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女神さまの羽根〜貧乏令嬢は俺様神官に振り回される〜  作者: おくちょう ひま子
5 目指すは王城

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1 喧嘩

 今日も今日とて王子は不機嫌だった。

「行って参ります」とジニアが声を掛けても横目でチラリと見ただけ。机に座り本を読んでいる王子の口はへの字に曲げられていた。

 でもジニアもこれくらいではへこたれない。 

 王子の傍にいると、自分で決めたのだから。



          ●




「ならん!何故故郷に帰らんのだ!」


 ジニアの決意を聞いた王子はカンカンに怒った。でも腹を括ったジニアは素直に言うことを聞く気はなかった。


「私が自分で決めたならいいじゃないですか。このままここで神官見習いを続けます」


「俺の近くにいたら危険だと言っただろう。この間はたまたま助かっただけだ。いつも上手くいくとは限らない」


「それは、善処します。戦力になるのは無理でも、自分の身くらい守れるように訓練だってします。手伝ってくれますよね、ローニーさん?」


「ええ。それはもう」


 候爵を見送り応接間に戻って来たローニーはジニアの味方だった。機嫌よく笑って相槌を打つ。

 王子は苦々しい顔で従者を睨んだ。


「ローニー、この裏切り者め」


「なんとでも。ここはやる気になった本人の意志を尊重しましょう」


 相変わらずローニーは飄々としている。ジニアは王子の説得を続けた。 


「レオン様、初めは私を利用しようとしたんでしょう?じゃあ私がいたって良いじゃないですか!」


「だからそれは間違いだったんだ!俺が愚かだったと言っている!」


 王子もだいぶ意地になっているようだった。ソファに座り腕を組んだまま、そばに立っているジニアを睨みつけてきた。


「間違いじゃないです。確かに私も初めは流されるままここにいましたけど。でも、レオン様の助けになりたいと思うようになったんです」


「俺の助けだと?」


「はい、レオン様を手伝いたいです。…レオン様は教皇になりたいんですよね?」


「……」


「レオン様?」


 王子は虚を突かれたように何かを考え込むような顔になったが、ジニアに呼ばれてハッとする。


「…そうだ。俺は教皇になる他ない」


「だったら、無事に教皇さまになるためにアデルバード殿下からの暗殺を防がないといけないんですよね?合ってます?」


「ああ」


 そこでジニアは少し声の調子を落とした。

 王子の目を真っ直ぐ見て問いかける。


「…あの、アデルバード殿下ってどういう方なんです?」


「は?」


「いえあの、アデルバード殿下がレオン様を狙ってるっていうことしかわからないなぁって。弟を殺そうとするほど恐い方ってことですよね?」


「…………それは悪いやつだろ。暗殺を仕掛けてくるくらいだから」


「そうなんですけど。あのですね、私の父が生きて領主の仕事をしてた頃、よく喧嘩の仲裁とかしてたんですよ。そういう時どちらか一方が悪そうに見えても、父は必ず両方の主張を聞いてました」


 領主の仕事は裁判官も兼ねるので、当人同士で決着がつかない争いのときは領主が双方の話を聞き裁きを下していた。幼いジニアは分け隔てなく声を拾い公正であろうとする父を見て育ったのだった。


「だから、アデルバード殿下のことも知りたいなって」

 

 これにはローニーが答えた。


「殿下の市中での評判ならわかりますけどね。次期国王に相応しく容姿端麗、勇猛果敢、才気煥発。…まぁ印象操作だとしたらどこまで本当かわかりませんけど。少なくとも悪い噂は聞きませんね」


 それらはジニアも聞いたことがあったのでうんうんと頷いてから王子に向き直る。


「レオン様はアデルバード殿下に最後にお会いしたのはいつですか?」 


「ない」


「へ?」


「アデルバードに会ったことはない。…俺は神殿からほぼ出ないし、向こうもこちらに来たことはない」


 それ程とは思わなくてジニアの目は丸くなる。仲が悪い王族とはそんなものなのだろうか。


「…そうなんですか。それなら尚更殿下のことを知りませんと」


 それに王子は顔をしかめた。


「知ってどうする!アイツは俺を殺そうとしてる。それだけで充分だ。頭を下げられても仲良くする気なんかないぞ!」


「はい、レオン様の心情を考えたら当然だと思います。私も仲良くして欲しいと思ってるわけではありませんよ。ただ、暗殺を止めてもらうにはどうしたらいいのかなって。あちらはレオン様が教皇になるのが気に食わないのかもしれませんけど、でもレオン様は教皇はなりたい。どこかで妥協点を見つけられませんか?」


 父が争いを納める中で、必ずしも皆が皆すんなり和解できるわけではないことをジニアは学んでいた。そういうときはこれならば許せる範囲を探すのがコツだというのも父から教わっていた。

 ジニアには難しいことは分からないが、人の話を聞くことくらいはできると思ったのだ。


「そのためにはまず、アデルバード殿下の為人を知らないと、と思いまして…。できれば殿下が何を考えてるのかも知りたいです」


 まだ何か文句が言いたそうな王子を置いて、ローニーがのんびりと答えた。


「そうですねぇ。今までは防戦一方でしたし。こちらは基本的におれと王子だけだからそれも仕方なかったんですけど。妥協点ですか。」


「はい、なんとかして殿下のこと調べられないかやってみたいです」


「ジニアさんがやる分にはいいんじゃないですか?ねぇレオン様」


 王子はそこで我慢ならなくなったのか立ち上がると、ジニアに向けて怒鳴った。


「俺は知らん!俺は故郷に帰れと言ったからな!勝手にしろ!!」


 



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