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3 急襲

 セバド郊外にある神殿への慰問は何事もなく終わった。王子は慈善活動の一環としてたまに近くの神殿に出張し、経典を読んだり『羽根』の力を使った相談会をしているらしかった。

 敬虔な神官なんですね、とローニーに言ったら


「貴族が嫌いなんですよ。城になんて絶対行きませんからね。一般市民に奉仕する方が有意義だって」


 と返された。

 あの布の袋をまた被っていたが、人前に出るときは王子の美貌目当てに騒がれるのを嫌って被っているらしい。奉仕活動に美しい顔は邪魔だ、と堂々と言っていた。

 でも袋を被ったまま孤児院のこどもたちに土産のお菓子を配っているのは何とも言えない絵面だった。

 中身が王子と知ってなければ不審者だと勘違いしちゃうかも。

 こどもたちと遊びながら、ジニアはちょっぴり笑った。



            ●



 久しぶりに小さなこどもと戯れて、ジニアは満たされた気持ちで帰りの馬車に乗り込んだ。

 対する王子は少し疲れた様子だった。


「クソガキどもめ、やめろと言っても袋を剥ぎ取ろうとする」

 

 ブツブツと言っている。でも本気で怒っているわけではないのは短い付き合いのジニアでもわかった。くすりと笑うジニアに王子は目を向ける。


「お前は楽しそうだったな?」


「はい、こどもは見てるだけで癒されますね。お菓子も喜んでくれてよかったです」


「そうか」


 ローニーは御者台に座って御者を務めてくれている。車内は二人きりだ。でももうジニアは王子に対して畏れを抱かなくなっていた。王都郊外の森の中を行く馬車の揺れが心地よくて、ウトウトしてきたくらいだ。


「おかしい」


 王子がそんなことを呟いたのでハッとした。寝ていたジニアは目を覚ます。


「どうしたんです?」


「ローニー!この道は危険だ!何か『見えた』!」


 御者台を覗ける窓に向かって王子が叫ぶのと同時だった。馬車が急停車してグラグラと傾いた。


「う、わっ」


「ジニア!」


 王子がジニアを抱き込んで衝撃から庇ってくれる。揺れが収まるとローニーの声が聞こえた。


「レオン様、敵襲です!そこから出ないでください!」


 馬車の周りに馬や人の気配がする。敵襲?襲われているの?ジニアは恐怖を覚えて王子にしがみつく。王子は力強い瞳で見下ろしてきた。


「レオン様…」


「伏せていろ、ジニア。案ずるな、ローニーはああ見えて強い。俺もでる」


 言うが早いか、椅子の座面を上に押し上げるとそこに収納されていた剣を取り出した。外に出て戦うつもりなのか、それは危険ではないのか。


「レオン様っ…」


「お前はここから絶対に出るな、伏せていろ」


 言い捨てて王子は飛び出してしまった。

 ジニアには何もできることはない、ここでじっとしている他はない。それでも外が気になって、そろそろと窓を覗いた。


「なんで出てきたんですか、馬鹿王子!」


「言うに事欠いて馬鹿とはなんだ!」


 確かにローニーは強いらしかった。すでに一人を倒して、敵は四人になっている。敵はならず者の風体だ。盗賊か何かだろうか?一番体の大きな男が脅すように言ってきた。

 

「大人しくしすれば楽に殺してやる」


「ふん、戯言を。こちらの台詞だ。この俺が囮を買って出たんだ。ローニー、ぬかるなよ!」


 王子が叫んで剣を構えると、ローニーに向かっていた敵二人が方向を変え一斉に王子に襲いかかる。しかし次の瞬間、敵の背後に何故か突然ローニーがするりと現れてあっという間に斬り倒す。

 何が起こったのか全部見ていたジニアにもわからなかった。まるでローニーが瞬間移動したかのようだ。

 ―ひょっとして、ローニーの『羽根』の力なのかしら。

 しかし敵はこれで二人、一対一の戦いになっていた。

 その時、ジニアは不思議な違和感を感じた。

 少し離れた木の影から何か気配がする。

 ———炎だ。

 青い炎が浮いている。もう一人の刺客がそこにいた。

 あれも『羽根』の力なのだろうか。王子たちは刺客の存在に気がついていない。

 炎が矢の形を作る。

 危ないと本能的に思った。馬車の扉を開けて飛び出す。


「レオンさまっ!!」


 炎の矢が真っ直ぐレオンの背中を狙って飛ぶ。

 その動線上にジニアは立った。無我夢中だった。


「ジニア!?」


 


 青い炎の矢は、ジニアの腹の真ん中に吸い込まれるように突き刺さった。



           ●

 



「どけ、この野郎!!」


 王子が気合と共に最後の一人を斬ると、倒れ伏したジニアに駆け寄る。ローニーは木陰に隠れていた刺客を捕縛した。


「ジニア、ジニア!なんで出てきた!?」


 一瞬しか見えなかったが、矢のようなものが確かにジニアに突き刺さった。王子を庇ったのは明白だった。


「どうして…」


 情けなくも声が震えてしまった。とにかく傷の確認をしようとジニアを抱き起こす。


「う…」


「え?」


 

 矢も傷もどこにもなかった。




           ●



 その三日後、ローニーはついにジニアの腕に書かれた神聖文字の一つを見つけた。『神』の文字の隣にはこう書かれていた。


『無』、と。






 




 


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