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女神さまの羽根〜貧乏令嬢は俺様神官に振り回される〜  作者: おくちょう ひま子
5 目指すは王城

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5 金髪の男


           ●



 ジニアは、橋の上にいた。 

 王都全体を上から見ると、北に山々、南に港。その二つを繋ぐように真ん中を縦断するセワ川がある。川を挟んで東側が中央大神殿のある神殿区、西側がセバド城や貴族たちの住まいがある王城区と呼ばれていた。

 その二つの区を結んでいるのは橋だ。石造り、木造り、大小様々な橋が掛けられているが、ジニアが今いるのは一番北に位置してセバド城からも大神殿からも近い石造りの橋だった。

 そこからなんとはなしに、ぼんやりと川を眺めていた。じっとしていると寒さが染みるはずだが、気にならないくらいに王子に言われたことが頭のなかをグルグルと回っている。

 そんなに、嫌がられてたとは思わなかったな…

 王子がガミガミと怒るのは確かに恐いが、その根底にジニアの身を案じる心がちらちらと見えたのでそこまで恐れていたわけではない。

 それがあんな風に絞り出すように言われると、そこまで嫌われていたのかと思って落ち込んでしまった。


「はぁ…」


 知らず溜息が漏れた。王子にどんな態度を取られても挫けないつもりでいたのに。これからどうすべきか。帰らないと自分で決めたのに、ジニアの心はグラグラと揺れていた。


「あれっ、君はこの間の」


 すぐそばで急に声を掛けられて飛び上がった。振り返ると、以前道に迷った時に案内してくれた親切な金髪の男が立っていた。


「久しぶりだね。まさか、また迷子?」


 にっこりと笑う顔は美しかった。だがジニアは話し掛けられて大いに焦った。


「ちょっ、と待ってください!あのっ、ごめんなさいナンパはお断りします!!」


 また王子に怒られてしまう。ナンパかそうじゃないかの見分けがわからないので、もう最初から断るしかなかった。

 金髪の男はキョトンとした後、ぷっと吹き出した。


「あはは、違うよ、ナンパじゃないよ。純粋な親切心。信じられないかな?それに僕、もうすぐ結婚するんだから浮気はしないよ。ほら」


 男が首元から金色のネックレスを引っ張り出した。

 それは結婚を約束した恋人同志がお互いに贈り合う羽根をモチーフにした伝統的なネックレスだった。ジニアは両親が似たようなネックレスをつけていたのを見たことがあった。目の前のネックレスは紫色の石がついていて、高級そうな雰囲気がある。


「あ、そ、そうですか」


「そうだよ」


「ナンパじゃ、ないなら大丈夫です…?」


「疑問形なの?」


 男はクスクスと笑ってネックレスをしまうと、ジニアの隣に並び橋の欄干にもたれた。


「溜息ついてたの見ちゃった。悩み事かい?」


「悩みというか…」


「それじゃあやっぱり迷子?」


「違います!」


 楽しそうに笑う男に毒気を抜かれてしまった。ジニアは愚痴を少しだけ零してみることにした。誰かに聞いて欲しい気持ちもあった。


「…傍にいたいって思ってた人がいたんですけど、実は嫌われてたみたいで…」


「おやおや。好きな人に振られたの?」


「すっ、好きな人!?」


 想定外の単語に慌てふためく。顔がかっと熱くなった。


「えー?さっきの溜息は恋する女の子の憂鬱じゃないの?だから恋愛の話でしょ?」


「れんあ…恋愛!?」


「なんでいちいち驚くの?」


 やっぱり男は楽しそうに言う。

 好きな人とか恋愛とか自分には縁のないことだと思っていた。そんなふうに見えてるの?ジニアは混乱する。

 男はお構いなしに続けた。


「なんで嫌われたって思ったの?」


「え…それはその…、私が故郷に帰ってくれないと困るって言われて…」


「困る?なんで?」


「え…、わ、わかりません」


 恋話と誤解されたまま話が進む。金髪の男は親身に考えてくれているようだった。有り難いような、複雑なような。


「うーん。それはあれだね、話し合いが足りないね」


「話し合い?」


「そ。まずはなんで困るのかちゃんと相手に聞いたほうがいいよ。そして君もきちんと自分の気持ちを言うんだ。それでダメだったら」


「ダメだったら?」


「諦める。…かどうかまた悩めばいいさ」


「……」



 確かに、王子ともっとちゃんと話した方がいいのかもしれない。どうして私がいたら困るのか。それを聞くのは恐いし、また拒絶されたら傷つくかもしれない。けど、傷ついたとしてもこのまま立ち止まっているわけにもいかない。最初に傍に残ることを選んだのは自分なのだから。


「…そう、ですね。もっとちゃんと話してみます。あの、お話聞いてくれてありがとうございました」


「なんの。大したことはないよ。…そうそう、この間の蜂蜜の飴ありがとう。美味しかったよ。彼女と食べたんだ」


「あ、そうなんですか、それは良かったです」


 一緒に川を眺めていた金髪の男はここで顔をジニアに向けた。目が合うと、青い瞳が眩しげに細められる。


「あの蜂蜜の飴、そんなに僕の髪色に似てたかい?」


「えっ、あ、はい。…不快に思われたらごめんなさい」


 確かにそんなことを言った。失礼なことだったろうか。男はあははと笑う。


「そんなんじゃないさ。…ねぇ君には僕の目は何色に見えてるの?」


「え?」


「黒かい?」


「え?黒?…綺麗な青、ですけど…」


 変なことを聞くなぁと思った。なんでそんなことを聞くんだろう。


「うーん、なるほどね」


 何がなるほどなのだろうか。やっぱり変な人なのだろうか。ジニアにちょっぴり警戒心が生まれた所で、金髪の男は小さく「おっと来たか」と呟いた。


「じゃあ僕はこれで。また恋のお悩みがあったら是非聞かせてくれ。」 


 そう言って王城区の方へと歩き出した。


「じゃあまたね、ジニアちゃん」


 あれ?私名乗ったっけ?

 そう思った瞬間、


「ジニアっ!!」


 叫び声と共に、けたたましい足音を立ててレオン王子が現れた。

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