第96話「尋問 -3-」
「お婆様、私をお呼びになった理由は何ですか?」
「貴女は魔族を知る必要があると思ってね。数分後に魔王軍の四天王二人がここにやってくるの。聞きたいことがあるらしくてね。」
ここは『魔導国ザリグルク』、魔術に力を注いでいる人族の国。魔導学園の学長室の中、一人の老婆と一人の少女がソファに座り、魔族の来客を待っていた。
「お婆様。なぜ宣戦布告を受けずに、降伏したんですか? 魔族は私の両親の仇だし、私…、魔族に国が好き勝手荒らされるの、我慢できないです…。」
少女は唇を噛みながら、老婆に言った。
「モニカ。私は学長として理性的な判断をしなければなりません。貴女の気持ちはわかります。貴女の両親は私の子供でもあるのですから。しかし、魔族の力は強大。連合国との戦争を考えれば、私人族の魔術で勝てる相手ではないことは確かです。死を恐れることは恥ではありません。私たちは、生きなくてはならないのです。」
モニカと呼んだ少女の頬を撫でながら、老婆は少女を優しく諭した。
「わかり、ました。」
目を瞑り、感情を抑えながら少女は返事をした。数日前、魔導国ザリグルクは魔王軍からの宣戦布告に対して、降伏を申し出た。魔術に関して人族の中で進んでいても、魔族に勝つことはできない。そう判断した張本人はこの部屋にいる老婆だった。
「失礼する。」
美しい男声が扉越しに響いた。扉が開いて現れたのは魔族二人。額に魔石角が二本綺麗に生えた美丈夫の魔族。額に小さな魔石角を生やした騎士の魔族。
「ようこそ。どうぞ座ってください。モニカ、お茶を用意してくれるかしら?」
「は、はい。お婆様。」
モニカは現れた二人の魔族に眼を奪われながら茶の準備をする。二人の魔族の纏う雰囲気は鋭く、そして理性と野生を合わせた緊張感のあるものだった。
「僕は魔王軍四天王『鏖術』プラグマ・キシュルネライト。」
「同じく、四天王『樂剣』ゼベルト。」
魔族二人は椅子に座り、自己紹介をした。
「これはご丁寧にどうも。私はザリグルク魔導学園学長『マリアンヌ・モルヴァン』。今日は楽しいお茶会にしましょう。」
わかりやすい冗談に、ゼベルトとプラグマは苦笑いをする。二人が話しにきた内容とは、もちろん賢者についての質問。進み方によってはマリアンヌの命が落ちる可能性があった。
「ど、どうぞ。粗茶ですが…。」
声と手を震わせ緊張を纏いながら、モニカがお茶を机に置いた。
「ありがとう、お嬢さん。」
親しく礼を言うプラグマ。
「どうも。」
ぶっきらぼうに礼を言うゼベルト。モニカはお茶を出し終わり、マリアンヌの隣に座った。
「そちらのお嬢さんもご一緒ですか?」
プラグマは少し嫌そうに質問をした。
「ええ、この子は『モニカ・モルヴァン』。私の孫です。身内贔屓に聞こえるかもしれませんが10歳にしてこの学園で最も優秀な魔術使いです。」
「ほう。」
少し、プラグマは興味を持った。対してゼベルトはお茶を飲んで、舌を潤していた。
「この子の経験といて、魔族のお二方を見させて頂こうと思いまして。」
「なるほど。経験は重要ですからね。モニカお嬢さん。魔族の僕が思ったよりも理性的に話すのを見て、驚いているのではありませんか?」
プラグマは嫌味な皮肉を言った。
「い、いえ。そんなことはないです。」
否定するモニカだったが、少し無理があった。彼女は両親を魔族に殺されている。彼女は魔族をもっと野蛮で愚かしい存在だと思っていた。
「ご歓談もここまでにしよう。マリアンヌさん。本題に入っても?」
ゼベルトが茶の入ったカップを机に置いて、話を遮った。
「そうですね。老婆にとって時間は貴重ですしね。」
自虐を言ってはにかむマリアンヌ。ゼベルトと違って彼女には余裕があった。
「では、私から質問させていただきます。マリアンヌさん。貴女は賢者と繋がっている。魔族と人族の戦争によって大陸を調整し、賢者と共に人族の国王、そしてその身分に準ずる者は大陸に調和をもたらしている。違いますか?」
