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第89話「考察」

 ゼベルトはプラグマに呼ばれ、アドナロ王城の図書室に呼ばれていた。

「やあ、ゼベルト。待っていたよ。」

「悪い、ヴェルニャと鍛錬していて遅れた。」

軽く挨拶を済まして、二人は早速本題に入る。ゼベルトは嗅ぎ慣れない本の匂いに少し緊張していた。

「衝撃の事実を聞いてから三日、死に物狂いで色々と調べたよ。」

プラグマの端正な顔の目元にクマができていた。

「そうか、ありがとう。ここで話しても大丈夫なのか?」

「大丈夫だとも、人払いは当然済ませてある。」

プラグマが微笑む。きっとこの微笑みで人族からも好印象なのだろうと、ゼベルトは思った。


「君が言った『魔王様が新しい勇者に殺される』。これは歴史を振り返ってみても否定できないことだった。」

プラグマが本を手で遊ばせながら話し始める。ゼベルトは黙って聞くのみ。

「ここ500年ほどの歴史書を振り返ったが、どの魔王も先代魔王を殺した勇者には勝っているが、その次の勇者、新しく現れた勇者には勝てず、敗北し、死んでいる。」

ゼベルトは驚かない。魔族と人族は戦争を繰り返し、領土を奪い合っている。これは疑いようのない歴史なのだから。

「歴史書を振り返って、僕が気になったのはただ一つ。魔王が新たな勇者に殺される。これが規則的な周期で起こっているということ。」

指に魔素を溜めて、宙にプラグマは文字を書き始める。

「まず、


新たな魔王が現れ、勇者を殺す

魔族が領土を奪い、魔族の領土が広がる

20年間魔族の時代が続く

新たな勇者が現れ、魔王を殺す

人族が領土を奪い返し、人族領が広がる

60年間人族の時代が続く

最初に戻る


 このような感じにね。ご丁寧に人族の時代は一般の寿命と同じ期間だ。」

プラグマの手によって宙に書かれた年表を見て、ゼベルトはプラグマの言いたいことを理解した。

「確かに周期的で胡散臭さはある。でも偶然じゃないのか? なんか自然の摂理で1つの種族が覇権を取るのは、最長50年に集約するとか…?」

ゼベルトは頭を捻らせて、一応の意見を言った。当然、プラグマは反論に対する答えを持っているだろうと信頼を含めて。


「ああ、偶然かもしれないとは僕も考えたよ。ただ、500年間だ。10回この周期は続いている。必然じみたものを、僕は感じるよ。」

プラグマは眉をひそめ、自身の片手に持つ歴史書を睨む。そしてゼベルトにその視線を向けて話を続けた。

「君が僕に伝えた、もう1つのこと。『魔王様が賢者と以前から繋がっていた』。これを踏まえると、まずますこの周期が怪しく見えてくる。何者かが得をするために、この周期で世界樹大陸という世界は回っているのではないか。僕はそう考えたよ。」

プラグマに見つめられながら、ゼベルトはまた反論を考える。

「何者かが得って…。一体誰が? 魔族も人族も死ぬんだから得もクソもないだろ。獣族や亜人族だって戦争によって住処を失ってる。俺には得するやつなんているとは思えないけどな。」

言って、ゼベルトはプラグマの顔を見る。そしてプラグマの表情を見て、ゼベルトはプラグマの求める反論をしたのだと理解した。


「何者かが得をする。その何者とは『世界樹大陸』自身だと僕は思う。」

「大陸が? 全く意味がわからん。」

ゼベルトはお手上げの表情と仕草をする。

「大陸に意志があるとか、そういう意味じゃなくて…。大陸が一定の状態で安定する。こういう言い方をすればわかるかい?」

「安定…。戦争が起きてるのにか?」

ゼベルトはまだプラグマの真意を読み取れない。

「そうだな、『キリア神話』は知っているね?」

「ああ、それくらいなら知ってる。魔族、人族、獣族、亜人族。すべての種族が争っていたのをキリア神が止めて、平穏を取り戻した。って具合の神話だろ?」

「じゃあ、その神話の中の争いについて、教えよう。」

プラグマは指で宙に絵を描き説明を始めた。魔族一の貴族なだけあって、どの種族の絵も上手かった。


「君の言うとおり、すべての種族が争いあっていた。その当時、魔術も技術もない。生きる者たちは皆、身体に満ちる魔素と力を持て余し、思いの限り暴れ尽くしていた。それこそ、すべての生き物が共倒れして絶滅するほどにね。もちろん神話である以上、信じるか信じないかはまた別の話だが、過去のことについての歴史としてこれ以外には見つからない。」

