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シャチのステラ

作者: なをゆき

神戸の水族館がリニューアルオープンしたという。

水族館の目玉はシャチが芸を見せてくれるというものだ。

オープン前のキャンペーンは東京のテレビの情報番組でも何度も放送している。


新しい水族館のシャチの名前は「ステラ」と「ラン」という話題が紹介された。

このステラは名古屋の水族館から来たのだそうだ。ランは千葉から。


「ステラ?あれ?あのステラ?」


ステラは十数年ほど前には千葉の水族館にいたシャチの名前だ。


私は目の前にあったスマホで「ステラ」「シャチ」と検索した。

「そうか。あのステラはまだ生きているんだ」


ステラは三十数年前に捕獲され日本にやってきて千葉の水族館で暮らしていた。

彼女は多くの子を産んで今の日本のシャチの血統の中心にいる肝っ玉母さんだ。

そう、私は千葉にいたころの彼女を知っているのだ。


 私は千葉へステラに何度か会いに行っていたのだ。当時付き合っていた洋子とともに。


 当時新卒で就職した会社で入社まもなく妙に気が合う洋子と私は付き合うことになった。

はじめて遠出の旅行に行こうよ、となった時に「千葉の鴨川でシャチが見たい」という洋子のリクエストに応えてドライブしながらシャチを見に行ったのだ。

 シャチの姿が見ることができるレストランで何を食べたか忘れてしまったが、シャチを撫でてみようというイベントに二人で触らせてもらって、シャチのつるつるのゴムのような肌触りはかなり明確に覚えている。


 結局、洋子とは結婚とまではいかずに別れてしまった。

 私が支社勤務で遠距離になっていたことであまり会うことができず気持ちが離れてしまい別れてしまった。


 それでも携帯電話の番号はお互い知っているし、その時から番号は変えていない。

 しばらくして、洋子が結婚したらしいという情報を同僚からが聞いたが洋子から直接そのような話を聞いたのは数年経ってからの話だ。


 よりを戻そう、というのは考えてなかったが、「話の合う相手」という点においては申し訳ないが私が結婚した妻より洋子の方が上だろう。

 洋子とはLINE交換も一応したが頻繁にはしていない。年に数度、お互いが相手の好きそうなネタを拾ってくるとLINEする程度だ。あくまで「話の合う話し相手」以上の感情はもはやないのだ。もう二人で直接会おうなどというものは無い。


 私は早速、洋子宛にLINEをしてみる。

「神戸に行ったシャチって、ステラなんだね」

……2時間ほどして返答が帰ってきた

「ステラも名古屋から来たんだよね~。娘のランちゃんと再会なんだよね」


 そうか。私はランというシャチを知らなかった。だけど、洋子はランを知っている。

 私は洋子とシャチを見に行っていたとき以来水族館にシャチを見に行ったことはなかった。   

 ランは私と洋子が二人でシャチを見に行かなくなってから生まれた娘なのだ。


またもう少しして洋子からのLINEがきた。


「千葉のラビーは元気かな」

そうそう、そんな名前のシャチもいたっけ。

ラビーはステラの娘。この名前は覚えている。


洋子はシャチの事が好きだというのは相変わらず変わってないんだな、というのが懐かしく感じられた。


「今度見に行こうよ」

私は洋子に向けてそんな言葉を打ってみた。


しかしその一言は送信はしなかった。

どうせ会ったところでしがないおっさんとオバチャンである。何かが変わるようで変わらないだろうし、変わらなくて良いものが変わってしまうかも知れない。


「シャチは長生きだなあ」

とにかくシャチ達が新しい場所でいつまでも元気に生活できるといいな、と思っていた。
















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