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第90話「尋問」

「食べのないのかい? 国王サマ?」

「…。」

アドナロ王城。30人は座ることのできる長い食卓に、二人分の慎ましい食事が置かれ、一人の魔族と一人の人族が座っていた。一人の魔族とは魔王軍四天王プラグマ・キシュルネライト。一人の人族とはアドナロ王国国王アドナロ・オーギュスタン。若者と老人。二人は対面して座っている。しかし置かれた食事は対照的。プラグマが副菜の皿を空にして、主菜の皿も半分食べ終わっているのに対し、オーギュスタンは何一つ口に入れていなかった。


「キシュルネライト。早く要件を離したらどうだ。」

何も答えずにプラグマは肉にフォークを刺しナイフで切る。そしてフォークに刺さった肉を口に入れた。

『ドンッ!!』

響いたのはオーギュスタンが両拳で食卓を叩いた音。

「茶番はやめろ!! いい加減に要件を話したらどうだ!!」

「要件? 僕は国王と話したいだけだよ。『友好的外交』に則ってね。」

「友好的だと? ハッ、笑わせる。虚偽の書類で国民を誑かした貴様らに友好など持つはずがないだろう。」

「はあ、食事は慎ましく摂りたいものなんだが…。」

やれやれ、そう言いながら、やっとプラグマはオーギュスタンを視界に入れた。


「単刀直入に聞こう、国王。貴方は賢者と繋がっているのではないか?」

「…。」

プラグマの質問にオーギュスタンは驚きではなく沈黙を選んだ。

「沈黙は肯定ととってもいいかい?」

プラグマはナイフをオーギュスタンに向けて言った。

「賢者とは、勇者と聖女を導く、あの賢者ということか?」

「ああ、その通りだ。」

また沈黙が訪れる。プラグマはため息を吐いて、肉をまた一口食べる。


「賢者とは勇者と聖女を導き、人族に卓越した技術をもたらす者。一国の王である我が賢者と繋がっているはずがないだろう。」

オーギュスタンは静かに言い放つ。

「魔王は賢者と繋がっていると言ったら?」

プラグマが言い放つ。三度、沈黙が訪れた。


「そんなこと、どこで聞きつけたか知らないが、私は賢者と繋がっていない。」

冷や汗を垂らしながら、オーギュスタンは答えた。

「魔王が賢者と繋がっている、ということに拒絶反応らしきものを示さないとはね。それはもう一国の王は賢者と繋がっていることを肯定していないかい?」

詰めるプラグマ。真っ直ぐにオーギュスタンを見つめた。


「…私は、これ以上何も答えることはない。」

オーギュスタンはそう言って、席から立った。

「ほう、これでも?」

言って、プラグマが指を鳴らした。すると部屋の扉が開き、そこには一人の魔族と一人の人族が立っていた。一人の魔族はゼベルト。一人の人族はアドナロ王国の姫『アドナロ・リシュエンヌ』だった。

「ンンンー!!」

リシュエンヌは目隠しと口枷をされ、その両腕を拘束されている。ゼベルトはそんな彼女の首に剣を添えながら、部屋に入った。

「なっ、貴様ら!!! なんということを!!!」

当然、オーギュスタンは激昂する。姫はオーギュスタンの一人娘。早くに死んだ女王が残した唯一の肉親だった。


「動かないで、僕の質問に答えてくれ国王。君は賢者と繋がっており、戦争の結果を事前に知らされていた。国王ほどの身分の者は賢者と繋がり、戦争を操作して、賢者の教えで大陸に安定をもたらしている。違うか?」

プラグマが魔杖を国王に向けて問うた。

「…。」

もし自分が答えなかったら、娘がどうなるか、オーギュスタンは理解している。

「答え、られない。」

絞り出した返答。汗を大量にかきながら、オーギュスタンは言った。


「残念だよ。」

プラグマが言うと、ゼベルトが剣をゆっくりと引いていく。剣によってリシュエンヌの目隠しと口枷が外れて、滴る血と共に彼女の顔が顕になった。

「お父様!! 助けてください!! 痛い!! 死にたくない!!」

少女の悲痛な叫びが響く。

「わかった!! 答える、答えるから娘に手を出さないでくれ…!!」

オーギュスタンの叫びを聞いて、ゼベルトは剣を止めた。

「お、お父様、うぐっ…。」

リシュエンヌはその場に泣き崩れた。安堵からか彼女の股下は湿り始めていた。


「さあ、答えろ。アドナロ王国、国王アドナロ・オーギュスタン。君は賢者と繋がっており、戦争の結果を事前に知らされていた。国王ほどの身分の者は賢者と繋がり、戦争を操作して、賢者の教えで大陸に安定をもたらしている。 そうだろう?」

プラグマが再度問うた。一度でもいい、この質問に対する「はい」か「いいえ」をゼベルトが聞ければ、その真偽が判明する。

「リシュエンヌ、愛しているぞ。」

オーギュスタンは最愛の娘に眼を向けて、震える声で愛を言葉にした。そしてプラグマの方に向き直り、質問に答えるべく、息を吸い込んだ。


「貴様の質問、それは、ま。」

『ドサッ。』

オーギュスタンが答えようとした瞬間、彼は床に倒れ伏した。

「お父様っ!!!」

娘の声が響き渡る。彼女は床に染みを作りながら、父親に駆け寄り抱きしめた。

「そんな、そんな、そんな!! お父様、お父様!!!」

オーギュスタンは既に息絶えて、娘の抱いている父親の身体は既にただの骸と化していた。その親子をプラグマとゼベルトは暗い眼で眺めていた。

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