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5 国と教会と

 この国では『女神の翼教会』は強大な権力を持つ。

 トアトル国の初代国王は地上に降り立った女神から統治を任されたという神話があるので、教会と王国は切っても切り離せない。

 しかし、王国側から見ると教会が力を持ち過ぎてしまうと国王の求心力が下がり支配が及ばなくなる危険性を孕んでいる。

 だから常にバランスが大事だった。

 教会に権力が偏らないように、かといって締め付け過ぎると女神さまを信仰する民たちから反感を買ってしまう。

 その匙加減一つで国王の評価が名君か暗君か別れてしまうくらいだ。王国側はいつも難しい立場に立たされている。

 そしてその対処の一つとして、教会に対する楔になるよう王族から常に一人は教会で神官になる者がいた。今の世代では第二王子のレオンハルトがその立場にあった。


「ところがですね、レオン様こそが問題でして。母君こそ側室さまですが第二王子で、しかも『神の眼』持ち。基本的に教会の神官になった王族っていうのは出世しても教皇の下の位、枢機卿どまりですが、レオン様のお力を考えると将来的には教皇以外あり得ないですから」


「はい、はい…」


「ついていけてるのかお前」


 必死な顔で相槌を打つジニアに王子が突っ込む。

 言わないで、今は余計なことを言わないでレオン様。


「えーっと、レオン様が教皇になる。それはほとんど決まっていることってなんですよね。で、それの何がいけないんですか?」


 ローニーの話を整理しながら疑問を返す。


「将来的に王になるアデルバード殿下。『神の眼』を持ち王家直系の血を引く教皇のレオン様。まぁ割れちゃいますよね~、権力とか人気とか」


「割れちゃう?」


「割れちゃいますよ」


 権力とは無縁なので想像しにくかったが、それは多分、


「あんまり、よくないことですか?」


「国王から見たら、かなりよくないことです」


 茶化した言い方をしているが、ローニーの顔は真剣だった。


「レオン様が教皇になったらかなりの脅威になるでしょうね。女神様の威光にすがってレオン様におもねる貴族も沢山出てくるでしょう。教会はそもそも民に寄り添ってるものだから、臣民の人気もある。そんなレオン様は押しも押されぬ直系の王族。国王側からみたら非常によろしくないでしょう」


 そうなんだ。でも、それなら…


「じゃあレオン様が神官を辞めるというのはだめなんですか?ただの王子様に戻るとか」


 これには王子その人が答える。


「『神』の文字を持ってしまった時点で無理だな。教会の立場的に女神さまに近い者を囲わないという選択肢はないし、無理に辞めたところで教会は国王に対してこちらに戻せと強く通達するだろう。それはまた別の火種になりうる」


「はぁ…えーっと…」


「つまり、レオン様は教皇になる未来しかないということですよ。」


 ローニーが補足してくれる。

 『羽根』の力を考えると、教皇になるしかないということ?


「アデルバードから見たらさぞ厄介だろうさ。自分の治世に自分と同等の権力を持つ教皇がいる。邪魔でしかない。…だったら教皇になる前に殺してしまえばいいというわけだ」


「そんな…」


 王子は実の兄に疎まれて、命を狙われているということか。

 残酷な事実にジニアは言葉もでない。 

 ローニーは憂えた顔で続ける。


「正直、レオン様には味方が少ないです。この教会内で誰が第一王子の手先かわかったものでもないですし。レオン様が一人一人『見る』のも限界がありますからね」


 ローニーはそこで言葉を切ると、ジニアの目をひたと見つめる。


「—だから、ジニアさんの力はきっと王子の役に立ちます」


「よせローニー。俺の代わりに矢をくらって巻き込まれたから聞く権利があるだけで、でもそれだけだ。ジニアはもうここにいない方がいい」


「レオン様!」


 王子は視線だけでローニーを黙らせると話を続けた。


「お前のその『神』の文字は俺たち以外は知らないから今の状態で帰るなら大きな問題にはならないだろう。それよりもここにいたらまたこの間のような危険な目に合う可能性が高い。恐ろしいだろう?」


「……」


 確かに、恐ろしかった。

 賊に囲まれて間近に争いを見て、結果的に無傷だったとはいえ矢に刺されるところだったのだ。

 恐ろしくないわけが無い。

 でも、今ここで本当に帰ってしまっていいのだろうか?


「俺はな、売られた喧嘩は買う主義だ。教皇になる他ないならとことんやって、最後には勝ってやる。アデルバードになど負けん。だがお前を巻き込んでしまうのは、違う、と思ったのだ」


 王子は苦々しげな顔になり、常にらしくないどこか頼りない声で続ける。


「始めはな…、正直言って使えると思った。『神』の文字だからな。俺の傍にいるべきで、役に立つべきだと思った。でも」


 王子の瞳の輝きが弱々しい。ジニアの好きなあのキラキラが、翳っている。


「お前が矢に倒れたとき、間違っていたと気づいた。俺の野心のために…、お前を傷付けたくはない」


「レオンさま」


「だから、故郷に帰れジニア。今ならまだ間に合う」

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