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生きることについての掌編集

月と君

月までの距離は約38万キロメートルである。

過去人類は7回月に着陸した。

その時の探査した機器は今も月面に残されていて、僕が生まれるずっと前から、強烈な太陽光と宇宙線を浴び続けている。


僕は空を見上げている。闇に浮かぶ銀の円盤に時おり薄い雲が横切っていく。

人類が残した遺物は小さすぎて見えないが、人類が誕生以前からあるクレーターがみえる。木星と地球の大きな引力から逃れた運のいい(?)隕石が残した模様である。昔の日本人はそのクレーターが造りだした模様から餅つきをするウサギを連想した。月のクレーターを作った隕石は消えてしまったが、跡をずっと残し続けている。僕のニキビ跡のように。ニキビは治るけど、跡は残り続ける。生きている限り人は肌荒れを起こすし、心は傷ついて行く。肌の炎症や心を傷つけた事柄はすぐに過去にもなるけど、跡はずっと残り続ける。月のクレーターのように。そして、人生で何度も傷ついた僕は遠くから見たら、いったい何に見えるのだろうか?ウサギには見えないだろうが、僕の人間性を形作っていくものだろう。それは遠くからじゃないとわからない。近くで見ても、砂と岩だけの荒廃した大地にしか見えないから。


「今泉さんの好きな女性のタイプって何ですか?」


君は僕の心を乱暴に潤してくる。砂と岩だらけのゴツゴツとした土地に津波のように水が押し寄せてくる。いったい君には僕がどう見えているのだろうか?


僕は正直に答える。


「好きなタイプは無いよ」


彼女は僕の返答に満足しない。きっと本当の事を言いたくないから、ふざけて言っていると思ってるかもしれない。


「じゃあ、嫌いなタイプは?」


彼女は少し苛立って言った。


「嫌いなタイプも無いよ」


僕はまた正直に言った。八方美人な嘘だろうと思われるかもしれないが、経験を重ねてきてわかった僕の恋愛論の一つの結論なんだ。だって、人って変わるから。自分も変わるし、相手も変わるって考えているから。彼女の年齢は聞いたことはないけど、かなり年下なのはわかる。10以上離れているかもしれない。君は拗ねたような不満足な表情をしている。まるで女学生のような反応で、自分は今学校の教室にいるような気分になった。僕はそんな彼女を見て、好きなタイプについて彼女が満足するような返答をしてみた。


「うーん。ある程度自立している人かなぁ」

「ふーん。じゃあ、私じゃないや」


彼女はそう不貞腐れて言い、僕は心の中で微笑んだ。彼女のピュアさに。彼女は実家暮らしなのを自立していないと解釈したからだ。僕は精神的自立について言ったつもりだった。でも、僕は説明しなかった。僕は彼女のこういう誤解を可愛く感じたからだ。いや、それ以外にも理由がある。深入りしたくないのだ。君は僕が今まで付き合ってきた7人の女性達とは丸っきり異なっていて、僕自身を大きく変えてしまうような気がするんだ。


そう、正直に言おう。僕は怖れている。月を水の星にしてしまう君の暴力的なピュアさに。

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