表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4:密閉された命

「これを私に見せる目的は何なんですか?」


一向に答えの返ってこないその問いを、七海は少し苛立ちながら再びぶつけた。


村井は、やはり答えない。


「さっきも言っただろう?君に現実を知ってもらいたい、と。」


だから、それがいったい何のためなのか…解決しない問いを抱えたまま、七海は、歩きだす村井の後ろに続くしかなかった。


案内されたのは、施設のさらに奥。不自然なほどに冷んやりとした地下通路を抜ける。七海が村井に連れられ辿りついたのは、この施設の中枢であり、ごく限られた者だけが立ち入ることを許された一室だった。


「この扉の先に、君が見るべきものがある」


村井の言葉に、七海は無言で頷いた。


中に入ると、巨大な装置が静かに稼働していた。壁一面に金属のパイプが走り、いかにも複雑なものを"作って"いるということが見て取れる。

金属臭とも少し違うような、嫌なニオイが鼻をつく。磨かれすぎた清潔な空間なのに、その空気の悪さが不気味だった。

パイプが繋ぐのは、いくつもの銀色のタンクだ。それぞれのタンクの中に、村井の研究の成果が詰まっているのだろう。中でもひときわ目を引くのが、人の大きさほどもあるタンク。パイプが走る壁とは反対側の壁際に、そのタンクがずらりと並ぶ。

目を引く理由は、一目瞭然である。大きさや並べ方のせいではない。そのタンクだけが、完全な銀色ではなく透明な部分があり、中身が見えているのだ。


七海は、固まっていた。


タンクの中は液体で満たされ、そこに浮かぶのは──


「これが、いま人類を支えている"水源"だ」


村井の声には誇りすら滲んでいた。


「個人差はあるが、一人分の血液から概ね1リットルほどの血水精製を実現できている。効率は悪くない。」


目を閉じ、息をしている様子もなく、タンクの中を漂う血液提供者たち。その体からは、幾筋ものチューブが伸びており、それらによって生命維持だけはされている模様だ。しかしそれは、あくまで身体上の生存でしかなかった。彼らはきっと、自らの血がどう使われているのかも知らぬままだろう。


「なぜこんなことを!」


七海は目を背けた。人がまるで"部品"のように扱われる光景には、激しい嫌悪感しか湧かなかった。


「落ち着きなさい。感情論では、人類を救えない。」


村井は、冷静に話しつづけた。


「ここまで来るのに、私は多くを捨てた。そしてようやく、この装置を完成させたんだ。君のような理想主義者と共に研究を続けていては、成し得なかったことだろう。」


七海は言葉を失った。

かつて自分がいた研究所の信じた"水"の未来が、目の前のこの光景だとするならば、それは、七海の信じた理想とはまったくの別物だった。


室内には、装置から発せられる単調な機械音だけが響いている。何かを叫びたい心とは裏腹に、七海の口からは、何の言葉も出てこなかった。その沈黙こそ、この世界が直面する、あまりにも静かな"現実"だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