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10: 進まなければ

造水施設の裏手、人目につかない場所にある通気口。文字通り、そこを通り抜けているのは空気だけで、警備員すらいない。俊之は、勝手知ったる様子で七海とマサトをそこへ案内した。


「相変わらず放ったらかしだ。俺が鍵を持ち出したってのに、騒がれもしない。ここだって、塞がれていてもおかしくないのに…」


「罠?…だったりして。」


七海がそう言うと、俊之はふっと笑いにも取れる息を漏らした。


「誰かがわざと作ったこっちに都合のいいものを『罠』と呼ぶとしたら、こりゃまさにそれだ。」


"誰か"と聞いて、七海は村井を連想した。彼なら"罠"を仕掛けるかもしれない。しかし、七海は不思議とその"罠"に挑んでみたいと思っていた。


「でも、ここまで来たら後には引けないわ。」


七海が一歩前に出ると、マサトが彼女の前に立った。


「その前に、もう一度だけ聞かせてほしい。この道を進む…本当にそれでいいんだね?」


七海は、マサトの漆黒の瞳を見つめ返した。不安と信頼とが、同時に伝わってくる。

「正直、分からない…。何が正解か、なんて。でも、この施設の中にいる小百合さんを思うと、立ち止まる理由はない。彼女だけじゃない。他の提供者たちも、私は…見過ごせない。」


マサトは短く息を吐き、苦笑した。

「この施設のおかげで生きている人たちがいる。最悪、その人たちを見殺しにしてしまうかもしれない。分かっているんだよね?」


七海は、ポケットの中の小さな装置を握りしめた。歩美が託した「ホットライン」。ただの通信機に見えるそれが、唯一の突破口になるかもしれない。


「分かっているわ。なるべく多くの人を助けたいの。その方法が何かは分からないけれど、何もしないというのだけは違うって思ってる。」

そう七海が言うと、マサトは納得したように深く頷いた。

「最後の決断は、あなたに委ねる。僕は…従う。」


侵入の準備を進めていた俊之が、作業の手を止め言った。

「迷える余裕があるヤツはいい。俺は、迷うことさえ奪われた。もう奪われるのはたくさんだ!」

俊之の言葉の重さに、しばし沈黙が流れる。

しかし、その言葉通り三人に迷いの余地は残されていなかった。


「行こう!」

七海の声が、静寂を切り裂くように強く響いた。

マサトが頷く。俊之が通気口に身を沈める。

冷たく暗い通気口の奥へ──

残された"抜け道"を通り、三人は来る未来が待つ場所へと進んだ。

暗闇の先に、また暗闇しかないとしても…ただ、そこへ向かうしかないのだから。

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