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女神さまの羽根〜貧乏令嬢は俺様神官に振り回される〜  作者: おくちょう ひま子
9 宴の終わり

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4 その顛末

第9章(4話)とエピローグの全5話分を一気に投稿してます。

読む順番にお気をつけください。

「何…?」


 レオンは戸惑ったような声を出すが、ジニアは余裕がなくてそれに気が付かない。俯いたまま、口に出した勢いで気持ちを告げた。


「レオン様が、婚約するって聞きました。レオン様のことを好きな女が傍にいるのは婚約者の方に対して失礼だと思うんです…。だがら、私、今度こそ実家に帰ります。もう、傍にはいられません」


「……」


「……」


 一気に言ったら王子は黙ってしまった。その沈黙がなんだが長い気がして、ジニアはそろそろと王子の顔を伺う。

 王子は、『地面から空に向かって雨が降ってきた』みたいな顔をしている。あり得なくて意味がわかりません、という顔だ。


「れ、レオン様…?」


「おまえ…」


 両手で肩をがしりと掴まれて、顔を覗き込まれる。

 え、なんだかレオン様の目が恐い。


「その婚約者とやらが、誰だか知っているのか?」


「え?え?…あっ、まさか…」


「!そうだ、そのまさかの…」


「ローズ・ヴォルペ様!?」


「違うわーーーーーーーーー!!!!!!!」


 耳がキーーンとなった。

 大声が響いたのだろうか、廊下から足音が聞こえて「レオン様っ、何事です!?」とローニーとホリィが駆け込んできた。

 王子はそれにも気づかずに早口で捲し立てる。


「お前だよ!婚約者はお・ま・え!!!!」


「え!?」


「お前が婚約者なのに、婚約者の方に失礼ってどういうことだ!?俺が好きならむしろ万々歳じゃないのか!?しかも、故郷に帰るだぁ!?おのれは二代目『聖女』のくせに、おいそれと片田舎に帰れるわけは無いだろうがっ!!!!」


「は、はい!?」


 ちょっと待ってください、レオン様。情報量が多くて処理できません!肩を揺すらないでください、頭が何を言ってるのか受け付けてくれませんよ!

 声にならない叫びを受け取ったのはローニーだった。


「はい、落ち着け—」


 手のひらでぺしんと王子の頭をはたく。

 王子はジニアの肩から手を離してくれた。


「ローニー!貴様不敬罪だぞ!」


「聖女さまの肩を激しく揺するのは不敬罪じゃないんですか?」


 王子はちっと大きく舌打ちしてからあからさまに不機嫌な顔になった。ホリィがジニアに「大丈夫?」と声を掛けてくれる。


「あの…、すいません、私…何が何だかわからないんですけど…?」


 体は揺すられなくなったが、脳みそは揺すられっぱなしだ。どうも知らない話があることだけはなんとなく理解した。

 ローニーは二人の雰囲気を受けて提案してくれる。


「レオン様だけだと不安なのでおれが説明しましょうか。そもそも、ジニアさんまで話がいってないのはレオン様のせいですし」


 王子の渋面がひどくなる。腕を組んでそっぽを向いてしまった。


「まず、ジニアさんは二代目『聖女』に任命されます」


「えええっ!?」


「いや、なんでそんなに驚くんですか」


「え…、だって生まれ変わりなだけじゃないですか…?」


「いや生まれ変わりだからじゃないですか。ジニアさんの背中にある『神聖文字』、少し解読されたんですよ。『神では無い、しかし神の器たる資格』までね。ジニアさんに『羽根』の力が効かないのは限りなく女神さまの体に近いからじゃないかって仮説が立てられましたよ。そんな人が『聖女』でも別におかしくないでしょう?」


「……」


 助けを求めるつもりでホリィに目線を送ったら力強く頷かれてしまった。


「で、そんな二代目聖女さまを守るために、次期教皇のレオン様との婚約話がでたわけです。聖女さまがうら若い未婚の乙女と知れ渡ったら、上は大貴族の老爺から下町の若旦那までもう山のように結婚話が来るでしょうからね」


 二代目聖女に、婚約…。そんなことになってたなんて…。教皇さまは何も言ってなかった。


「なんで、私のところにその話がこなかったんですか?」


「それは、まぁひとえにレオン様のせいですよ」


 ローニーは口調をキツくして王子を睨む。


「流石に理由くらいはご自身でおっしゃいますか?」


「……」


 王子はものすごい不貞腐れている。しかし、このままでは話が進まないと思ったのか、意を決したように語り始める。


「…お前が聖女だから、婚約するみたいな流れは嫌だったんだ」


「え?」


「俺は、聖女とか関係なく、お前だから婚約したいんだ」


「え?」


 ……。

 え、何、この空気。なんで皆そんな死んだ魚みたいな目をしてこちらを見てるの。ホリィまで。ジニアはわからなくて首を傾げる。


「レオン様、もっとはっきり具体的に言ったほうがお互いのためです。遅々として進みません」


「うるさいわ!ああもぅ、わかったからお前らは出ていけ!」


 王子は犬を追い払うようにローニーとホリィを部屋から追い出した。出ていくとき、ホリィがチラリとこっちを見て、小声で「がんばってよ!」と言ってきた。何を?

 王子は溜め息をついてから、改めてこちらに向き直る。


「…悪かった。ジニア」


「何がです?」


「ローニーが言ってた通り、話を止めてたのは俺なんだ。…ちゃんと俺の口から言いたいことがあるから。なんて言おうかずっと迷ってて」


「はぁ」


 ジニアは話の展開についていけてなかった。王子は先程から何が言いたいのだろう?

 すると、王子は座っているジニアの前にすっと跪いた。片手でジニアの手を優しく掬い上げる。


「悩まないで、最初から真っ直ぐ言えばよかったな。お前がしたみたいに。大体、そうしないとお前には伝わらない。…ジニア、お前のことが好きだ。どうか俺と婚約して欲しい」


 王子はジニアの手に羽根をモチーフにした銀のネックレスを置いた。羽根飾りの真ん中には、銀色に光る石が嵌っている。

 これは、婚約した者同士が贈り合うネックレスだ。


「レオンさま…」


「お前が聖女だから言うんじゃない。間違えるなよ。好きになった女が、たまたま聖女だっただけだ」


「レオンさま…」


 ジニアの目から涙がこぼれ落ちる。

 まさか、そんな風に思っててくれたなんて。


「お前のほうから告白してくれるなんてな。…嬉しかったけど、実家に帰るはひどいぞ」


「レオンさまっ!」


 ジニアは王子に飛びついた。

 王子はそれを危なげなく受け止める。


「どこにも行くなよ。誰にも攫われるな。今度こそずっと俺の傍にいろ」

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