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女神さまの羽根〜貧乏令嬢は俺様神官に振り回される〜  作者: おくちょう ひま子
5 目指すは王城

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6 王子の決意

「レオン様…」


 ジニアは驚いて呟く。対する王子は怪訝そう顔で橋の向こうの王城区を見やった。


「今、誰かと……。いや、違う。そうじゃない…」


「…?あっ、違いますよ、今のはナンパじゃないですから!」


 金髪の男といるところを見られたのかと思って焦った。王子は走ってきたせいで弾んでいる息を整えてから答えた。


「いいや、お前が誰と話そうが自由だ。」


「え?」


「俺が狭量だっただけだ。」


「?」


 何の話だろうか。ジニアは首を傾げた。


「ジニア」


 王子がずいと距離を詰めてきた。これまでよりも三歩分近い距離。見上げれば、王子のキラキラした瞳がジニアの額のすぐ傍にあった。


「えっなんでしょう」


 動揺して思わず後ずさろうとしたら、すぐ後ろは橋の欄干だった。逃げられない、と本能的に思った。


「ジニア。さっきはお前にひどいことを言った。すまない」


「え…いえ…」


 王子が謝ってる?なんで急に…。それに王子の顔が近すぎてドキドキする。先程の金髪の男の言葉を思い出した。「好きな人」。頬が再びかっと熱くなった。咄嗟に俯いてそれを隠す。


「いえあの…私もきっと、レオン様に嫌な思いを、させていたのだと…思います」


「違うんだ、ジニア」


「え?」


「お前は悪くない。…俺の問題だった」


「レオン様の?」


「ああ」


 下を向いているから王子がどんな顔をしているかわからないが、声は落ち着いていた。もう怒っていないのだろうか。


「あの…じゃあ、私が故郷に帰らなくても…困りませんか?」


「……半分は」


「えっ?」


 やっぱり怒っているのだろうか。思わず顔を見上げると、王子と目が合った。怒りでは無さそうだが、ジニアの知らない熱がゆらゆらと揺れている。見つめていると身の内から焼かれてしまいそうな不思議な火だ。


「お前が傷ついたらと思うとやはり帰すべきだと今でも思ってる。だが……、それ以上に、傍にいて欲しいとも思う。他の誰でもない、俺の隣にいて欲しい」


「え…」


 王子はジニアの栗色の髪をゆっくりと梳き始めた。その手が妙に優しげで、ジニアはますます動揺する。


「あの…」


「危険なことからは俺が守る。…帰れ帰れと言っておいてなんだが、まだ俺の傍にいてくれないか。お前にいて欲しいんだ」


 真摯な王子の声に、ジニアはドキドキしながらも頷いた。


「はい、もとより、そのつもりです」


「そうか」


 王子が笑った。以前一度見た小さな笑いではなく、とろけるような優しい笑顔で。

 それを間近で見たジニアは眩しすぎて目が潰れるかと思ったし、心臓は破裂しそうなくらい高鳴っていた。

 王子は何がそんなに気に入ったのか、ジニアの髪を何度も梳いては止めようとしない。

 空は夕焼けに染まりつつある。橋の欄干と王子に挟まれてジニアはただただ俯いていた。



           ◎



 夕日に染まる栗色のつむじを見下ろしながら、レオンの心中は騒がしいような、それていて冴え渡る不思議な心地がしていた。

 ジニアを目の前にすると自然と触りたいと思ってしまった。しかし許可なく触ることは躊躇われて、それでも無意識に指が動き髪の毛に触れてみたら思いの外手触りが良い。何度も梳いて、止め時がわからなくなっている。

 ジニアの兄もこんな気持ちで撫でていたのだろうか?あれは兄妹同士だからひょっとして親愛というやつか。挨拶の様式ではなく。新たな発見だった。

 では、この前ジニアが自分を撫でていたのは?自分と同じ気持ちだといいな、と思った。愛しくて、触れてくれていたらいいなと思った。


「レオン様…その…、もう…」


 長い時間そうしていたので耐えきれなくなったのか、ジニアが懇願するように緑の瞳で見上げてきた。

 う。これはマズイ。

 緑の瞳はうるうるとして、頬も薔薇色に染まっている。レオンの理性に対して破壊力が抜群だった。理性が粉々に壊されない内に、急いで手を離した。


「す、すまん、つい。そ、そろそろ帰るか」


「……はい」


 動揺して声がひっくり返ったが、ジニアは気にしていないようだった。二人並んで神殿へと歩き出す。

 歩きながらレオンは決意した。

 アデルバードと話をつけたい、と。

 今までは教皇になることでアデルバードに対抗するつもりでいた。自分が教皇になることが気に食わないのなら、あえてそれになって負けないくらいの権力を手にしてみせると。

 しかし、ジニアを傍に置くのならなるべく危険を排除したいと思うようになった。暗殺劇に巻き込ませないためには、元凶をなんとかするしかない。

 アデルバードに会って決着をつけるしかないのだ。


「さて、どうするか…」


「?」


 ジニアはまだほんのり赤い顔でこちらを見上げてきた。ジニアがここに残ると決意してくれたように、レオンも腹を括ろうと決めたのだった。

 ジニアにこの気持ちを打ち明けるのは、危険を取り除き全ての片を付けた後だ。




           ★



 そんな二人の後ろをついてく二つの影があった。黒髪の従者ローニーと、仕事を終えて駆け付けてきたホリィだ。


「もーっ、どういうことですかあの二人!空気がポワンポワンしてますよ!ジニアってばホントなんで今まで黙ってたのー!?聞きたかった~、王子さまとの恋話ー!」


 ホリィは年頃の娘らしく恋の話が大好きだった。新しくできた可愛い友人が、まさか王子殿下と恋仲とは。身分差の恋なんてマズイわ、ドキドキする。

 今すぐジニアに追いついて根掘り葉掘り話を聞きたいのをぐっと堪えていた。


「うーん。まだくっついたかと言うと違うような…」


 ローニーは長年王子を見てきたので王子の変化に敏感である。冷静に分析をした。


「ちゃんと告白したかどうかも怪しいなぁ、ありゃ」


「えーっ、橋の上の往来であんなにイチャイチャしてたのに!?」


「あの二人の鈍さを舐めない方がいい。幼児のほうがまだ恋愛について理解してる」


「それって赤ちゃんってことですか…」


 ローニーとホリィは王子とジニアを見守るという共通項において気が合い、急速に仲良くなっていた。


「きっと前途多難だろうなぁ。王子のフォローはおれがなんとかするけど、ジニアさんのことは頼める?」


「はい、それはもう!任せてくださいよ!」


 楽しいことになりそうだとホリィはワクワクして赤毛を揺らす。

 どうやら頼もしい味方が出来たようだと、黒髪の従者もひっそり笑った。



 








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