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《天界禁書》天使の羽根~雨の天使は盲目の少女と出会い、愛を知り、禁忌を犯す~  作者: 風雅ありす
【第七羽】罪罰 ―運命という名の無慈悲な波濤―

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五、真相

 レインの目の前には、炎のように赤い髪と瞳を持つ女天使が立っている。しなかやで見る者に躍動感を与える四肢、内側から熱いエネルギーを放つ美しい顔は、レインが見慣れた友の顔でもあるが、今は怒りの感情で溢れている。腕を身体の前で組み、どうして自分がここに来たのか分かっているわね、と言いたげだ。その無言の圧力に、レインは肩をすくめた。


「遊びに来たのかな」

「ふざけないで」


 サニアがぐっと目に力を籠めると、赤い瞳が炎のように揺らめいた。まるで瞳が炎からできているようだ。それもその筈、彼女は太陽の炎から生まれた天使なのだ。


「遊びは終わり。さあ、私と一緒に帰るわよ」


 有無を言わさず連れて行こうとするサニアに、レインは抵抗した。


「帰らないよ。俺は、まだ……ここでやらなきゃいけないことがあるんだ」


 サニアが眉根を寄せてレインを見る。ふざけているようには見えない。


「それは、正式な仕事じゃないでしょう。大天使様の許可なく、人間界へ降りてはいけない決まりを忘れたわけじゃないわよね」


 サニアの目がすっと細められる。レインの真意を測ろうとする目だ。


「決まりを破ったら、どうなるか……分かっていて言っているのかしら」


 天使の掟を破ることは、神様との契約を破ることでもある。それは、子が親を否定するようなもので、天使自身の存在を否定することになる。そのことは、もちろんレインも知っている。レインの無言の意思表示にサニアは溜め息を吐いた。やはりあのことを伝えなくてはいけないようだ。


「あの女……リヴって言ったかしら。目が見えないんですってね。

 その理由を知っても、あなたはまだ彼女の傍にいたいと思えるかしら」


 今度はレインが眉根を寄せる番だった。どういう意味だ、と聞き返す。


「本当は、伝えないであげようと思っていたのだけど……レイン、あなたの所為よ。

 あなたが妙な気を起こして赤子を助けたりなんかするから、神様が怒って彼女から光を奪った。本当は、あの時死ぬ運命だった赤子を」


 レインの表情が固まる。彼女は何を言っているのか。


「天使が人間の生き死に関わってはいけない、それはあなたも解っている筈よね。

 その所為で彼女は罰を受けることになった。本当は見ることの叶わなかった世界を見えなくするように、って。ま、命まで獲られなかっただけ感謝するのね。

 全く、どうしてあんなことをしたのかしら。あなたが彼女から光を奪ったのよ」


 サニアの言葉に、レインは、はっとあることに思い当たり、顔面が蒼白になった。


「もしかして、彼女が海に飛び込んだことも……」

「ああ、あれは完全に彼女の自由意志よ。そもそも自然に生まれた人間の生死に天使が関わってはいけない理由は、神様たちが彼らの自然美を愛しているからで、直接生き死に手を出すようなことは……って、聞いているの、レイン」


 レインの耳に、サニアの言葉は途中までしか届いていなかった。


「見ていたのか。彼女が海へ落ちるところを……黙ってただ見ていたのか」


 レインの目に憎悪の火が灯る。それを見ても、サニアは何故彼が怒っているのか理解できない。


「だから、さっきから言ってるでしょう。天使が人間の生き死に手を出してはダメなのよ。

 彼女の目が見えなくなった理由を知っても、まだ解らないの。世界の均衡を崩すことになるのよ」


 サニアが言っていることは、自然界の、天使としての道理だ。少し前までのレインなら、それに納得しただろう。でも、今のレインには、それを素直に受け止めることは出来なかった。リヴと出会ったからだ。前を向いて強く生きている人間たちと触れ合い、人間の強さと弱さを知った。それらを知る前の自分にはもう戻れない。サニアが悪いわけではないと頭で分かってはいても、今目の前にいるサニアに自分の怒りをぶつけるしかなかった。


「ねぇ、本当にどうしちゃったのよ、レイン。何か一つのことに執着するなんて、あなたらしくもない。人間なんて弱い生き物、放っておいてもどうでもいいでしょう。

戻ってきてよ、レイン」


 サニアの言葉がレインの逆鱗に触れた。ためらいなくレインへと伸ばされたサニアの手をレインは強く払いのけた。


「……帰ってくれ、帰れよっ」


 サニアの炎のような瞳が涙で揺れている。それを見たレインは、自分の言葉が彼女を傷つけたこと知った。


「レインのばかぁ」


それだけ叫ぶと、サニアは空へと飛びあがり姿を消してしまった。

違う、彼女を泣かせたかったのではない。そうは思っても、今のレインは、彼女の後を追う気になれなかった。


 上空へと舞い上がったサニアは、零れ落ちる涙を拭こうともせず、恨みを込めた目で人間の住む村を見下ろした。怒りで肩が震えている。いつも天使に救いを求めるしか能のない弱き人間に、レインを奪われることがサニアには許せない。特に、レインを繋ぎ止めておくリヴが憎かった。


「あの女がいるから……こんな村があるから、レインは戻ってこない」


 どうしたらレインを取り戻すことができるだろうか、と考えていた彼女の視界に、村の背後に聳え立つ火山の姿が入った。その深部には、今は静かに眠っているものの、熱く燃え上がるエネルギーの力を感じる。

人間の生死に天使は手を出すことができない。でも、人間以外のものになら、それは自然の摂理として受け入れられる。

 サニアの脳裏に、一瞬だけ先程見たレインの真剣な表情が浮かんだ。でも、すぐに頭を横に振り、その映像を消し去る。


「レインが悪いのよ」


 サニアは、躊躇することなく、天使としての力を火山の深部へと向けた。

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