持っているか否か。
「さて、と。自己紹介も終わった事だし――」
「――俺らの実力ってヤツを、見せてやるよ。これから、二、三年生で紅白戦をやる。一年生はその見学だ!」
その一言に、ぴく、一年生たちはと反応する。
「ただ単に上級生だから偉ぶってるとか思われたくないしね。つまりはそういう事だよ。あ、松居いい所に来た。今から観戦できるところに一年生を引率してあげて」
通りかかった気弱そうな青年――松居秀雄に、泰助が声をかけた。
「ちょ、副主将! ぼ、僕も紅白戦に出るんですけど!」
「えー、だって、ちょうどいい所にいたし」
「……わ、わかりましたわかりました! そ、それじゃ、一年生、ついてきてね!」
秀雄は不満げな顔をなんとかして笑顔に変えつつ、一年生を観戦スポットに誘導した。
そして、三十分後。
二、三年生によるデモンストレーションである紅白戦が、今、始まろうとしていた――
白組vs紅組
試合開始前
0-0
無死無走
To be continued...
リメイクにあたり、数名のキャラを変更しています。
今回登場した澤田紀彦は本来ならいないキャラの一人であり、本来なら他に三名いましたがカットです。
登場人物の多さに筆者である自分が思いっきり疲れ果てたりもしたので。
それなのに澤田を追加? いや、澤田を出して色々と設定をオミットしていたりします。
また、城志摩健助や松岡泰助のキャラを濃くしようと少し改変していたり。
――まぁ、とりあえず。今回はこの辺にしておきましょうかね。
では。
追記
2011.11.2
誤字訂正