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女神さまの羽根〜貧乏令嬢は俺様神官に振り回される〜  作者: おくちょう ひま子
9 宴の終わり

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1 後始末その1

第9章(4話)とエピローグの全5話分を一気に投稿してます。

読む順番にお気をつけください。



           ●




 神殿に帰ったジニアが丸々寝込んだのは三日間、その後うつらうつらと過ごしたのは一週間にも及んだ。体調が悪いわけではなかったが、とにかく眠くて起きていられないのだ。教皇さま曰く反動ではないかとのことだった。


「人間の生身に、神をおろしたのだから体が疲れて当然。むしろ寝込んだだけで済んでよかったのぉ」


「はぁ…」


 ニコニコとジニアを見舞う教皇さまに戸惑いを隠せない。寝込んでいる時は気が付かなかったが、いつの間にか離宮の狭い部屋から神殿の客室に移されていた。まだ眠気があるのでジニアは客室のソファにゆったりと腰を掛け、教皇さまはテーブルを挟んでその正面に座っている。ジニアはまだ諸々の事情を簡単にしか聞いていなかったので、教皇さまがわざわざ詳しく説明する時間を取ってくれたのだった。

 そんな教皇さまが言うにはジニアは『聖女』の生まれ変わりだという。にわかには信じがたい話だった。


「世に出回っておる絵本には、あまり聖女さまの出番はないであろう?それも当然、女神さまが登場しているシーンは全て女神さまが聖女さまの体を借りて、聖女さまを通して語りかけているのでな。女神さまがいる場面では聖女さまの存在が上書きされてしまうのだよ」


「え、そうなんですか?」


 その話は初耳だった。そんな事情があったとは、絵本ファンとして衝撃である。


「そう、これは絵本では敢えてはっきりと描かれていないが神殿の教典にはきちんと記されておる。ほい、これもお食べ」


「は、はぁ」


 教皇さまは話しながら見舞いの品である果物の皮を小刀でスルスルと剥いていた。綺麗に剥けたそれをせっせとジニアの皿に乗せて渡してくる。ジニアは戸惑いつつも高級そうな果物の誘惑には勝てずかぶりつく。美味しい。


「何故そのことが知れ渡っていないかというとだな…、女神さまは天上に還るとき、再び降臨することを宣言しておったのだ。聖女さまの生まれ変わりが現れたらまた体を借りてこの世に顕現するだろうと。

 でも、生まれ変わりがいつどこに現れるのかまではおっしゃらなかった。下手にその事実が知れ渡ると、偽物の出現や、本物が現れたときに身の危険にさらされるかもしれない。そのような混乱を危惧して秘匿とされたのだよ」


「はぁ…」


 この橙色のフルーツは初めて食べたけど汁気たっぷりで美味しい。じゃなくて。


「本当に私がその生まれ変わり?なんですか?」


「ああ、儂は見たぞぉ、素晴らしい光景じゃった!まさかまさか儂の生きてる時代に降臨が叶うとは!はぁぁ、ジニアよ、感謝感謝だ!」


 教皇さまは悪い人ではないけれど、女神さまのことに関しては熱が入り過ぎていてちょっと恐い。ホリィにそのことを漏らしたら、「あの人はオタク(・・・)なのよ」と言っていた。

 そもそも教皇が神殿に不在だったのはその降臨に関係していたらしい。


「サフィレット様が、降臨を預言?してたんですよね?」


「その通り。あの方の預言は、あの方自身が知らないことは曖昧な表現になるから、最初はただ『翼たる器が王都より北の地で羽根を授かる』としか言わなくての。『翼』が女神さまを指すのではと、儂は四方八方に生まれ変わりを探していたのだが…、まさか中央大神殿にいるとは思わなんだ」


「はぁ…すいません」


 恨めしげに言われたので思わず謝ってしまった。「いや、よいよい」と籠から皿にイチゴをひょいひょいと盛られる。


「最後の預言はお主を名指ししたそうだの。直接顔を合わせてサフィレットさまがジニアを知ったから、『器』たる者が誰なのか預言で指名できたんだろうの」


「なるほど…?」


 頷いてはいるが、生まれ変わりとか器とか全く実感はない。ジニアには女神さまが降臨していた時の記憶も無い。はっきり言って他人事のように聞いていた。


「ジニアの背にある『羽根』の紋様を見ればすぐ何かあると気づけたかもしれんが…、しかし自分の背中は見えないものだからなぁ。儂も直接拝みたいが、乙女にそれを頼むのは流石にできんからの」


「それは、はい、ごめんなさい」


 ジニアの背中一面に、紋様が刻まれていることはあの日ホリィが気付くまでジニア自身も含めて誰も知らなかった。湯浴みは王子の離宮で一人でゆったりとしていたし、着替える場所には鏡も特に置いてなかった。気が付く機会はなかったのだ。

 儀式を受けてから背中が時々ヒリヒリとかチリチリするとは思っていたが。

 ちなみに、左肘にあった『羽根』の紋様は背中から二の腕の後ろを通って伸びてきた紋様のごく一部だったことが判明した。『神聖文字』も、三文字ではなく腕や背中の所々に書かれているらしい。これはジニアの許可を得て女性神官が写しとり、今後解読を進めていくとか。大変そうな仕事だなと、イチゴを摘みながらどこまでも他人事のように思ってしまう。


「そういえば、レオン様には何故私の『神聖文字』が見えなかったんでしょうか?」


「ふむ、らしいのぉ。これは憶測でしかないが、自分の背中が自分では見えないのと同じことではないかなの。『神の眼』では女神さま自身の背後にある翼は見えないのだよ」


「はぁ…?」


 わかったような、わからないような。ジニアが首を傾げていると、扉がノックされた。ジニアが「はい」と返事をすると扉から現れたのはアデルバード殿下だった。


「やっほー、ジニアちゃん。もうベッドから起き上がれるようになったって聞いてお見舞いに来たよ~」


 明るく言うアデルバード殿下は「これお土産」と言ってお菓子の箱を差し出した。ふんわりとチョコレートの匂いがする。教皇さまも殿下もジニアを太らせる気だろうか。

 レオンハルトと王家のわだかまりは解けたらしく、アデルバード殿下はちょこちょこと神殿を訪れるようになった。ローニーに聞いたところによると、殿下は弟にちょっかいを出すのが楽しんでいるらしい。「レオン様、そろそろ一回キレそうですね」などと冷静にコメントしていた。

 アデルバード殿下は教皇に挨拶しながらその隣に座り、のんびりと話し出した。


「今日は一応報告にきたよ。フロックスの処遇が決定したからね」

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