この質問をするのは3度目。プラグマとゼベルトは3度目の正直となることを願っていた。
「な、何を言ってるんですか? 賢者となんて…。」
「お前には聞いてない。」
「は、はい。」
驚きで口を開いたモニカをゼベルトが黙らせた。
「…その質問にはお答えできません。お二方。」
マリアンヌは静かに言った。
「そうですか、では無理にでも答えてもらいましょうか。」
プラグマがゼベルトに視線を送る。それだけで、ゼベルトは横に置いた『魔喰らいの剣』を抜いて、モニカに向けた。
「答えなければ、お孫さんの命は無い。」
ゼベルトが冷酷に言った。モニカ体を動かすことも声を出すこともできなかった。ゼベルトから向けられる殺意は本物だった。
「…そうですか、しかし私には答えることができないのです。逆に、私からなぜそんな質問をするか、お二方に聞いても?」
マリアンヌは変わらず冷静に言葉を紡ぐ。
「質問をしているのはこちら側だ。答える義理はない。」
「そうですか…。」
孫の命がかかっている状況でも、マリアンヌはお茶を飲む余裕すらあった。
「貴方がたはアドナロ王国の王にも同じ質問をしたのでしょう?」
「…そうだが?」
プラグマもゼベルトも隠すことなく言った。
「ならば、その質問に答えることがどう言うことか、そして私がその質問に物理的に答えられないことはわかるでしょう?」
「契約魔法の影響で答えようとした時点で死ぬ。だから答えられないということか?」
ゼベルトが推察する。
「その質問にも、私は答えることができません。私は一切合切のことを貴方がたの質問に返答することができないのです。こうして、喋っていることも綱渡りの状態。ここまで話せば、貴方がたも私の言わんとすることがわかりますか?」
マリアンヌが初めて怒りを言葉に込めた。彼女の視線の先にあるのは、モニカに向けられたゼベルトの剣だった。
「ゼベルト…。」
プラグマに言われ、ゼベルトは剣を降ろした。殺意から解放され、モニカは冷や汗を流し、肩で息をする。
「では、質問を変えましょう。契約魔法を乗り越えるにはどういった方法がありますか?」
プラグマが質問を変え、どうすれば答えられるようになるかを聞いた。
「契約魔法を乗り越える方法ですか…。私は残念ながらそれを知りません。しかし研究する場なら設けられますよ。この学園をお使いください。」
マリアンヌは床を指差した。
「なるほど、僕ら自身で調べろと…。」
「ええ、契約魔法の研究。過去に先行研究がないとは言いませんが、確証のあるものは一つもございません。なので貴方がたで調べてください。もちろん、非人道的な研究になるでしょうね、無論私は手伝いません。貴方がたで研究をしてください。」
キッパリとマリアンヌは言い放った。
「フッ。屈強な老人だ。亀の甲より年の功とはこのことか。」
「褒め言葉として、受け取っておきます。」
笑い合うプラグマとマリアンヌ、しかし二人の眼は笑っていなかった。
「ゼベルト、帰ろう。」
プラグマが席を立つ。ゼベルトも剣を鞘に収め、立ち上がる。
「おや、もうよろしいのですか?」
「ええ、もう聞くことはありませんから。」
プラグマはそう言って扉を開ける。最後にゼベルトはマリアンヌとモニカに一瞥を向けた。そうして二人は学長室から退出した。
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「プラグマ。研究の方はお前に任せてもいいか?」
「ああ、もちろん。君は研究材料を取ってきておくれよ。なるべく、健康な方がいい。」
「わかった。ただできるだけ寝覚めが悪くならなそうな人族でいいよな?」
「ああ、そこは君のやり方に任せる。」
魔導学園の廊下を二人の魔族が歩く。二人の顔と声は覚悟に溢れていた。
一旦更新はここまでです。また書き溜めができたら投稿再開します!!




