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《天界禁書》天使の羽根~雨の天使は盲目の少女と出会い、愛を知り、禁忌を犯す~  作者: 風雅ありす
【第七羽】罪罰 ―運命という名の無慈悲な波濤―

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二、目には見えない闇

『魂の選定を受け、悪と判断されれば相応の罰を受ける。どちらにせよ、最終的には輪廻の輪へと戻すことになる。そういう定めだからな。天界で習わなかったのか。

……まぁ、そもそも救いの天使であるお前には関係のないこと。

それとも、天使ともあろうものが、人間ごときに情が移ったか』

『黙れ。お前には関係ない』


 闇が嬉しそうに身を震わせる。笑っているのか。


 だが、死の天使が言うとおり、人間の死に天使が直接関わることはできない。死の天使も、人間の死の匂いを嗅ぎ取ってやって来てはいても、その命を奪ったり延命したりということはできないのだ。人間の生死は自然の領域であり、手出しをしてはいけないというのが神と天使の間に交わされた契約だ。


『せめて、苦しまないようにしてやってくれ。……頼む』


 死の天使は答えなかったが、マルクスの死に顔は、とても穏やかな表情をしていた。


 ナナの母親は、目的地へ着く前に見つかった。二人でレインにお礼を告げると、葬列へと戻って行く。その仲睦まじい母娘の姿が、レインの目には、イリーナとリヴの姿に重なって見えた。彼女を救えなかった自分を改めて悔やむしかない。親族も兄弟もいないリヴは、マルクスが死んで独りぼっちになってしまう。一見気弱そうに見えて芯の強い子だ、一人でも強く生きていくだろうとは思うが、今は誰かが傍に居てあげるべきだろう。そう思って葬列を見渡してみるが、そこにリヴの姿はない。先頭を進むマルクスの傍にいるものだとばかり思っていたが、そこには、担架を運ぶ数人の男と村長と、ディルクの姿しかない。レインは、ディルクに近寄って聞いた。


「ディルク、リヴはどこだ」

「知らない。お前が一緒だったんじゃないのか」


 レインの胸がざわつく。いつものリヴなら、マルクスの傍を離れない筈だ。何かあったのだろうか。

ディルクは、そんなレインの心を見透かすように目を細めて言った。


「あいつは、お前が思っているほど強くない。一人にするな」


 思わぬ言葉を投げ付けられて、レインは理由の分からない苛立ちを感じた。


「どうしてお前が行かないんだ。リヴのこと、想っているんだろう」


 ディルクは、その言葉に一瞬傷ついた顔をして顔を伏せると、俺じゃダメなんだ、と呟いた。進行方向に目的地の墓場が見えてきていた。幾つもの墓石が立ち並ぶ中、そこにマルクスを埋葬するのだ。


「俺はマルクスを見送る。頼む、あいつの傍にいてやってくれ」


 レインは、頷いて見せると、葬列を離れてリヴを探しに行った。


 村中を探して回ったが、リヴの姿はどこにもない。リヴの家も真っ先に探したが、もぬけの殻だった。他にリヴが行きそうなところはどこだろう、と考えるが、全く見当がつかない。レインは、自分がリヴのことをあまりよく知らないことに気付いた。


(他にどこへ行くっていうんだ)


 もしかしたら、探しに戻った自分とすれ違いになり、墓場へ向かったのだろうか。そう思って戻ろうとしたレインの耳に、人間では聞くことのできない音が聞こえてきた。それは、天使としてのレインだからこそ聞き取ることができた小さな小さな声だった。


 背後に砂の音………ではなく、潮騒の音が聞こえる。そして、レオンの助けを求める声が逼迫して時間がないこと告げている。レインは、一瞬で背中に白い翼を現出し、声が聞こえてくる方へと跳躍した。


 リヴは、一人で膝を抱えて泣いていた。いや、正確には一人ではない。彼女に寄り添うようにレオンが身を伏せて、リヴの顔を見上げている。そのつぶらな瞳には、今までに幾度か目にしたリヴの涙が映っていた。犬であるレオンには、何故リヴが一人きりで泣いているのかわからない。ただ、リヴの痛いほどの悲しみは匂いで伝わる。自分にできることは、こうして彼女に寄り添い離れないことと、その頬に流れる涙を舐めてあげることくらいだ。


 リヴが立ち上がった。目の前は、切り立った崖になっており、その眼下にどこまでも広がる紺碧の海が広がっている。でも、その光景をリヴが見ることは出来ない。

彼女は、暗闇の中にいた。いつもその暗闇の中で一人きりだった。孤独な彼女を励まし、生きる目的を与えてくれていた父はもういない。村の人たちはリヴに優しかったが、リヴの心はいつも孤独だった。


――何故、私だけ目が見えないの。

――何故、私だけ母がいないの。

――何故、私だけ辛い目にあうの。

――何故、皆私を可哀想な子として扱うの。


 主の不穏な気配を察知して、レオンが吠えた。けれど、リヴの耳には届かない。まるで違う世界の出来事のように何も感じなかった。何故か頬を伝う涙の理由もよくわからない。ただ、ひどく疲れていた。身体だけでなく、心が疲弊していた。これまで必死に耐え忍び、前を向いて歩いて来た。でも、今はどこに向かって歩いて行けば良いのか分からない。リヴは、ためらうことなく一歩足を前に踏み出した。


 身体が支えを失い、空を切って落ちていく。塩でべたつく風がリヴの身体を覆う。どれくらいの高さがあるのかリヴにはわからなかったが、落ちていく時間がやけに長く感じた。これまでの記憶が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えていく。だが、そのどれもがリヴを引き留める理由にはならなかった。


 海面に叩きつけられる衝撃でリヴは気を失った。冷たい海水がリヴの肺を満たしていく。リヴは、深く、深く、海の中へと落ちていった。



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