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第8話「救われた少女」

「おーい、ゼベルトさん。起きてるかい? あんたにお客が来てるよ。」

暖かく懐かしく、そして冷たく心引き裂かれるような思い出を夢見た気がするゼベルト。貸家の女将がゼベルトを扉越しに起こしにきていた。

「…今、起きましたよ。」

寝ぼけ眼を擦りながら、ゼベルトは剣を腰に下げ、扉を開く。今日の寝覚めはあまり良くない。あの日から心に灯った火はずっと燻っている。

「ゼベルトさん、あんた結構すごい人だったんだね。今まで見たことないくらい高級な服着た客が来てるよ。」

「いや、俺も心当たりはないんですが。」

階段を降り、貸家の受付に行く。


「おはようございます、ゼベルト様。私の名前は『アニア・メルクル』。三日前、貴方に命を救ってもらったものです。」

受付にいたのは、貴族の少女とその執事だった。白髪と白い肌、赤い眼、耳飾りのような赤い魔石、確かに助けた少女と特徴は一致していた。しかし洞穴で見た彼女とは、見違えるほど、容姿が整っており、言われなければ気づかないほどだった。

「こちらは執事の『ヴェンデル』です。」

「ヴェンデルと申します。この度はお嬢様、いえ我が当主を救ってくださり、誠にありがとうございます。」

隣にいた長身の執事も挨拶をする。片方が折れた二本角の魔石角を携えている。


「いやあ、俺はメルクル様を医療所に運んだだけなので…。」

謙遜するゼベルト。

「メルクル様だなんて、アニアと、そう呼んでください。」

ゼベルトの手を取り、急接近して呼び方を変えるよう提案するアニア。初対面にしては距離が近く真顔なので気迫が凄かった。

「あー、わかりました。アニア?」

気迫に押され、ゼベルトは言われたまま彼女の名前を呼んだ。

「はい、アニアです。」

顔を緩ませ、満足そうに返事をするアニア。彼女の低めの声の調子も少し上昇していた。


「当主様、場所を変えた方がゼベルト殿も話しやすいのでは?」

ヴェンデルが低い声で提案をする。老練な執事、ゼベルトが見るに単なる角の折れた老人ではなかった。

「そうですね。ゼベルト様、喫茶店でお話しさせてもらっても構わないでしょうか?」

「あ、大丈夫です。」

よく分からない状況に置かれ、適当にゼベルトは答える。

「それでは、行きましょうか。ゼベルト様、敬語も使わなくていいですからね。」

「は、はい。」


 ゼベルトが連れてこられたのは、喫茶店というには、やや豪華な食事店だった。

「珈琲を二つ、ゼベルト様は如何いたしますか?」

「あー、じゃあ同じものを。」

品書きに書かれているものが、ゼベルトにはほぼ何かわからなかった。

「では、ゼベルト様。単刀直入にお願い致しますね。クルメル家の、この私アニアの『騎士』になっていただけませんか?」

真っ赤な瞳にゼベルトを映し、アニアは要件を話した。

「何でそんな提案をするんだ?」

アニアからは終始『嘘の音』が鳴っていない。ゼベルトも真剣に話を聞くことにした。


「ゼベルト様には命を救っていただきました。私はこの命を貴方に捧げたいと思っています。そして貴方のためを考えると、当家の『騎士』になっていただくことが、最も恩返しになるのではないかと思いまして。」

「俺のため?」

ゼベルトの目的は魔王軍に入ること、騎士になることに利点を感じ辛かった。

「はい、僭越ながらゼベルト様のことを調べさせていただきました。2年半前、この湖畔街エカルに移住。そして周辺の魔族狩りを狩り、『無音』と呼ばれるほどになりました。魔族狩りを狩る理由は、人族を恨んでいるから。そしてここで名を馳せ、魔王軍に入り、さらに人族を殺すため。違いますか?」

三日でよくここまで調べたな、そうゼベルトは思った。


「ほぼ正解だな。魔王軍に入りたいのはその通りだよ。」

珈琲が三つ運ばれてきた。店員が丁寧な所作でそれを置いていく。

「やはりそうでしたか。魔王軍に自己推薦を出した名前の中に、貴方のものがありました。そして試験に落ちた記録も。」

珈琲を一口飲むアニア。

「だからエカルで一生懸命やってたんだけどな。」

ゼベルトも珈琲を飲む、時折飲む安物とは比べ物にならないほどの美味さだった。

「残念ながら、それは徒労に終わる可能性が高いのです。自己推薦を出し、試験に落ちた者が、魔王軍側から推薦された記録はありません。」

アニアが申し訳なさそうに告げる。


「ああ、やっぱりそうだったのか。」

ゼベルトは十分に名が知れ渡っていた、それでも魔王軍から何も連絡が来ないのは不自然だった。

「はい、なのでゼベルト様。当家の騎士になっていただきたいのです。そうすれば、当家が魔王軍に直接加入することで、貴方の目的達成が可能です。」

アニアが説明した後、ヴェンデルも珈琲を口にする。以上のことが話の全貌らしい。

「それは、願ったり叶ったりなんだが…。」

「何か不服でしょうか?」

アニアが少し不安げな表情をする。


「何でそこまで俺に尽くすのかってな。嘘を言ってないことは分かるんだが。」

もう一度、ゼベルトは珈琲を飲んだ。

「命を救っていただいた殿方に私の全てを捧げる。ただそれだけです。もし貴方が私に体を求めるなら、体を差し出しましょう。しかし貴方の求めるものは別にある、違いますか?」

アニアは珈琲を飲まなかった。

「その年で人生決めるには早いと思うけどな。」

他人事のように、ゼベルトは言った。


「こう見えても私は十四歳です。子供扱いしないでください、後悔なんてしません。」

宣言する少女、ゼベルトには誰かと重なって見える。ゼベルトは珈琲を飲み干した。

「分かった、騎士になるよ。」

「そうですか、では早速、当家に帰りましょう。ヴェンデル、馬車の準備を。」

アニアとヴェンデルが珈琲を飲み干した。

「はい、アニア様。ゼベルト殿も持っていきたいものがあれば、用意をお願いします。」

「え、いや、剣持ってければそれで大丈夫だけど。」

早すぎる展開にゼベルトは混乱する。

「では騎士様、馬車まで私を連れて行っていただけますか?」

アニアが真顔を崩し、少女らしい笑みを見せた。

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