第92話「隠し事」
拝命の儀が終わった後、フィリアル様とプラグマさんはフィラウディアさんを連れて事務仕事に取り掛かった。ゼベルト様とヴェルニャさんは日課の鍛錬をしようと、アドナロ王国の訓練場に足を運んだ。当然、私はゼベルト様の隣についていく。
訓練場にて、ゼベルト様とヴェルニャさんの鍛錬が始まろうとしていた。私は新しい『魔喰らいの剣』ゼベルト様から、を預かる。
「ゼベルト様。ゼベルト様。」
「ん? どうしたアニア。」
私は小さな声でゼベルト様に話しかける。
「何か、私に隠していることがありませんか?」
率直に、私は聞いた。アドナロ王国に急遽戻ったこと、そして拝命の儀の最中、ゼベルト様が何処か悦び切れていなかったこと。この二つがゼベルト様に対して私に違和感を感じさせた。
「ああ、俺はアニアに隠し事をしている。」
「やはり、そうなのですね。」
悲しみはなかった。どちらかというと、私はゼベルトの隠し事を見抜けたことに嬉しさを感じていた。
「悪いが、まだアニアには言えないことなんだ。だけど、いつか必ずアニアに話す。そしてその時に俺は絶対にアニアに力を貸してもらうことになると思う。」
ゼベルト様が私の両肩を掴んで、まっすぐに眼を合わせる。嗚呼、その紺色の瞳に吸い込まれてしまいそうです。
「アニア。俺からちゃんと秘密を明かすから、その時まで待ってくれないか?」
「はい、『待て』もちゃんとできるアニアですから。」
久しぶりにこの返答をした気がする。ゼベルト様は私の返答を嬉しさ半分、申し訳なさ半分といった表情で受け取ってくださった。
「おーい、お二人さん!! アチアチなのはいいけど、そろそろ鍛錬しようよ〜。」
ほっぽり出してしまっていたヴェルニャさんが、痺れを切らして声をかけてきました。ああ、ゼベルト様の両手が私の肩から離れてしまう。もっと体温を感じていたいのに。
「ああ、悪い。」
ゼベルト様がヴェルニャ様の方へ向かっていく。手には木剣を持っています。
「ニャに話てたの〜?」
「ん? 俺とヴェルニャ、どっちが強いかってさ。」
「ニャるほど。私的には五分五分かなと思ってるよ?」
「ああ、俺もそんな感じだ。」
ゼベルト様とヴェルニャさん、二人とも私よりも確実に強い。プラグマさんは強さが剣と魔術で別方向なので判断しずらい。ゼベルト様がどれほどの強さになっているのか、それを私は眼に焼き付けなければ。
「…。」
「…。」
ゼベルト様とヴェルニャさんが話すのを止めて、木剣を構えて向かい合う。
一瞬か、それとも一刻か、私には理解できない時間感覚が二人の間には流れていた。どちらも剣を振るわない。私の知る剣術ではもはやなかった。一太刀で全てが決まる。そんな剣術がそこにはあった。
「…ッ!!!」
「ハッ!!!」
同時に二人が動いた。いや、私にはそう見えただけ。
「ニャハハ〜、私の負けか〜。」
ゼベルト様の持つ木剣がヴェルニャさんの首に添えられていた。ヴェルニャさんの剣はゼベルト様の体に当たる直前で止まっていた。
「フー。」
大きく息を吐くゼベルト様。
「いや、今のは相打ちだろ。もう一回やろう。ヴェルニャ。」
「りょうか〜い。」
そんな会話を交わして、二人はそれから何度も私では理解し得ない、一太刀だけの応酬を繰り広げた。
もっと、私ももっと強くならなければ、このままではゼベルト様の力になれない。ゼベルト様を視界に入れられないのは苦しい。それでもこの日、私は自らゼベルト様から離れ、一人アドナロ王城の図書室に行った。私はより強くなるため、呪術に関する情報を探した。そして、新たな呪術を習得すべく鍛錬に勤しんだ。
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「現在、魔王軍は旧チーマ都の廃街を拠点とし、我々連合国に宣戦布告をしてきました。先ほどの都市代表らによる多数決により、我々連合国はこの戦争を受けるものとします。」
連合国ドゥナロープ。首都ドゥナロープの大堂に集まった彼ら人族はそれぞれの都市の代表者たち。
「なお、魔王軍は一般兵を用いず、四天王と魔王のみで戦争をするとのこと。」
ドゥナロープの斥候が収集した情報がここで初めて、代表者らに公開された。
「実質5人のみということか?」
「いくら勇聖教会七星を倒したとはいえ、調子に乗りすぎだな。」
「この戦争既に勝敗は決しているな。」
代表者たちが勝ちを確信して笑った。
「こちら連合国の戦力はアドナロ王国の戦力の有に倍は超えている。隣国である魔術国家ザリグルクから魔術兵も雇っている。我らに敗北はあり得ない。」
その勝ち確信を言葉にして、皆の前で言ったのは連合国の総代表『ダヴィド・ドンジェ』。彼の精悍とした表情には一縷の満身もなかった。
「では、ここからは勝利後の物資、そして魔族らの処遇について議論して行きましょう。」
司会も笑いながら、勝利後の議論を始めるべく音頭をとった。この大堂にいる誰もが、このときは勝利を疑っていなかった。無理もない、万を超える軍勢と5人。その勝敗は幼子でもわかるほど明らか。そう、それは火を見るよりも明らかなこと。しかし彼らが真に見ることになったのは、自らの軍勢が垂らす雨のような流血だった。




