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2 神官見習いその2

「あの阿呆みたいな起こし方はなんとかならんのか」


 礼拝後の朝食の時間。

 王子の私室にて、王子とローニーとジニアは同じテーブルについていた。貴族としての身分を考えると本来同じ席ついて食事などできないが、ここは神殿内なので許されるらしい。王子は初対面から身分を笠に着て偉そうだったので、それを許してるのはジニアにとって意外だった。

 食事の内容も三人とも同じだ。硬いパンに野菜スープに暖かい牛乳。質素なメニューをこれまた文句も言わずに王子は食べている。


「婦女子が優しく起こしてくれたらレオン様もすんなり起きるかと思ったんですが。意味なかったですね~」


 ローニーはモグモグとよく食べる。いつも二人の倍は食べている気がする。王子がお残しをしようものなら、すかさずそれも食べていた。


「歌が気に食わないんですか?でも私、こどもが歌うような歌しか知らなくて…」


「歌の内容ではないわ!ローニー、今まで通りお前が起こせないのか?」


「ちょっと無理ですね。元々傍付きがおれ一人なのが無茶だし、仕事も増えましたし。いいじゃないですか、それを補うジニアさんですよ」


「…ちっ」


 お行儀悪く舌打ちをして王子は不服そうだが、ローニーはどこ吹く風だ。

 主従関係の二人はジニアにはとても仲が良さそうに見えた。


「まぁいい。それよりローニー、文字のことについて進展はないのか」


「無いですねぇ。経典もまだ一冊目が半分もいきませんよ」


「ふん。祈ってみても何も起こらないのだろう?」


「起こらないです」


 しょんぼりとジニアは返事する。妹、ダリアがやっていたみたいに「羽根の力をお貸しください」とジニアが祈ってみても何も起こらない。

 本当に自分に何か力があるのだろうか?


「あの、もっと他の神官さまに聞き込みしてみるのはダメなんですか?」


「ダメだ。この神殿内に俺が信用の置けるヤツなどローニー以外いない。強いて言うなら教皇だが、本当にいつ帰ってくるのやら」


 神官見習い初日に、左肘の『神』の文字を包帯で巻いて隠した状態にして何人かの神官に文字の意味を知っているかどうか聞いてみたのだ。

 全員が文字を視認できるが、文字のことは「知らない」と答えた。

 やはり、ジニアの腕の文字は王子だけに見えなくて、誰も知らない文字であるということだ。

 その時に気づいたが、他の神官たちは立ち会った王子にやたらビクビクしているように見えた。どうやら王子は神官たちには遠巻きにされているらしい。みんな王子という身分に畏怖しているのだろうか?

 教皇が今この神殿にいないのも本当だ。半月程前に遊行にでたきりらしかった。


「そんなに他の神官さまは信用なりませんか?」


「ならないな。清貧を気取っているが世俗に塗れた奴らばかりだ。どこにどう繋がっているかわかったものでない」


 酷い言い草だなと思った。過去に何かあったのだろうか?王子も神官たちもお互い避け合っている様子である。

 ローニーは王子が残した野菜を横から手を伸ばして摘まんでいる。


「まぁそうですね、おれもあれ以上の聞き込みはお勧めしませんよ。経典をじっくり読み込んでいくのが安全ですかね」


 「一の翼」から「五の翼」までは教皇の許可がなくても王子権限で読めるらしい。ローニーは暇を見つけては読み込んでくれていた。因みにジニアも読んでみたが、難し過ぎて一ページも読めなかった。


「そうですか…」


 ジニアの力がいつ判明するのか見当もつかなそうだ。このままではいつ故郷に帰れるのか。そもそも判明したとして、『神』の文字を持っている以上すんなりと帰れるのだろうか?

 ジニアには分からないことだらけだった。


 食事が終わったらローニーは「ではおれはこれで」と言ってどこかに消えてしまう。

 今日の予定はどうするのだろうかと王子を振り返ると、王子が「さて行くか」と呟いた。


「どこに行くんですか?」


「ジニア、あれを用意しろ」


「あれ?」


「箒とちりとり」


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