死
古代フランスに於いて、身分差は明確なものとなっていた。その結果数々の争い・革命が勃発、フランスは完全に荒れ果てていた。
そのフランス国民の内の一人、ヘ・モ・ヘモヘナーゼとは、他でもない私のことである。
――私は死んでいた。厳密に言うと死んだのではない、しかし死んでいた。永遠の暗闇の中では私は直立していた。時間の流れ・進化の流れ・発達の流れからは完全に取り残され、残るのはただの絶望・失望だけであった。
私の精神はもともと屈強であった。しかしフランスで先述の争いが始まってからは、少しずつ削られていきやがて脆弱で頼りないものとなった。
その精神はさらに崩壊していった。私の周辺の人々は次々と自殺を犯しはじめ、現世に取り残された私はどんどんと寂寥になっていった。
そしてとうとうその寂寥は私を殺めはじめた。私は悲鳴もあげずただじっとしてなされるがままだった。どう足掻いても寂寥を取り除くことは出来ない。その考えが私を諦めさせた。私は名高い貴族だった。上流階級で生まれ、何不自由なく過ごしてきた。数々の教養と知識を身につけ、社交界での人気は最高級であった。――しかし……。フランスが壊れ始めてから、私も壊れ始めた。気品のある性格は少しずつ崩れていき、最終的には口にしたことのなかった酒を毎日浴びるように飲み、あらゆる建造物を殴り・蹴りするまでになっていた。しかし『最終的』という形容詞はここでは相応しくないかもしれない。何故なら今でもその崩壊は続いているのだから。
そして……。私の脳裏には、楽しかった今までが浮かんでいたのであった……。そう、私の脳内では未だに過去の出来事が揺曳しているのだ……。
――幼き頃の私は、美しい顔と性格を持っていた。小学校での私は周りとは明らかに違った光り輝く生徒であった。たくさんの友達をつくり、教師との信頼関係を築き、家では母が遊んでくれる……。何不自由ない、非常に楽しい毎日であった。
あの、他人からの尊敬の眼差し……。あれほど気分のいいものといったらなかった。それもこれもみんな、きちんとした環境を整えてくれる父と母のおかげであった。皆からは羨望と嫉妬の視線もあった。だけれどそんなものは全く気にならなかった。たとえ何かあっても、必ず誰かが護ってくれる……。その頃の私は、客観的に見てみると一際我儘である。
そのうち、雛人形のような顔立ちの女を恋人とした。彼女は私のことを心から尊び、信頼していた。私は大して彼女のことが好きではなかったが、そんな態度を示す彼女を見ているうちに恋心が芽生え、いつのまにか最愛の仲となっていたのである。