プラグマの話を聞いて、ゼベルトも少しずつプラグマの真意に気づき始める。

「生き物が絶滅する…。大陸が得をする…。俺たちの戦争はすべての生き物を殺すほどじゃない…。賢者と魔王が繋がっている。当然、賢者は勇者とも繋がっているはず…。」

「うん、その調子だよ。ゼベルト。」

プラグマはゼベルトの思考が決するのを待つ。


「つまり、魔族と人族が戦争をしているぐらいなら、大陸の生命は滅ばない。だからあえて魔族と人族に戦争をさせているのが賢者っていうことになるのか?」

「ああ、正解だよ。」

プラグマが小さく拍手をした。ゼベルトは小恥ずかしさを感じた。いつの間にか二人は先生と生徒のようになっていた。

「補足すると、人族と魔族、お互いに憎み合う関係はある意味健康的とも言える。同族間での争いは起こりにくくなり、日常の鬱憤をぶつける相手が概念的に定まるからね。憎む相手がいるというのは、その者の精神を安定させることに繋がる。」

プラグマの言っていることは難しかったが、ゼベルトはなんとか理解した。


「そして戦争というのは悪いことばかりではない。共通の敵を種族内で作ることで、その種族の結託はより強いものとなる。そして繁栄期と衰退期が周期的に訪れることで、その種族の数も増えすぎることはなくなる。戦争というモノを使って、種族は安定し、大陸も安定する。」

呼吸を大きく吸って、プラグマは話を終わらせる。

「これらを賢者は狙って戦争を裏で手引きしているのではないか。加えて、賢者は人族に与える技術を制限することによって、種族の発展の速度を制限し、急速な世界の変貌を抑制しているのではないか。これが僕の考察だよ。」

プラグマの話をゼベルトはすべて理解できたわけではなかった。ただ、賢者という存在が戦争を手引きしている。その一点をゼベルトは重く受け止めた。


「賢者を殺せば、戦争はなくなるのか? 人族と魔族は友達になれるのか? 魔王様の夢は叶うのか? 君は今、そう考えたね、ゼベルト。」

プラグマがゼベルトの内心を言い当てた。ゼベルトは何もいえず、図星だと表情で伝えるのみ。

「そんなに簡単なことじゃないだろうね。人族たちは幼い頃から魔族を忌み嫌うよう教育されている。そして彼らは勇聖教会を信仰している。教育と信仰を乗り越えるのは楽じゃない。賢者一人をどうにかしたところで、すべてが変わるわけじゃない。」

プラグマははっきりと言い切った。

「ああ、そうだな。」

ゼベルトは言われて納得する。


「それにゼベルト。今までのことはすべて君と僕の妄想で終わることだってある。君が聴いたという魔王様と賢者の会話を事実だとする証拠はどこにもないし、僕の考察だって考察にしか止まらない。」

「じゃあ俺たちは何もかもを忘れて生きていくのか? フィリアルが死んでしまうかもしれないのに?」

ゼベルトは食ってかかり、彼の襟を掴んだ。フィリアルのことになると、ゼベルトは分かりやすく取り乱すのだった。

「忘れろ、なんて言わないさ。確かめよう、ゼベルト。方法はある。」

プラグマの言葉を聞いて、ゼベルトは掴んだ襟を離した。


「これは可能性に過ぎないけれど、魔王という魔族の王が賢者と繋がっているのなら、アドナロ国王という国の王も賢者と繋がっているかもしれない。」

「そして俺たちはアドナロ王国を捕らえている…。なるほど、国王に聞けばいいのか。」

「ああ、その通りだよ。」

襟を直しながら、プラグマはゼベルトの考えを肯定した。

「いや、待て。命を賭けた契約魔法を交わしているかもしれないって、お前言ってなかったか?」

「ああ、言ったよ。でも魔王様以外の命なんて、どうでもいいじゃないか。違うかい? ゼベルト。」

静寂が二人を包む。本を照らす照明が二人に影を落としている。その影の一方は静かに首を縦に振った。

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