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1 田舎の令嬢その1


          ☆☆☆




 若者は、悪しきものを全て倒しました。

 すると女神さまはこう言いました。


『王となる宿命を持った若者よ。わたくしは、天に還ります。しかし、あなたの栄光があまねく国を照らせるよう、わたくしも天上から翼の力を貸しましょう。』


 若者は女神さまにたずねます。


『翼の力?』


『そう、祈りがわたくしの元に届いたなら、翼から羽根を取り、そっと降らせましょう。それはきっと役に立ちます。』


『ありがとうございます、女神さま。』


若者がお礼を言うと、女神さまは微笑みながら背中の翼を広げ、天へと昇っていきました。




《「王さまと聖女さまと翼の女神さま」の絵本より》





          ☆☆☆

 







 話は、ジニアが王子に出会う数日前に遡る。




「ふー、これでいいかな?」


 ジニアは箒を片手に一息つく。目の前にはふかふかになるように敷いた藁が積まれていた。


「ね、どう?素敵な寝床でしょ?」


 藁まみれになりながら振り返ると、栗毛の馬が飼い葉桶の中の草をむしゃむしゃと食べていた。馬はチラリと視線だけをジニアに寄越して食べることに集中している。


「んもぅ、つれないなぁ」


 馬房にはジニアと、兄の馬であるステラしかいない。兄は所属している騎士団から先日久しぶりに帰ってきたばかりだ。

 馬房に馬がいるのが久しぶりなので、ジニアははりきって綺麗にして寝床を整え、ステラをもてなしてやったつもりだった。


 (ふかふかのベッドには興味なしかぁ~)


 なんとかこの馬と仲良くなりたいが、今のところ空回りばかりだ。次は人参でも持ってこようか。

 掃除を終えたジニアは軽く藁をはたき、馬房を出ようとして自分を呼ぶ声に気づいた。


「姉さん!」


「ダリア?」


 屋敷の方から妹であるダリアが小走りでこちらにやってきた。短く切りそろえられた前髪からのぞくおでこが、我が妹ながら可愛いなどどジニアは思う。


「なんで馬房にいるのよ!これから神殿に行くのに、馬糞にまみれてどうするの!」


「ばっ、ばふんまみれ!?」


 そんな、今日は別に馬房ですっ転んだりしていない。ジニアはあわあわと服装を見下ろすが、藁くずが付いている以外の汚れはなかった。


「別に今日は汚れてないわよ?もうダリア、そんなに怒ってどうしたの?」


 可愛い妹の頬に手を伸ばすが、ぺしんと払われてしまった。


「馬糞は言い過ぎたわ。でも藁くずまみれで!私言ったわよね、今日はあたしと一緒に神殿で儀式を受けるって!」


「あー…」


 自分と同じ緑の瞳が怒りでキラキラしている。紅潮した頬が柔らかそうで突っつけなかったのが残念だった。


「ほっぺは禁止よ!聞いてるの姉さん!」


 ジニアが何を考えてるのか察したダリアが一歩下がる。ふぅとため息をついてからジニアは口を開いた。


「神殿には兄さんと行けば問題ないでしょ?私は関係ないわ。」


「だから姉さんもついでに洗礼を受けるのよ!ホントなら13歳で儀式を受けるのに、姉さんったらもう17でしょ!?嫁ぎ遅れるわよ。」


「構わないわよ。ヒースとデイジーもまだ小さいし。余所へ行く気はないわ。」


 ヒースとデイジーとはジニアの10歳下の双子の弟妹だ。

 兄のエルム、ジニア、ダリアにヒースとデイジー。

 シダー男爵家は5人兄妹で、両親は4年前に亡くなっている。長女のジニアは幼い弟妹の母代わりを自認していた。


「また、そんなことを言って…」


 このやり取りを兄が帰ってきてから何度も繰り返しているのでダリアは呆れ顔だ。

 妹が言ったように、この国に住む人間なら13歳を迎えたらすぐ神殿へ行き『羽降りの儀式』を受ける。そこで、女神さまから特別な贈り物ー『羽根』を賜るのだ。

 『羽根』は授かった能力如何ではその人間の人生を大きく左右する。特に貴族間の女子においては結婚市場で有利に立てる可能性があった。つまり、珍しい能力なら身分問わずモテモテになれるかもしれない、というわけである。弱小貴族の起死挽回のチャンスであった。


 しかし、ジニアは結婚する気がまるでなかった。弟妹が幼いことも理由であるが、もっと現実的な話、お金がないのである。

 シダー男爵家は貧乏であった。山の麓の小さな領地で、作物が育てたれる土地があまりなくこれと言った特産品もない。かつて父は騎士団で軍医をしていたので、父が健在の頃はほとんどその給与で生活していたくらいだ。父が亡くなった時に騎士団からわずかばかりの見舞金も貰えたが、それも村にある水車の修理とか、橋の補強とか、領地の経営のために一年もたたずに消えてしまった。


 使用人だって祖父の代から仕えてくれてる老下人のアンソニーと、通いのカシア夫人しかいない。彼らには雀の涙程の賃金しか払えていない。突然親を亡くしたジニアたちを哀れんでそれでもいいと言ってくれているが、彼らの献身と誠実に形で応えられないのがジニアは辛かった。


「ダリア、結婚にはお金が掛かるのよ?我が家に女は3人もいるのに、持参金なんてとても用意できないわ。それに、別に私には決まった相手がいるわけでもないし。」

 




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