7 作戦変更
「あのっ、王城の中にいく方法を思いついたんですけど!」
ジニアが言うと王子とローニーが振り返った。離宮にて三人で午後のお茶を飲んでいるところだった。今朝めっきり寒くなったので、暖炉には薪が燃えている。
「方法?」
王子が聞きながらお茶請けのチョコ入りパウンドケーキを一口食べる。この間、フロックス候爵が見舞いの品として持ってきた物の一つだ。
「ん、美味いな。これもやるから食べてみろ」
一口しか食べてないのにお皿をジニアに回してきた。ジニアは自分のクルミ入りケーキをすでに半分食べたところだった。
「え、いや悪いです」
「いいから。チョコ好きだったろ?」
「でも」
「じゃあこうだ」
王子はフォークでケーキを切ると、一口大になったケーキをジニアの口元にずいと差し出す。
「王子命令。口を開けろ」
「うっ…」
命令と言われると弱い。おずおずと口を開けたらフォークに刺さったケーキが入ってきた。仕方なくそれを食べていたら王子が目元を細めて優しく笑う。
「美味いか?」
「は…はひ…」
………。なんていうか、なんというか、昨日から王子の態度が凄く…
「「甘っ…」」
ローニーと声が被った。ジニアは照れて言ったのだが、ローニーは物凄く苦々しい顔をしていた。
「なんだお前たち。それはケーキだから甘いだろ」
王子は怪訝な顔をしている。
「あーーっ、おれもケーキはいらないです。見てるだけで胸焼けします。ジニアさん、おれの分は後でホリィにでもあげてください」
「は、はぁ…」
健啖家のローニーが珍しいことを言う。
ローニーはホリィと仲良くなったようだ。昨日の夕方、ジニアと王子が神殿に帰った後で何故か二人連れ立って帰って来たのだった。
「それでジニアさん、王城に行く方法って?」
「ああ、はい」
アデルバードの情報は未だロクに手に入らない。街で侍女や騎士を捕まえて話を聞くのも上手くいかないので、次の手を考えたのだ。
「私が侍女として城に潜り込むんです!そっちのほうがより確実にアデルバード殿下に近づけます!」
「却下」
「えっ」
王子ににべもなく否決された。綺麗な顔に憂いをのせて、真剣な声音で言われる。
「お前は俺の傍にいて欲しいと言っただろ。離れようとしてどうする」
………。
「うおぉぉ…」
何故かローニーが頭を抱えて呻き、それから突然ガバリと立ち上がった。
「いや、これはおれが悪い!ここにいたのが間違いだった!席を外しますね!」
「えっローニーさん、なんで」
「じゃっ、後は仲良くやってくださいよぉ!」
「いや待てローニー、話は終わってない。作戦変更だ。アデルバードの結婚記念パーティーに出るぞ」
「は?」
本当に部屋から出ていこうとしていたローニーが立ち止まって振り返る。
「パーティー?」
「ああ。決めたんだ。アデルバードとケリを付ける」
「えっ…」
「パーティーで、直接対決ということですか?」
ジニアは驚いた。ローニーが険しい顔で聞くと、王子は頷いた。
「そうだ。パーティーという衆人環視の中でなら暗殺などどいう真似もできまい。そこで、アデルバードに会ってくる」
「どうして急に。いや、おれはいいんですけど。教皇になってから強権を奮うとか言ってたじゃないですか」
「いや…、喧嘩を真正面から買っている場合では無くなったからな」
王子はチラリとジニアを見た。それだけでローニーには通じるものがあったようで、「ああ」と一言呟いた。ローニーは席に座り直す。
ジニアは気になることを王子に聞いた。
「あの、アデルバード殿下の結婚記念パーティーって…?」
「来年の春にやつは婚約者と式を挙げるんだが、その前祝いのパーティーだ。夏の終わりくらいに俺も候爵経由で声を掛けられてはいた。突っぱねたがな」
その様子は簡単に想像できるなとジニアは思った。
「こちらが下手にでてやつに直接面会を申し込むのも癪だしな。パーティーで妥協してやる。そこで話をつける」
「話をつける…ってどうやって?」
暗殺をやめてください、という訳にもいかないだろう。ジニアにはわからなくて聞いたが、王子は視線を寄越しただけで答えはくれなかった。
ローニーが気を取り直すように問い掛ける。
「はい、じゃあパーティーに出るとして。いつです?」
「二週間後だ」
「にっ…」
ローニーが絶句してしまった。
「いや待ってください。パーティーに出るとしたら衣装とか色々あるでしょう!?間に合うんですか?」
「それなんだがな。神官としてパーティーに出るなら法衣でいいと思ったんだが。教皇はまだ遊行から帰ってないんだろう?」
「ああ、そうですね。長いですね、今回は」
「格式の高い法衣やら錫杖やらは宝物庫だろう。鍵を持つ教皇がいなければ取り出せない。どこをほっつき歩いてるんだ?」
「さぁ…、なんでもよほど重要な『預言』がでたらしいですけど」
「ふぅん?」
王子はさして興味がなさそうである。ジニアは『預言』も気になるが『宝物庫』の方に強く惹かれた。
「宝物庫ってあれですか?絵本に出てくる『女神さまの風切羽根』が納められてるって噂の!」
「よく知ってますね。おれも見たことはないですが、宝物庫にあるのは本当らしいですよ」
絵本とはジニアの好きな『王さまと聖女さまと翼の女神さま』のことである。物語の最後に天上に還る女神さまが背中の翼から一枚羽根を落としていくのだが、それはどんな願いも叶えてくれる『女神さまの風切羽根』として人々の間で伝説になっているのである。
「ホントにあるんだ、へーっ凄い!」
絵本ファンとしてはこんな間近に実在するだなんて感動である。目をキラキラさせるジニアを王子は見やった。
「俺が教皇になったらいくらでも見せてやる。が、今は仕方ない。教皇が帰らないなら別の伝手を頼らなければ」
「…ひょっとして候爵さまですか?」
ローニーが思案顔になる。暖炉の薪がパチリと爆ぜる音がした。
「フロックスの力を借りるしかあるまいな。招待状を持っているのもやつだ。呼び出すことも考えたがフロックスがいつ訪ねられるかもわからないし、時間が惜しい。今日先触れを出して、明日にでもやつの屋敷を訪ねるとしよう」




