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4 王子と掃除その2

「バカモノ、素手で触るやつがあるか!」


 王子はジニアの手を引っ掴むと、用意してあった桶の水に突っ込んだ。赤くなった手を冷やしながら王子の罵声は止まらない。


「まったく、貴様さてはそそっかしいタチだな!?火で熱した鉄だぞ!そんなもの触るんじゃない!」


「はい、はい、そのとおりです、すみません…」


 ジニアは王子にされるがまま怒られるがままだ。しょんぼりしていた視線を上げると、王子との距離が近いことに気がついた。

 

 わあっ…


 王子の中性的な美貌が目と鼻の先にある。造作が整っているのは間違いないが、瞳の美しさが何よりもジニアの目を引いた。

 やっぱりとてもキラキラしている。元は髪の毛と同じ灰色なのだろうが、内側から輝きを放っているように白い煌めきが見える。宝石のようにまばゆい光ではなく、王子自身の性質を現すようなどこか清廉な光だ。うんと寒い冬の日に、凍った湖が朝陽に反射しているみたいだとジニアは思った。


「おい、聞いてるのか?」


 怪訝そうな声にはっとした。王子に手を握られたまま瞳を見つめていた。我に返って手を離そうとしたら逆に握り返された。


「あのっ、レオン様っ」


「待て。……よし、『見えた』。特に酷くはならないな」


「え?」


「この火傷はすぐに治るのが『見えた』。すぐ串を離したのが幸いだったな」


 『見えた』?ひょっとして…


「……『羽根』のお力ですか?そんなものまで見えるのですか」


「そうだ。…恐いか?」


「え?何がです?」


 ジニアは何を聞かれたのかわからなくて王子の瞳を再び覗き込む。王子の方が何故か少したじろいだ気がした。


「…神殿の神官どもは俺の力を恐れてる。神ごとき俺の力をな」


 あ、王子が遠巻きにされいてるのは…


「アイツらは決して俺と視線を合わせない。後ろ暗いところがあって俺に暴かれるのを恐れている。実際奴らの不正を暴いたこともあるしな。俺が『見たい』と望めば人の隠し事まで『見える』のだ。…お前も恐くなったか?」


「え…」


 恐い。恐いのだろうか。ジニアは考え込んだ。

 『神の眼』、望めば何でも見えてしまう『眼』。

 王子のどこか試すような顔を見ると真剣に答えなくてはいけないと思った。だから今わかる精一杯を答えた。


「…ごめんなさい、よくわかりません。私には今隠し事は無いですけど、心の中を覗かれるのは嫌だなって感じます。でも、私がこの世でいちばん恐いと思うのは家族がいなくなることです。王子の眼は私の家族を害しません。ということは、たぶん恐くないということです」


「……たぶん?」


「はい、すいません、…難しいことはよくわかりません…これ以上は、頭が、こう、スープを煮るみたいにグツグツしちゃいます…」


「…そういえばローニーが基礎を教えても経典が全く読めなかったな、お前」


「はい…」


 遠回しに馬鹿と言われたのだろうか。そろそろと王子の顔を見上げると、王子はなんと小さく笑っていた。そうすると年齢より幼くてとても可愛く見える。ジニアは思わずきゅんとしてしまった。


「難しい話をして悪かったと言えばいいか?」


 鼻でふっと笑って言う。やっぱり馬鹿にされているのだろうか。


「謝らなくてもいいですっ。そろそろ芋を見てみますね!」


 ちょっとムッとしたジニアは布巾を手にしてから鉄串を取ろうとした。が、布巾を王子にするりと取られてしまった。


「あっ…」


「下がってろ。お前は余計な怪我をするだろ」


 結局、その後王子が怪我をしたジニアの変わりに焼き芋を見てくれた。いい感じに焼けた後、手に持てるまで冷めたのを確認してから二つに割って、大きな方をジニアに渡してくれた。


「ん、確かに甘くて美味いな。野菜はあまり好まんが、これはイケる。」


「はい、おいひいれす」


 口の中が熱い。ジニアがはふはふ言いながら食べているのを王子が黙って見つめていた。

 食べ終わって焚き火の後始末も済ませると、王子は立ち上がりながら言う。


「よし、次は宮の中の掃除だ。今日は窓を磨くぞ」


「は、はい!」



 その日は夕方まで二人仲良く掃除に励んだのであった。

 


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